第6話~関西人、登校する~

「ええやん…天王寺 大樹、黒髪のほうがめっちゃ男前やんけ」


 昨日、俺は髪の毛を黒に染めた。俺はモブや。目立つことは避けたいし、なんしか金髪がチープに思えてしゃーなかったからなぁ。これで普通な学生生活が送れるやろ。おっ、もう8時前やん。ほな10数年ぶりの高校生活を始めよか!俺は誰もおらへんけどいってきますって言うて家を出た。


「12時に寝て…7時に起きて…朝ごはん食べて、シャワー浴びて…それでいて余裕をもって徒歩で登校できる…めっちゃホワイトやな」


 前世ではこうはいかんかったからな。仕事はいつも終電で家に帰る。家帰って、ご飯食べて、風呂入ったら2時。朝は始発で出勤せなあかんから4時に起きて…電車で30分くらい寝ての繰り返しやった。そら死ぬわ。


 しかも今日は始業式だけやから遅くとも11時には帰れる。あとはフリー。神か。明日からはまた6時間授業やけど、この時間に登校して8時15分には教室入り。いわば出勤やな。遅く見積もっても16時には帰宅できる。超優良ホワイトやのう!これは転生させてもろてマジ感謝や。


………


 おお、見慣れた墨染学園や。ここで今宮君と3人のヒロインの甘酸っぱい青春…が見れるんやな。ゲームでもそこまででゲームを落としたらハッピーエンドや。精神が参ってるときはそこまでにしといて、精神状態がええ時に続きをやって…ハハ、どん底や。


 おっ、校門のとこに先生が立ってるやん。おお!しかもおる先生がカミナリ先生やん!カミナリ先生はほんまは神成(かんなり)って言うんやけど、生活指導の先生で、とにかく怒ったらマジで怖いんや。カミナリが落ちるから神成を文字ってカミナリ先生になってん。ちなみに、天王寺 大樹の天敵や。ゲームではヒロインにちょっかいだしてるところを怒鳴られとったし、転生してから過去の記憶を遡っても、カミナリ先生に髪の色のことや素行不良のことでめっちゃ怒られてんねん。せやからごっつ嫌いで避けたい相手なんやけど、俺は別に何も気にせえへん。


「おはようございまーす」

「お、おはよう、天王寺…」


「て、天王寺!?」

「カミナリ先生、おはようございますぅ」


「ほ、本当に…ど、どうしたんだその頭…」


「先生、俺…僕ね、夏休みに自分を見つめなおしましてん。んで、1からやり直そう思いまして。金髪もなんやダサなったんで自分を入れ替えるために黒に染めまして。今学期から、僕、授業も真面目に出ますし、行事も参加します。せやから、ご指導のほどよろしくお願いします!」


 うん、これだけ言うたら納得してもらえるやろ。あん?なんかカミナリ先生、プルプルしとるんやけど…なんかあかん地雷でも踏んだやろか…?そう思うてたらいきなり俺の肩を掴んできた。ボロッボロに泣きながら。


「うお!?」

「うおおおおお、大樹いいいい!!!お前!お前、よく言った!俺はお前のその言葉!!信じるぞおおお!よく!!!よく言った!!!!うおおおおおおおおん!!」


 な、なんやボロ泣きやないかい!ま、まあしゃーないわな。この1年半くらい、なんぼ指導しても「じゃかぁしいわハゲ!」とか「誰がお前の言うことなんか聞くかい!」とか反抗してばっかりやったもんなぁ…。それがいきなり手のひらクルーでこれやもん。むしろ、天王寺はカミナリ先生が言えば言うほど、ピアスは空ける、髪の毛は染める、暴力沙汰を起こすって言う徹底した反抗者やったな。ほんまご迷惑おかけしてすんません…。


「てか先生!生徒が見てるから泣き止んで!?はよ!!!」


 そんなこと言うてもカミナリ先生の号泣は止まらんかった。


………


「………えらい目に遭うたわ…」


 結構はよ登校したのにカミナリ先生のせいでちょい遅なったやないかい。あの先生泣かしたらあかんわ…次から気をつけよ。


 ようやく俺は教室、2年C組についた。さって、今日から学生生活謳歌するでぇ。ガラッとドアを開ける。


「おはよーさーん」


 俺が挨拶したらもう来とった生徒が全員フリーズしよった。なんでやねん。挨拶は社会人も学生も基本ちゃうんかい。しかも俺のことを一瞬見たらすぐ目逸らしよった。そうやわ、しゃーないわ。だって俺、この学園1の不良「天王寺 大樹」やもんな。


 天王寺 大樹の噂は学園内だけやなくて近隣の高校とか中学にも噂が飛び火しとる、らしい(俺は知らんねんけど、俺が入り込む前の大樹が情報収集しとった)。尾ひれ背びれどころかお前何を魔改造してんって言うような噂がガッツリ流されとる。


・ケンカがめっちゃ強い。ボクサージムに通ってる男を一発KOした。(これはガチ。ケンカ強すぎやろ)


・かわいかったら中学生でもナンパする。おかげで一時は近隣の中学校で集団下校があった(さすがに中学生はアウトやろ。って言うか守備範囲外やったみたいやぞ)


・バックにヤクザがいて、ちょっかいをかけるとヤクザに東京湾の魚のえさにされる(これもガセ。大樹が自分を強く見せるためにわざと流したんちゃうか)


・ヤクザと人身売買をやり取りしていて、ナンパした高校生、女子大生などを誘拐して外国へ売り飛ばしている(むちゃくちゃやないかい)


 ほかにも聞いたらどぎつい頭が痛くなるような話ばっかりやったわ。これ、全部火消ししなあかんの…?無理やろ。全部学園外で蒔かれてるネタやから、たぶん俺がおとなしくしとったらすぐ消えるやろ…問題は学園内の生徒をどうするかやねんけど…どうせえっちゅうねん。


 これから心を入れ替えて真面目にやるわけやから…きっと見直してくれると信じてる…せやないと俺の脱ぼっち計画が全部破綻するやないか!


 さて…とりあえず始業式始まるまで座って持ってきた小説でも読もか。


「……天王寺…クン?」


 名前を呼ばれたから顔をあげた。そしたら黒髪のすごい美人が俺を呼んだらしい。


「はいはい、俺を呼んだ?えーっと…」


 だ、誰や…こんな子知らんぞ。てかクラスに馴染めてないからクラスの子と名前が一致せえへん…。思い出せ。いやちょっと待って。モブまで顔のレベル高いのう!前世でこんな子おったらクラスの人気者やろ!!それどころかモデルになってるやろ。よう見回したら結構男子も女子も顔面偏差値高い。俺は俺で自分でも見惚れるほどイケメンやったけど…この美男美女のさらに上澄みが一昨日会うた夏目 詩奈さんとかあの3人の極上美少女なわけか。こっわ、この世界こっわ!


「ごめん…誰やっけ…?」

「えっ?」


 ギブアップ。マジでわからへんわ。でもなーんか見たことあるような顔なんやけど…あかん、ほんまわからへん。誰か、名簿貸してーや。持ってへんか。


「……ぶーーーーー!!」

「えっ」


 やばいやばい。女の子頬膨らませて怒ってる!いや、この仕草さえめちゃくちゃかわいい。せやけど誰かわからん…!どないせえっちゅうねん!


「何してるの?」

「うお…!?」


 

 こ、この男をゴミでも見るかのような冷たい目は…読書大好きクーデレ美少女…冬木 凛子や!!!うおお、これが生の冬木 凛子か!!やばい、めっちゃ美人やな。それにも劣らへんくらい、この黒髪の女の子もレベルが高い。


「凜ちゃーん!!天王寺クンがあーしが誰かわかってないー!」

「はぁ…無理もないんじゃない。詩奈のイメージなんて金髪で定着してるんじゃない?」


 どうやら冬木さんの友達らしいわ。交友関係幼馴染のメンバーくらいしかおらんかったはずやけど…ん?ちょい待て。今…冬木さん、詩奈って言うた?う、嘘やろ!?


「えっと…夏目さん…かいな?」

「ぶーーー!そうだよ!!!!天王寺クンひどい!!」


「な、なんやてーーーーー!?」


 黒髪の夏目 詩奈。それはゲームでは一切見ることのない彼女やったわけで。

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