使えないと追い出された生活魔法使い、無限の魔力で生活無双

九頭七尾(くずしちお)

第1話 一族の面汚しだったみたい

 僕の名はライル。

 エグゼール伯爵家の三男として生まれ、今年で十五歳になる。


 エグゼール家は魔法使いの名門として知られていて、過去に何人もの著名な魔法使いを輩出し、現在もこの国の魔法界を牽引していた。


 そんなエグゼール家にありながら、僕は幼い頃から神童と呼ばれ、将来を嘱望されている。

 というのも、今までに何度か測定してもらった魔力量が、この名門一族でも類を見ないほどの大きさだったからだ。


 最後に測定したのは十歳のときだったけれど、その時点ですでに専用の魔導具で計測ができないほどだった。


「たぶん、物心つく頃から魔力で遊んでたからだろうね」


 魔力を使って目の前の空間に絵を描いてみたり、離れた物を動かしてみたり、あるいは魔力だけで自分の身体を移動させたり。


 自分でも覚えていないけれど、家族やメイドたちによると、一歳になる前から一人でそんな遊びをしていたらしい。

 魔力というのは、使えば使うほど量が増える性質を持っているのだ。


 ――一族の始祖、大魔導士アリス=エグゼールの生まれ変わりかもしれない。


 そんなふうにすら噂された僕だったから、当然その魔法の才能を判定する儀式は、近年稀にみるほどみんなの関心を集めていた。


 エグゼール家では、十五歳の成人の日を目前に控えた吉日に、一族に代々伝わるアルカナミラーと呼ばれる鏡の魔導具でその才能を判定するのが、古くからの習わしなのだ。

 ちなみにこの儀式は「鏡の審判」と呼ばれている。


「ライル、期待しているぞ。お前のその魔力量と、強力な魔法の才能が一体になれば、どれほど偉大な魔法使いになることができるか。想像しただけで期待に胸が膨らむ」


 儀式の当日。

 エグゼール家の現当主でもある僕の父が、誇らしげにそんな言葉をかけてくる。


「う、うん」


 僕は緊張しつつ、その魔法の鏡に向かって歩き出す。

 今はまだ曇っていて何も映っていない。


 この鏡に映し出される自分の姿。

 それが魔法の才能を表すと言われている。


 例えば炎を扱っている姿が映し出されると、赤魔法の才能があることを示し。

 例えば水を作り出している姿が映し出されると、青魔法の才能があることを示し。

 例えば風を操っている姿が映し出されると、緑魔法の才能があることを示す。


 さらに保有する魔力量が多ければ多いほど、映し出される炎や水が膨大なものとなるそうだ。


 そして一番期待されているのが、最も高い攻撃力を持つ赤魔法だ。

 次いで汎用性の高い青魔法や緑魔法で、土の操作や錬金などが可能だけど地味な黄魔法や、治癒や補助に特化した白魔法だとハズレ、一部の地域で禁忌扱いされる黒魔法だと論外といったところである。


 それ以外にも魔法の種類はあるけれど、基本は以上の六属性と考えて差し支えない。

 もちろん稀にだけれど、同時に複数の魔法の才能を有するケースもあるのだとか。


 意を決し、僕は鏡の前に立った。

 次の瞬間、魔法の鏡が煌々とした輝きを放つ。


「おおっ、なんという輝きだ!」

「これほど神々しい光は初めて見たぞ!」

「やはりライル様こそ、大魔導士様の生まれ変わり……」


 式場内がどよめく中、やがて鏡の中に僕の姿が映し出された。

 予想以上に鮮明な姿だ。


 だけど……この僕、何をしてるんだろう?


「な、なんだ、これは……?」

「凄まじい速さで動いているぞ!?」

「速すぎて見えずらいが……家の中にいるような……?」

「これ、台所ではないか?」

「た、確かに、言われてみれば……しかも大量の食材が置かれていて……それを凄まじい速度で切ったかと思うと、恐ろしく巨大な鍋に次々と放り込んでいく……」

「台所で料理をしている姿……?」

「いや、いつの間にか廊下に出たぞ!? そ、掃除しているのか……? あっという間にピカピカで、まるで新築のように……」

「もしかして、家事をしているのでは……?」

「これは家事というレベルのものなのか?」

「そ、外に出たぞ!? いよいよ炎を扱うのでは!? ……あれ? 鍬を持って畑を耕し始めたような……と思ったら、もう作物が実り始めた……?」

「次はリラックスした様子でお昼寝を始めたぞ!?」

「今度は日曜大工だ! それにしては、巨大すぎる建物が瞬く間に作られていくが……」

「街で楽しげに買い物をしている! それもとんでもない爆買いだぞ!」

「い、異国を旅行しているぞ! しかもどんどん風景が変わっていく……」


 式場内が一気に騒然とする。

 それもそのはず、アルカナミラーにこんな姿が映し出されるのは、未だかつてなかったことなのだ。


 この魔法の鏡のことに最も詳しい老齢の魔導具師に、父上が血相を変えて詰め寄った。


「こ、こんな姿が映し出されるところは初めて見たぞ!? ライルには一体どんな魔法の才能があるというのだ!? ここまで目まぐるしく映し出される光景が変わるなんて、もしや多重才能か!?」


 その老齢の魔導具師は、父上に気圧されてたじろぎつつも、恐る恐る自らの見解を口にしたのだった。


「ええと……この鏡に映し出されたのは、家事や畑作業、買い物、旅行など……すなわち、すべてが生活に関する内容でございました……ゆ、ゆえに、ライル様の魔法の才能は……『生活魔法』だと……考えられます……」


 生活魔法。

 その名の通り生活を便利にさせる魔法のことだけど、その地味さは土魔法の比ではない。


 もちろん赤魔法のように高火力の攻撃魔法は使えないし、緑魔法のように空を飛んで長距離を簡単に移動できたりもしない。

 魔法の名門エグゼール家にあって、生活魔法の才能を有するくらいなら、黒魔法の方がまだマシだろう。


 アリス=エグゼールの生まれ変わりどころじゃない。

 どうやら僕は一族の面汚しだったみたいである。

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