第4話 時そばループと夏休み

夏休みの午前中。

街の公民館の一室。

紙に書かれた

「噺屋亭魔法少女ファンクラブ」

という雑な看板が風にふわりと揺れていた。

「ようこそ!本日の活動は噺屋亭魔法少女の良さを語る会で~す!」

ドンっと勢いよく扉を開けて入っていくのは会長の王だ。

その後ろには引きずられるように連れてこられた私。

はぁ。なんで、こうも毎日毎日、活動があるんだ、、、

あの日、2回目の変身を果たした日。、、、の翌日。

私は無理矢理、噺屋亭魔法少女のファンクラブに入らされた。

私が本人なのに~!

「そもそも、私、入会した覚えないんですけど、、、」

そうだ!私入会届出してない!

セーフだ!

「入会届もう書いたよ?強制的に。」

「なんで~!?」

「だって、話が合ったの小森さんだけなんだよね。俺と小森さんって気が合うと思わない?」

思いません!

もっと、いい人いるでしょ!

あーた、陽キャの王なんだから。

友達なんてわんさかいるじゃない!

わざわざ、本人をファンクラブに入れなくても、、、

「完全に犯罪の香りしかしない、、、」

私は仕方がなく席に座った。

その様子を見てまぶしいほどの笑顔を見せる王。

うお~!ま、まぶい!

いそいそと、眼鏡と付け髭をつけた王はホワイトボードの前に立った。

なぜ、眼鏡と付け髭を、、、?

しかも、なぜか似合ってるし。

こほんと咳払いすると王は部屋に響き渡る声で宣言した。

「さて!第一回、噺屋亭魔法少女のいい所発表~!」

どんどんパフパフ~

てな感じに一人で盛り上がっている王。

それとは対照的にどんどんテンションが下がっていく私。

自分のいい所の発表会なんて陰キャにとって地獄でしかない。

はずい~!

しんどい~!

恥ずかしくてちぬ~!

そんな私を置いてどんどん先に準備を進めている。

ああ、これから始まるのか、、、

地獄が!

王がホワイトボードにはり出したのは色鉛筆で描いた噺屋亭魔法少女のイラスト。

ちっ。

うめーじゃねーか。

王は私が期待していたのを裏切って絵師クオリティのものを持ってきた。

「その①!噺が上手い!」

、、、ちょっと嬉しい。

「その②!戦い方が噺屋スタイルで唯一無二!」

、、、それもちょっと嬉しい。

「その③!可愛くてかっこいいその姿!」

やばい。、、、めっちゃ嬉しくなってきた。

「その④!えへへ、、、す、好きだなぁ!」

「最後だけ、個人の感想!?」

はっ!思わずツッコミを!

おとなしめの陰キャ女子で行くつもりだったのに!

恐る恐る、王の方を見ると、、、

あれ?笑ってる?

王は満面の笑みを浮かべていた。

そのまぶしい笑みを見た途端何もかもがどうでもよくなった。

まぁ、いっか。

「続けて?」

そう、笑顔で答えると王は嬉しそうにしてまた話し始めた。

それを聞いていて思った。

うん。

やっぱり、はずい!


「あ、もう、こんな時間。」

気づけば一時間たっていてもうすぐ部屋の使用時間が終わるころだった。

「あーあ。もう終わりか。」

この一時間、私は、

「へ~」

とか

「うんうん」

とか

「すごいね~。」「かっこいいね~」

くらいしか発してない気がする、、、

王、ずーっと喋ってたな。

たかが、一時間。されど一時間。

王にとっては短い時間だったかもしれないが私にとっては長い時間だった。

でも、有意義な時間だったかも。

そんな、ちょっと名残惜しいような気持ちになって公民館を出る。

「そうだ!まだ話足りないし一緒に帰ろうよ!」

前言撤回。

全然名残惜しくなかった!

「まぁ、いいよ。」

そんな風に返事をするといつものまぶしさが来る。

このまぶしい笑顔今日、何回目?!

二人で話しながら歩いていると、王がリュックから何かを取り出した。

「じゃーん!これ、いいでしょ?!」

それは、カメラだった。

しかも、一眼レフの見るからに高そうなやつ。

「これで、噺屋亭魔法少女を撮ってブロマイドとかうちわとかポスター作るんだ。」

ええ?私のポスター?ブロマイド?うちわ?

そんなの作ってどうすんの?

はぁ。まぁ、いいか。

とりあえず、これだけは言っておこう。

「SNSとかにはあげないようにね?あと、ちゃんと許可とって撮ってね。」

一様、聞いてくれたら写真くらいいいけど。

聞かれないで撮られるのはいや。

それは盗撮と同じだから。

「わかってるよ。」

いい笑顔でそう、うなづいた。

が。

そのあとの言葉には私もちょっと引いた。

「だって、SNSなんかに上げたら俺だけの噺屋亭魔法少女じゃなくなるもんね。」

そう言ってさっきとは違う、ダークな笑顔でそう、うなづいた。

怖っ。

私、大丈夫かな、、、

王にばれないようにしよう、、、

そう、思った時だった。

キキーッ!

「危ない!」

私の目の前に王が飛び込んできたところで真っ暗になった。


気づくと、先ほどの公民館の前に立っていた。

「そうだ!まだ話足りないし一緒に帰ろうよ!」

さっきと同じセリフ。

同じ勢い。

同じ笑顔。

さっきと「同じ瞬間」が再生されている。

試しに前と同じセリフを言ってみる。

「ま、まぁ、いいよ。」

すると、まったく同じ、まぶしい笑顔が帰ってきた。

「これ、、、さっきと同じ、、、」

すると、王がリュックをごそごそと探して何かを出した。

まさか、、、

「じゃーん!これ、いいでしょ?!」

そう言って、同じ一眼レフのカメラを出した。

ここまで、全てが前の通り。

王の瞳が暗い。

まるで、機械みたいだった。

これは、、、

「まさか、怪異の仕業?」

だとしたら、合点がいく。

となると、つぎは、、、!

キキーッ

「危ない!」

目の前が真っ暗になった。


「そうだ!まだ話足りないし一緒に帰ろうよ!」

目が覚めるとまた同じ。

これは、、、タイムループだ。

キキーッ

「危ない!」


やばい。

目が覚めてすぐさまそう思った。

どんどん、タイムループの時間が短くなってる!

ほら、もう、、、

キキーッ

「危ない!」


私は目が覚めた瞬間王を連れて走り出した。

はっはっ

ここまでくれば、、、

すると、遠くから車が猛スピードで走ってくる音がする。

やばい。

このままじゃ、ずっと同じことの繰り返しだ!

王は訳の分からない顔をしている。

変身するしかないか、、、

でも、罰が、、、

キキーッ

もういい!私は!噺屋亭魔法少女だ!

「危ない!」

その瞬間、私の体が光った。

「え?」

ダァァァァァン!

「は、噺屋亭魔法少女?!」

そこには車をパンチで跳ね飛ばし、運転手を抱きかかえた私がいた。

「小林君。この人をお願い。」

気絶している運転手を小林君に渡し、ニコッと微笑む。

「よ~し!がんばっちゃうぞ☆」

げ。

あぁ、罰がかかってる~!

ヒロイン口調じゃん!

私のキャラが崩壊していく~!

「噺屋亭魔法少女が、、、小森さん、、、?」

小林君は茫然としている。

そりゃそうだ。

いつも、話していた相手が本人なんだもん。

びっくりするよね。

とにかく、今は怪異だ。

すると、空から「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」という声が聞こえた。

「なんだろう☆?」

くそっ

可愛い女の子がやったらいいけど私がやると寒気がしてくる。

上を見るとそれは噺屋亭ほのかだった。

落ちてくる噺屋亭ほのかを私はさっとかわした。

そうしたかったのに、、、

ヒロインの呪いのせいか、それを顔面で受けてしまった。

「うげっ」

うう、、、

変な声出た。

「いった~い!もうっ!気を付けてよね!ほ、の、か、ちゃん?」

ぞわっ

あー寒い。

寒すぎる!

「お前さん、、、」

噺屋亭ほのかはまじまじと私を見てそれからにやりと笑った。

「はっはっはっは!そうかそうか!バレたか!早かったのう!」

くそぉ!

「それよりもっ!怪異だよぉ!」

「くっくっく!はいはい。そうじゃな。」

えーん。

これ、元に戻るのかな、、、

「あれは時止め。その名の通り時を止めてタイムループさせる怪異じゃ。」

「人形が喋ってる、、、」

驚いている小林君の方をチラッと見てちょっと気分がよさそうに、

「ほほっ。ここはひとつ、お前さんと共同落語といこうか。」

と、言った。

いつもは、私が全部するのに、、、

「わ~かったよ~!がんばろ、う、ねっ☆」

「くっくっく。ほんにおもしろいのう。」

私の口は止まらない。

もーやだー、、、

もう、どうにでもなれ!

「ほら、あそこのもやに扇子をなげい!」

はいはーい。

「必殺!扇子投げ!」

だっさ!

自分の口から出た必殺技のだささに驚きつつ、扇子を投げる。

ビュッ!

「ギャッ」

当たった!

「今じゃ!」

二人で時止めの前に綺麗に正座する。

そして、二人同時に礼をした。

「私の声が、だれかの心に届きますように。

涙も不安も、小さな噺に変えて──

さあ、開きます。」

一つ間をおいて。

「私の名は噺屋亭魔法少女!」

「わしの名は噺屋亭ほのか!」

「「一席、おつきあいくださいませ!」」

パチン!

舞台には私と噺屋亭ほのか。

二人が並んでいる。

ここには、聞き手の時止めと小林君。

それと、私たち語り手しかいない。

「今回は時そばという落語を紹介しましょうかね。」

噺屋亭ほのかがそう言った。

だが、小林君の目は輝きながらこちらを見てくる。

、、、見ないで。

照れるから。

「時そばって言うのは、寒い夜。

蕎麦屋さんの屋台に一人の男がやってくるところから始まるんでございます。」

私はその言葉を聞いた瞬間、扇子をパチンと開き、少しだけ身振り手振りをつけながら話し始めた。

「男の人がこう、そばをズズッと食べて、、、

支払いの時にこう言います。」

私は男の人になりきったつもりで声のトーンを変えた。

「ところで旦那、今何時だい?」

「ウグッ」

時止めが苦しそうにうなる。

「蕎麦屋の店主はこう答えた。

「え?今は九つですよ?」

そばの代金は小銭10個。

店主のその言葉を聞いた男は満足げに小銭を9個置いて店を出たんでございます。」

そこで、私は客席の時止めに向かって聞いた。

「ところで時止め、今何時?」

すると、時止めがうぐぐと苦しみながら、、、

「今は、、、異常!」

と、叫び声みたいに大きな答えを言った。

その瞬間、止まっていた時計の針がぐるぐると動き出して。

時計が、パァ!と光って、、、

気づいたら、もとの時間に戻っていた。

「これで、時間は正常に戻りました。

やはり、嘘をつくのはよくないですね。」

二人で、顔を見合わせ、締めに入る。

「「これにて、一件落着!」」

すると、もとのところに戻っていて、車も、元通りになっていた。

「ふう。終わった、終わった。」

ついでに口調も元通りに戻っていた。

「あ、や、やったー!」

「ちっ。面白くないのう。」

噺屋亭ほのかは不服そうだが。

「あの、、、噺屋亭魔法少女、、、」

静かにそこに小林君が立っていた。

「いや、、、小森さん。」

やっぱり、バレたか。

「なに?」

何か言われるかな、、、

もう、誘ってくれないかな、、、

ううん。

せいせいするわ!

だって、毎日呼び出されて宿題できなかったし。

うん。大丈夫。

、、、大丈夫だもん。

「小森さん!」

「はい!」

ギュッと目をつむり、次に来る衝撃に備えた。

「写真撮ってもいいですか!」

「え?」

予想に反して小林君はいつも通りの笑顔でそう言った。

「いいけど、、、」

「やった~!」

パシャ!

一枚撮って小林君は言った。

「小森さんは小森さんだよ。小森さんでも、噺屋亭魔法少女でもかわらない。だって、、、」

パシャ!

カメラから、顔を上げてまぶしいとびきりの笑顔でこう言った。

「いつも、小森さんも、噺屋亭魔法少女も、優しかったから!」

私は、その言葉を聞いて胸が温かくなった。

「もう一つ、お願いしてもいいかな。」

「いいよ。」

「え?!やった~!じゃあ、2ショットお願いします!」

私は、人生ではじめて、友達と写真を撮ったのだった。






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