第3話~関西人、ヒロインに懐かれる~

 そもそも今の夏目さんの格好はそらチャラ男ほいほいやねん。金髪、肩は丸出しやし谷間も見えるわへそは出しとるわごっついショートパンツやから健康的な脚丸出しやわで正直どこ見てもエロい目で見てんのかって言われたら「はい」言うしかない格好しとる。要するに、前世30代のおっさんからしてみたら、全部アウトでまぶしすぎて直視できへん。まあ、なんとか目を合わせて話しとるんやけど。


「そんなに…ダメかな」

「あかんとは言わへんけど露出が多すぎんねん。道行くおっさんがジロジロみとったで」


「え、ええ!?」

「まだ高校生なんやからもうちょっと露出は抑えたほうがええと思うで…」


「で、でもぉ…」

「そのギャルスタイルやめたらグループからハブられるとか思ってんの?そんなんでハブる友達なんか友達ちゃうわ。友達やめてまえ」


「うう…」

「そうやなくてもちゃんと付き合いできる友達おるやろ」


 幼馴染グループがおるんやし、別にぼっちになるわけちゃうやん。俺なんか前世も転生してからも「天王寺 大樹」ってだけでぼっちな未来が見える。泣ける。それに比べたら100倍マシや。


「う、うん…澪ちゃんに凛子ちゃん…あと…俊哉君」

「ほら、その子らはずっと付き合ってくれるんやから。もっと高校生らしい格好をその友達に教えてもらいなさい」


「わかった…てか、天王寺君って何だかお兄ちゃんか…お父さんみたい」


 そりゃ中身は30過ぎたおっさんやからな。早かったら小学生の娘とかおるやろ。俺?なんべんも言わすな、ぼっち街道邁進中やっちゅうねん。


「ま、まあ気になったから言うただけや。うるさい奴のお説教や思っとき」

「うん。えへへ…なんか嬉しいな。あーし、パパにもママにもこんなふうに注意されたりとか、怒られたことないから…」


「あん?なんでや。おとんもおかんも…あっ…」

「うち、パパもママもほとんどお家にいないから…」


 思い出した!確か夏目さんの両親って冷えた家庭で確かどっちも浮気しててとか仕事ばっかりで家にろくに帰らんと1人に夏目さんをさせてるってゲーム設定があったな。家では1人でテーブルに置かれたお金でピザ買うたり、鷲野屋で牛丼食べてたり…。


「そ、そうなんか…」

「昔からそうだったから…えへへ、こういうのやめなさいとか注意されたりとか…ちょっとされてみたかったんだ。あ、お友達はちゃんと注意してくれるけど、天王寺君みたいにビシッと言ってくれないから…嬉しいなぁ。今日お話ししたばっかりなのに、ね?ってわぁ!?」


 あかん。俺こういう健気な話にめっちゃ弱いねん。寂しいやろうに…つらいやろうに。そんなんやからグループに必死に無理してついて行って…あかん、泣けてきた。


「うううううう!!なんでこんなええ子がこないな目にあわなあかんねん…神様に文句言うたらな…うぐうううう!!!」


「て、天王寺君!みんな見てるから!見てるからぁ!!」


 俺がボロ泣きしてもうたせいで夏目さんを送るん遅なってもうた。せやけど泣くやろ。神様…この場合製作スタッフか。また怒りの「人の心とかないんか?」って送り付けたろか。


………


「ここまででいいよ。もうすぐそこだから」

「え、ほんまに大丈夫?」


「100メートルもないってば!だから大丈夫!そういえば、お腹すいたって言ってたのに…ごめんね?」


「あのまま夏目さんほったらかして牛丼食ってたら未来の俺がどつき回してるわ」

「何それ…あはは!天王寺君っておもしろいね!あーし楽しかったよ」


「お、おお…それはよかった。ほな、俺はこれで。ちゃんと服装には気ぃつけるんやで」


「はーい!澪ちゃんに相談してみよっかな。天王寺君、本当にありがとね」

「うーい。ほな、また」


 そんで夏目さんが帰るとこを見送ろう思たら夏目さん、いつまで経っても帰らへんねん。


「夏目さん何してんの。はよ帰り」

「ん?天王寺君が帰るのを見送ろっかなって」


「ええ…」


 あかん、この娘、無駄に恩義を感じとるせいかこのままやと夏目さんが、いや天王寺君がって言う押し付け合いになるわ。ここは…。


「ほな鷲野屋行ってくるわ。また」

「うん、天王寺君、また学校でね!」


 俺は手振って鷲野屋へ向かった。俺は気づかへんかったけど、夏目さんはこの時、俺が見えへんようになるまでずっと俺の背中を見送っとったらしい。忠犬かいな。


 思えば…これが俺のこれからの学生生活が一変した…と言うても過言やないと思う。そんな夏休みの終わりやった。


………


「何や、転生初日からヒロインの1人に出くわすとか…しかもこの役目、主人公の今宮君の役目やろ…」


 鷲野屋で牛丼食べて。風呂入って一息。明後日から学校やし、学校行く準備や。スラックスにシャツはピシッとアイロンあてて。そんで明日はこの趣味の悪いど金髪を黒に戻してやな。


「ゲームのヒロインが現実の世界に…か。俺は前世で死んでよかったんか…あかんかったんか…でも、生の夏目さん見れるとか最高やろ。それを寝取ろうとする奴は…俺やけど俺ちゃうし」


 それがでかい。ゲームやと何年経とうが嫌いなエロゲキャラの堂々1位の位置をキープし続けるキングオブキングな腐れ竿役「天王寺 大樹」。それがおらへんねんもんな。こうなったら、夏目さんや他のヒロインが主人公である今宮君とくっついても安心して見守り続けられる。それも、同じクラスやから生で。間近で甘酸っぱい青春を見届けることができるんや。これって最高やろ。


 そうなると残り2人のヒロインも見てみたくなる。王道のお弁当を作ってきてくれたり、朝起こしてくれるヒロイン、秋谷 澪(あきたに みお)。クールで読書。映画が好きで最終的にデレデレに尽くしてくれるクーデレ、冬木 凛子(ふゆき りんこ)。そんで、そんな彼女らに尽くされる主人公、今宮 俊哉。はっきり言うて最高や。


「そんで、俺は例えばやけどそんな4人に降りかかる火の粉を払うお助けマン的な存在…それで全然ええ。せやけど、友達の1人くらいはほしいなぁ…彼女、とまではいかんでええけど」


 そうや。俺はあの色褪せた高校生活をやり直せるチャンスがあるねん。脱ぼっち!せやけど天王寺 大樹って言うハンデが痛いなぁ…。ま、まあ俺は今日から不良やなくて真人間に文字通り生まれ変わったんや。せやから、2学期から俺は頑張って友達作って、あわよくば彼女作って、バラ色の高校生活を送るんや…!


「そのための努力は惜しまへんど。ひ、ひとりでええねん…友達が…友達が俺もほしいねん…」


 何か泣けてきたわ。せやけど第二の人生。せっかくやから楽しくやりたいやん。友達が欲しい。それは俺の切実な願い…あとたっぷりの睡眠やな。これは確保できるん。完璧や。


「そうや、学校始まったら秋谷 澪にも…冬木 凛子にも会える…俺の最推しのヒロインが勢ぞろい…リアルで、この目で見れる…あかん、なんか緊張して目ぇ冴えてもうたやないか!」


 まあ俺は彼女らを見守ることしかせえへんわけで。いわばモブやモブ。俺はモブキャラでええねん。そんで俺は俺の人生をかけた脱ぼっちな生活を送って、平穏な高校生活が送れたらええ…!神様おおきに!俺、頑張ります!


「うお、アホなこと言うてたらもう12時やんけ…!寝よ!」


 とりあえず明日は真面目な生活を送る第一歩。髪染めや!そんで俺のモブ生活開始や!と意気込んで布団に入って寝た。


せやけど、学園に行ってからの俺の高校生活は、この最推しヒロイン、そして…主人公。この4人が絡んで絡んですごい人生になるなんて、この時思うはずもなかってん。

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