第64話〜秋谷 澪の忙しい日々〜

 大樹君とお付き合いを始めてからわたしは自分から色々変えようと思って忙しい毎日だった。土曜日は本当に忘れられない1日になった。


 お付き合いを始めた翌日、わたしは早めにお家を出た。お母さんに作ってもらったお弁当を持って。そうして通学路を歩いていると最近見慣れた腰まで伸ばしたきれいな黒髪の後ろ姿。間違いない。わたしの親友の後ろ姿。


「しーちゃん!」


「お?あー!澪ちゃんおっはー!」

「おはよ〜。早いね〜」


「うん!大ちゃんを教室で待つんだ!」

「へぇ〜そうなんだ!じゃあわたしも今日からご一緒しようかな?」


「うん!一緒に大ちゃんをお迎えしよ!」

「うん!」


 これがわたしの今日からの日課になった。朝は大樹君を教室でしーちゃんとお迎え♪と思ったんだけど凛ちゃんももう来てる…早い…!


「あら、おはよう2人とも。澪も早いわね」


「おはよ〜凛ちゃん。今日からしーちゃんと登校することにしたんだ♪」


「そう。いいじゃない。天王寺君ならあと10分後くらいかしら」


「にひっ、凛ちゃんも大ちゃん待ってるんだよね♪」


「…ち、違うわ。私は朝の予習のために早く来てるだけよ」


「またまた〜♪」


「し、詩奈!?」


「ふふっ、凛ちゃんもなんだ〜」


「ち、違うったら!」


 凛ちゃん、かわいいんだ♪そういっても大樹君が来たらわたし達の輪に入ってくるんだから♪


………


「おい、澪。なんで俺のメッセージや電話無視するんだよ」


「あ、う…えっと…」


 休憩時間、今宮君が声をかけてきた。怒ってる…な。でも、わたしはもう…大樹君とお付き合いしてるから…それに、もう起こしても怒られたり責められるだけならもうやりたくない…。でも、怖くて勇気が出ない。言い返せない。


「澪ちゃん、ちょっとええ?」


 大樹君が呼んで手招きをしてる…これって…助けてくれてるのかな?しーちゃんも呼んでる…。


「あ、ご、ごめんなさい…!」


「おい澪!」


 わたしは逃げるように大樹君としーちゃんの後ろに隠れた。今宮君は追いかけてはこなかった。しーちゃんと大樹君が今宮君を睨んでる…?た、助かった…。これ以降、学校では常に大樹君としーちゃんと凛ちゃんが。帰りもできるだけ一緒にいてくれるようになった。とっても心強かった。早く言い出さないと…と思いつつも、長年のことを思い返しては怖くなって勇気は出なかった。


 放課後、わたしはバスケ部の顧問の先生のところへ行き、諸事情によりマネージャーを辞めることをお伝えした。引き留めたいようだったけど…頭をガシガシかいて頷いてくれた。


「うーん、秋谷には本当に助けられたし、いてくれたほうがすごく助かるんだが仕方がない。今まで本当にありがとうな、秋谷」


「先生、急なことで申し訳ありません…」


「いやいや、気にするな。やりたいことが何か見つかったような顔をしている。そちらを優先しなさい。それを押し込めてまでこちらを優先しなくていいぞ。頑張りなさい」


「あ、ありがとうございます、先生!」


 やりたいこと…大樹君と一緒にいたい。しーちゃんと凛ちゃんも一緒にいて…楽しく過ごしたいだけなんだけど…それと同時に、あの人との関わりは切れたし切ったから、これ以上バスケ部にいても仕方がないし、問い詰められたり御用聞きなんてもうしたくない…佳奈ちゃんや天満君、桃谷君たちには申し訳ないけど…。


 大樹君にこのことを相談したんだけど「しがらみにしかならんと思うし、やめて正解ちゃう?」って言ってくれた。それだけでわたしは心が楽になった。


「澪ちゃん!ミクドいこー!」


「ほな俺も行こかな」


「大ちゃん!行こ行こ♪」


「うん、わたしも行く!」


 わたしはこの日、しーちゃんと大樹君と一緒にミクドでおしゃべり。楽しかったなぁ。


………


 土曜日。この日はきっと一生忘れられない日。大樹君とデートして大樹君のおうちで大樹君と一つになった日。とっても幸せな1日だった。


 大樹君はわたしの見たい場所を優先して回ってくれて…いっぱいお話できた。いっぱい楽しいものを一緒に見て回った。ただ連れ回されるだけじゃない。わたしの見たいもの。食べたいものを聞いてくれて。そして一緒に見て、食べて。これがこんなに楽しいことなんだって知った。嬉しかった。


 大樹君との素敵な時間。わたしは大樹君を良くしたい。ずっとその想いだけでいた。だからわたしは一生懸命尽くした。でも…それだけじゃなかった。すごくすごく恥ずかしかったけど…大樹君もわたしにいっぱい愛をくれた。尽くしてくれた。わたしはそれだけで脳が焼き切れるんじゃないかって思うくらいだった。でも、その時の幸福感は…もう言葉では言い表せない。そして、わたしを腕枕してくれて、わたしは大樹君の胸に寄り添って…言ってくれた言葉はありがとうだった。


「澪ちゃん。尽くしてくれてありがとう。俺とおってくれてありがとう」


 こんなに心のこもったありがとうをわたしは知らなかった。えっちしてたときも幸せだったけど、このありがとうが何よりもわたしの胸を幸せにしてくれた。わたしは…また泣いちゃった。


「わたしも…わたしもありがとう…!優しくしてくれて…わたしに尽くしてくれて…本当にわたし…わたし幸せ…こんな幸せなありがとう初めて…!大樹君…ありがとう…!ありがとう!彼女にしてくれて…彼氏になってくれてありがとう…!」


「澪ちゃん。ありがとうな。ありがとう…俺も彼女になってくれてありがとう」


 大樹君は笑ってわたしの頭を撫でてくれた。そのゆっくり撫でてくれるのが大好き。泣き虫なわたしを怒ったり呆れたりせずに笑って受け入れてくれる大樹君が大好き。わたしはしばらく泣いちゃった。その涙はとっても温かった。


………


 翌朝、大樹君が起きてくる前に起きてわたしは朝ごはんを作っている。甘い卵焼き。冷蔵庫にちょうどあったシャケを焼いて…ご飯も…炊けた。ふっくらいい匂い。シャケの焼け具合を確認していると寝室から大樹君が出てきた。起こしちゃったかな?


「おはよ…澪ちゃん。めっちゃええ匂い」


「おはよう大樹君。もうすぐ朝ごはんできるからね」


「おおきに…って…澪ちゃんそのカッコ…」


「えへへ♪彼シャツ♪大樹君のシャツ、大きくてわたしちっちゃいからダボダボ」


「………えっちやな」


「ええ!?」


「そらせやろ。下着透けてるんやもん。えっちやけどかわいいな」


「う、うー…大樹君、する…?」


「いや、澪ちゃんの負担になるからせえへん。澪ちゃんがしたいなら」


「えっ!?うー!うー!」


「はは、冗談や」


「も、もー!もうすぐ焼けるから座って待っててね!」


 もう!大樹君のいじわる!でも、かわいい…か。うん、嬉しい!彼シャツ大成功?成功で…いいよね!?


「明日からお弁当作っていくからね」


「ほんまにええんか?まだ無理せんでもええんちゃう?」


「ううん!わたしが作りたいから!大樹君においしいって言ってもらいたいから」


「澪ちゃんがええならお願いします。期待してるで。ん、シャケうま!」


「よかった!焼きすぎとかじゃない?」


「全然、めっちゃうまい。あー、卵焼きうま…幸せや。澪ちゃんはええ奥さんになれるね」


「大樹君のお嫁さんになります♪」


「ぶふっ…!そないストレートに言われたら恥ずかしいわ…」


「えへへ♪でもわたしは大樹君のお嫁さんになるからね」


「よろしくお願いします…ほんまに」


朝からわたしは幸せいっぱい!この日は駅前のプラザでお洋服を見て回ったりお弁当の材料を買って夕方には帰った。今宮君が来てたみたいだけど、お母さんが追い返したって…。なんか、嫌だな。


………


 月曜日、わたしは5時に起きてお弁当を作る。今日からは心機一転!お弁当箱も一新してお弁当を詰めていく。


「卵焼き、よし!唐揚げ、よし!」


 初日だからすごく気合いを入れてお弁当を作った。出来具合は最高!わたしは満を持してお弁当を持って登校した。しーちゃんと楽しくお話しして。


 大樹君が来た!だからわたしはお弁当を取り出して机の上に置く。だけどその後ろには今宮君がいる。気にしちゃいけないよね…。


「おはよ…「なー澪〜、何怒ってんのか知らねーけど起こしにきてくれよー。やっぱり俺澪がいないとダメだわ」


 わたしの言葉を遮って話しかけてくる。こうやってわたしの言いたいこと、やりたいことを縛ってくるんだ…。わたしは少しムカっとした。けれど、それ以上にわたしが生まれて初めて激怒することが起きた。


「おっ、弁当作ってきてくれたのか?いやー、やっぱ澪の弁当がねーとな」


 そう言って大樹君のお弁当に手を伸ばす。違う…これは…あなたのなんかじゃない!!!わたしはお弁当を手に取り、隠すようにした。そして今宮君を睨み、自分でもびっくりするような大きな声で言った。


「これに触らないで!!!!!!」

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