第25話 梅田のグルメ

 ウメキタ珈琲を出ると、梅田の喧騒が俺たちを迎えてくれた。


「さてと、約束通り大阪グルメを堪能してもらうぜ!」


 俺は胸を張って宣言した。翔吾に借りを返すチャンスだ。

 ……当の本人はあんまり借りとか思ってなさそうだけど。


「うん、楽しみにしてるよ。それで、どこに行くの?」


「まずは――阪神百貨店だな」


 俺は迷わず方向を決めた。阪神百貨店といえば、大阪グルメの聖地の一つだ。特に地下の食料品売り場は、関西の美味いもんが集まってる。


「そんな百貨店が……まさに関西って感じだね」


「ああ、阪神って名前からして関西だよな。タイガースもあるしな。まぁ、今日の目当ては地下の食品売り場なんだけどな」


 俺たちは人混みを縫って阪神百貨店へ向かった。平日の午前中だというのに、梅田は相変わらず人が多い。でも、このエネルギッシュな感じが大阪らしくて好きだった。



     * * *



「着いたぜ!」


 阪神百貨店の地下食料品売り場に降りると、美味しそうな匂いと、活気ある売り子の声が響いていた。


「……すごい活気だね、百貨店とは思えない」


「だろ? 俺はむしろこれが基準だったから、横浜の百貨店は静かすぎて不気味に思ったくらいだ」


 俺は得意げに説明しながら、目指すコーナーへ向かった。


「よしっ! 大阪といえば、これは外せねぇな」


 俺が指差したのは、『551蓬莱』の売り場だった。いつものように行列ができている。


「551?」


「大阪名物の豚まんで有名な店だ」

 

「……豚まん? 肉まんじゃなくて?」

 

「あぁ、豚まんだ。食べてみりゃわかる、これは肉まんじゃなくて豚まんなんだ」


「??」


 翔吾は頭に疑問符を浮かべているようだったけど、とりあえず俺たちは列に並んだ。前に並んでる人たちも、みんな慣れた様子で注文している。観光客らしき人もいれば、地元のおばちゃんもいる。


「豚まん2個お願いします」


 俺の番になって注文した。出来立ての豚まんが紙袋に入れられる。湯気がほわっと立ち上がって、いい匂いがした。


「立食いスペースがあるから、そこで食べよう」


 俺たちは近くの立食いスペースに移動した。テーブルが何台か置いてあって、買ったものをその場で食べられるようになっている。


「いただきます」


 翔吾が豚まんを手に取った瞬間、


「あっつ――!」


「あ、気をつけろよ。出来立てだから」


 俺は笑いながら自分の豚まんを半分に割った。中から肉汁が溢れ出す。


「これこれ、この肉汁よ」


 翔吾も恐る恐る一口かじって、目を見開いた。


「おいしい! すごいねこれ、肉汁がジュワーって……」


「だろ? 皮もふわふわで、中の具もちゃんと味がついてる」


 俺も久しぶりに食べる551の豚まんに、懐かしさを感じていた。


「これが豚まんか……なるほど、たしかに肉まんとは呼べないね、これは」


「551は別格だからな。大阪土産の定番だよ」


 俺たちは熱々の豚まんをフーフー言いながら食べ終えた。


「よし! 次、行くか」


「まだあるの?」


「当たり前だろ。まだ始まったばかりだ」



     * * *



 俺たちが次に向かったのは、同じ阪神百貨店の中にある『北新地サンド』だった。


「今度は何?」


「牛カツサンドの名店だよ。北新地っていう――まぁ、大阪の……高級繁華街にある店の支店なんだ」


「牛カツサンド……」


 翔吾は興味深そうに看板を見上げた。


「牛カツサンド2つお願いします」


 注文してしばらく待つと、きれいにカットされたサンドイッチが出てきた。パンに挟まれた牛カツが、いかにも美味しそうだ。


「これも立食いで?」


「そうそう。そのための立食いスペースだからな」


 俺たちは再び立食いスペースで食べることにした。


「いただきます」


 翔吾が一口食べた瞬間、また目を見開いた。


「……これもすごい! 牛肉のカツって初めて食べたけど――柔らかくておいしいんだね」


「牛カツは中がレアなんだよ。外はサクサク、中はしっとり」


「すごい……パンとの相性も抜群だし、ソースも絶妙だね」


 翔吾は感動しながらサンドイッチを頬張っている。


「どうだ、大阪のグルメは?」


「最高だよ。もっとたこ焼きとかお好み焼きみたいな粉物を想定してたから、それ以外にもこんなにおいしいものがあるんだね」


 翔吾の素直な反応を見ていると、俺も嬉しくなってくる。別に俺がどうこうしたわけではないけれど、どこか誇らしい気分になってくる。


「最後にもう一つ、お土産も兼ねて行きたいところがあるんだ、オカンにも買ってこいって頼まれてるし」


「そうなんだ、ここから行けるの?」


「ああ、地下で繋がっているから――堂島まで行こう」



     * * *



 堂島に着くと、俺は迷わず『モンシェール』に向かった。


「ここは堂島ロールで有名な店なんだ」


「堂島ロール?」


「大阪名物のロールケーキだよ。めちゃくちゃ有名で、お土産にも人気なんだ」


 店内に入ると、ショーケースにきれいなロールケーキが並んでいた。


「堂島ロール2本、郵送でお願いします」


「かしこまりました。お送り先は?」


「神奈川県です」


 俺は伝票に自分の家の住所を書いた。


「へぇ、郵送もできるんだ」


「そうそう、便利だろ? よし、これで家に届くから、また食べに来いよ! 翔吾の分も取っておくからさ」


「……ありがとう。いただくとするよ」


 翔吾が心から感謝してくれているのがわかって、俺も満足だった。



     * * *



「そろそろ戻ったほうがいい時間だね」


 時計を見ると、集合時間まであと30分だった。


「よし、阪急梅田に向かおう」

 

 それから15分ほどかけて集合場所である阪急梅田の広場へ到着する。

 すでに何人かのクラスメイトが集まっており、みんな思い思いに大阪観光を楽しんだようで、土産袋を抱えている者もいる。


「まだ戻ってきてない人もいるみたいだね」


「ああ、でも集合時間まではまだあるし、すぐに来るだろ」


 俺たちも空いているベンチに座って、他のクラスメイトを待つことにした。


 時間が経つにつれて、だんだんと人数が揃ってきた。でも——


「あれ? 真夏ちゃんと……鷹宮さんは?」


 クラスメイトの女子の一人がそう呟いたのが、耳聡く聞こえてきた。


「そういえば、まだ戻ってきてないね」


「集合時間過ぎてるけど……」


 女子たちがざわつき始めた。担任の先生も、少し困った表情になっている。


「どうしたんだろう……」

「連絡は?」

「スマホに電話してるけど、繋がらない」


 だんだんと雰囲気が険しくなってきた。集合時間を15分も過ぎているのに、小鳥遊と葵の姿が見えない。


「――佐山」


 担任が俺を呼んだ。


「どうしたんすか?」


「お前……たしか関西に詳しかったよな? 探すの手伝ってくれないか?」


「おう、もちろん! 任せといてください」


 俺は即答した。葵が——いや、クラスメイトが困ってるときに、手伝わないわけにはいかない。


「助かる。途中まで一緒にいた生徒の話だと、どうやら地下街ではぐれたらしい」

 

「地下街か……」

 

 俺が何となく場所の当たりを考えていると、横から翔吾が口を挟む。

 

「あの、スマホで連絡はとれないんですか? いくら地下街とはいえ、電波は流石に通じるんじゃ――」

 

「……どうやら、2人揃って充電切れらしい。仲のいい生徒から連絡してもらっているが、なしの礫だ」


「それは……どうやって探せば……」


 確かに、大阪の地下街は複雑だし、範囲も広い。手がかりもほとんどない状況で、二人を見つけるのは至難の業だ。


 でも——


「何となく当たりはついた」


 俺はそう言って立ち上がった。


「え?」


「ちょっくら迎えに行ってくるわ」


「太一、一人で大丈夫?」


 翔吾が心配そうに聞いてきたけど、俺は大丈夫だと答えた。


「ああ、任せとけ。必ず見つけてくる」


 俺は集合場所を後にして、地下街へ向かった。

 

 葵と小鳥遊の関係性はわかんねぇけど……あの葵の性格を考えれば――


 きっと、あの場所にいるはずだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る