第36話 細長いものがうねうねと

 さらに階層を踏破し、僕たちは地下22階に辿り着いていた。

 そこで何度か魔物と交戦した後、リーゼさんが提案する。


「さすがにそろそろ引き返した方がよさそうですね」


 ここまで順調に進んでいただけに、みんなが驚きを示す。


「なぬ? もう戻るのか? わしはまだまだいけるがの!」

「リーゼ殿、どういうつもりでござるか! ライル殿のお陰で、体力にも余裕があるし、探索時間もそれほど長くないでござる! 今もこの階層の魔物と十分に戦えていたでござるよ!」


 ゴルドンさんとユズリハさんは否定的な反応だ。


「ダンジョン探索では余裕があるうちに戻るのがセオリーです。すでに当初の予定より遥か下層まで潜ってきていますし、ここはいったん帰還し、改めて挑戦すべきでしょう」


 と、リーゼさんは二人の意見を一蹴する。

 それに賛意を示したのはピンファさんだった。


「……それが懸命だ。急いては事を仕損ずる。順調なときほど、慎重であるべきだ」

「がははははっ! 相変わらず二人は心配性であるの! ま、リーダーはリーゼ嬢だ! 最終的にはおぬしの意向には従うがのう!」


 ゴルドンさんは、リーゼさんが言うならと賛成側に回るようだ。

 ユズリハさんが不満そうに口を尖らせた。


「むむむっ、せっかくここまで来たのだから、せめてボスの顔でも拝んでおきたくないでござるか? あとたったの三階層でござるよ?」


 このダンジョンの最下層は地下25階だ。

 ユズリハさんの言う通り、残り三階層分を踏破すれば、最下層に辿り着くことが可能だった。


「ライル殿の〈歩行補助〉があれば、三階層分くらいちょちょいのちょいでござろう! であろう、ライル殿?」

「えっ、僕ですか?」


 いきなりこちらに水を向けてこられて焦る僕。


「うーん、正直、判断できるだけの経験がないので、何とも言えないですけど……なんとなく、戻った方がいい気がします」


 まだほんの少ししか一緒に冒険してないけど、リーゼさんが信頼できる人だということだけは理解できる。

 逆にユズリハさんは剣の腕は確かだけど、猪突猛進タイプというか、はっきり言ってしまうと何も考えていない脳筋系っぽいので、あまり彼女の意見は参考にしない方がいいだろう。


「むーう、ライル殿までリーゼ派でござるかー」


 ユズリハさんはまだ不満げなものの、四対一の多数決で、地上に引き返すことになった。

 だけど、踵を返してしばらくしたときだった。


「あ、あれはっ……宝箱でござる……っ!」


 ユズリハさんが宝箱を発見する。


 ダンジョンにごく稀に出現する、ダンジョンからの贈り物。

 それが宝箱だ。


 中には希少な武具やアイテムが入っていることが多く、一生暮らせるようなお金を得た人もいるらしい。


「……っ、待て、ユズリハ! トラップの可能性がある!」


 一目散に宝箱へと向かったユズリハさんを、ピンファさんが慌てて止めようとした。


 同時に宝箱は、冒険者に致命傷を与える危険なトラップであることも少なくないという。

 魔物が化けていたり、空けると同時に床に穴が開いて落とされたり、あるいは爆発することもあるとか。


 しかしユズリハさんは完全に金に目が眩んでいるのか、ピンファさんの声など右から左で、宝箱の蓋に手をかけて思い切り開いてしまった。


「む? 何でござるか、これは? 細長いものがうねうねと……っ!?」


 宝箱の中から飛び出してきたのは触手のようなものだった。

 それがユズリハさんの身体に巻き付くと、そのまま宝箱の中へと強引に引きずり込んでしまう。


「ぬああああああああああああっ!?」

「ユズ!?」

「……ちっ、だから言っただろう!」


 僕たちは慌ててその宝箱へと駆け寄る。

 しかし宝箱の中には何もなかった。


「え、消えた!?」

「いいえ……」


 リーゼさんが冷静に宝箱を持ち上げた。

 すると宝箱の下の地面にぽっかりと穴が開いていた。


「まさか、ここから下層に!?」

「その可能性が高いです。まったく、いつもいつも……」


 リーゼさんの口ぶりから、ユズリハさんは普段からトラブルメーカーらしい。

 ともかく彼女を追いかけようと、僕たちはその穴から下層へ。


「どこに行ったのでしょう?」

「見失ってしもうたか?」

「僕に任せてください! 〈失せ物探し〉! えーと……あっちの方ですね!」

「……あいつはモノ扱いか」


〈失せ物探し〉で得られた感覚を頼りに進んでいくと、太い触手に絡みつかれ、引きずられていくユズリハさんを発見した。


「た~す~け~て~っ!」

「いました! どこまで引きずっていく気でしょうか?」

「む? また穴が開いておるぞ!」


 触手は別の穴から出てきているようで、ユズリハさんは再びその中へと引きずり込まれてしまう。


「……触手というよりも、木の根のようにも見えましたね」

「とすれば、正体は植物系の魔物かもしれぬな!」


 再び穴に飛び込んで後を追うと、ユズリハさんはまた次の穴に引きずり込まれようとしていた。


「一体どこまで行くのであろう?」

「いえ、次が最後のはずです。なにせこの下は……」

「……最下層か」


 僕たちはユズリハさんを追いかけ、ついに最下層である地下25階へと降り立った。

 ユズリハさんは触手に絡みつかれたまま、さらに奥へと連れ去られようとしているけれど、そこでようやく追いつく。


「植物系の魔物ならっ……〈草刈り〉!」


 僕が放った生活魔法で、ユズリハさんを拘束していた触手が切断される。

 解放されたユズリハさんは目を回しながら、


「ふぅ、助かったでござる……でも、お陰で手っ取り早く最下層まで来れたでござるな! 怪我の功名というやつでござろう!」

「そんなこと言ってる場合ですか! 見なさい! 本体が現れますよ!」


 能天気なユズリハさんを叱責するリーゼさん。

 とそこへ、ズン、ズン、という地響きと共に、何か巨大な生き物がこちらへ近づいてくる。


「……こうなったら戦うしかありませんね!」


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