関西人悪役、主人公になる~転生先でハーレムを作ってまう~

ゆずれもん

第1話~関西人、竿役に転生する~

「なんやこれ…どないなっとんねん」


 俺の名前は天王寺 大樹(てんのうじ だいき)…って言う脳を焼きに焼かれたエロゲの主人公からヒロインを寝取る竿役に転生したブラック企業の元社畜や。


 顔見たらわかる。何て言うたかて、このゲーム「NTR HAZARD」とか言うクッソけったいな名前のゲームで嫌っちゅうほど見た。せやな、親の顔より見た悪役の顔や。見間違うはずあらへん。


 このゲームはタイトルにNTRがついとる通り、最初は主人公「今宮 俊哉(いまみや としや)」が3人のヒロインのうち、任意の誰かと付き合って甘酸っぱい学園恋愛ADVゲームみたいなもんやねん。せやけど、やきもきしたりキュンキュンしてようやく付き合うたか思ったらこの「天王寺 大樹」が登場するわけや。


 こいつはとにかく主人公と付き合うたヒロインをあの手この手を使って寝取ってくるねん。頭もチカラも主人公より上。話術や策略は常に主人公の上を行って、あっと言う間にヒロインはこの大樹に取られるんや。最終的に精神がぶっ壊れた主人公と快楽堕ちやらなにやらして天王寺 大樹にべったり惚れ込んで離さへんヒロイン。


 もう甘酸っぱい学園生活を一通り応援してやっと付き合うたか…と幸せな気分になってたらこいつのせいで主人公だけやのうてプレイヤーまで脳を焼かれてまうねん。しかもタチの悪い話はエンディング。絶望に暮れてるプレイヤーがスタッフロールを呆然として眺めとったら、この腐れ竿役とヒロインとのアフターが見れる。当然寝取ることを目標としとっただけやから、ヒロインのことなんかあっさり捨てよんねん。その捨てられぶりがまた最悪で、風俗堕ちなんか当たり前。ほかにも…


・妊娠したことを告げたら蒸発。親からは勘当されて母子家庭。しゃーないから高級なお風呂屋さんで働くことになる。


・危ないお薬を打たれすぎて廃人。更生したと思ったらまた連れ去られてそのまま…。


・すっかり依存状態になってたら、それが鬱陶しかった大樹がヒロインを捨て去る。そのせいで精神崩壊して精神病院で壁にブツブツ言うことしかできなくなった。


 このヒロインの末路はほんまに製作スタッフ一同頭おかしいんちゃうかって言うようなエンドばっかりで、寝取られたショックにさらに追い打ちをかけて脳を破壊しにきよんねん。俺もすっかり脳を破壊されかけて「あんたら人の心とかないんか?」ってメールを10回くらい送ったわ。返事全部シカトされたけど。


 脳を破壊されながらなんでプレイし続けたかって?それはこのゲーム、むちゃくちゃ凝った作りでヒロインの作画がめっちゃええねん。ほんまいろんなエロゲとかギャルゲやったけど、このゲームのヒロインは3人ともどストライクやった。立ち絵の表情変化も細かいし、一枚絵も造詣が深い。最後に脳を焼かれるとわかってても、このヒロインらのために俺は100時間以上このゲームをプレイした。


 ちなみに有志が集まって天王寺 大樹の魔手からヒロインを救うことはできへんのかって膨大な時間を使って回避を試みられへんか試してみたけど、絶対にお約束エンドやった。製作スタッフの偉いさんが言うには「スタッフロールの後のお話こそが各ヒロインのトゥルーエンドです」とSNSで発信して炎上した。ただスタッフはその炎上ですら愉悦やったらしいわ。そんなわけで「天王寺 大樹」と言う名前どころか、天王寺って名前を見ただけで発狂するプレイヤーが多かったらしい。大阪のプレイヤー発狂しまくりやんけ。


 そんな竿役に転生したわけやけど、もちろん主人公からヒロインを寝取る気なんかないし、まあ悪い噂しかないような奴やから、向こうから近寄ってくることもないやろ。それよりか。


「高校生時代はぼっちで全然楽しめんかったからな…しかも最後は引きこもりに近かったし…高校2年のもうすぐ2学期やろ?こんなん楽しむしかないやん」


 俺は転生前は高校デビューに失敗して友達も部活もへったくれもあったもんやなかった。便所飯もしっかり経験したし、もちろんこのゲームみたいな甘酸っぱい青春なんかとは程遠い高校生活やったなぁ…。


 せやけど、こいつ頭はええし運動神経もええ。不良は不良やけど俺がこの体に入り込んだからにはサボりとかそんな生活はせえへんで。真面目に勉強して運動なんかもそれなりにして高校生活…せやなぁ…イケメンやし…彼女とか作って楽しい生活を送りたいもんや。俺は陽キャになります。本物です。


「よっしゃ。なんで死んだかわからへんけど、新しい人生。高校生活満喫しよか。転生したのに生前と一緒の生活してたらもったいないわ。しっかり楽しもか」


 そうやん。あのドブラックな会社から解放されて、しかも高校生活やり直せるとか神様にありがとうって言わなあかんわ。うーん…せやなぁ…。


「まずは街に出ていろいろ見て回ろか…腹も減ったし、生前の関東と一緒かってのも確認せなあかんな」


 ちなみに俺は生前、関西人やけど仕事の都合上東京で働いとった。東京やったらまあそのまま歩けるやろ。どうも天王寺の両親は記憶をたどると北海道に夫婦で仕事で出張しとるらしい。よって俺は今、生前と一緒の一人暮らし。冷蔵庫は空…こいつ、親からもろた金で自炊せえよ。もったいないやんけ。


「今日はもう時間も遅いし…てか何しとってん。昼寝しとった間に俺が乗り移ったわけか。と、とりあえず買い出しは明日にして…ど金髪なんかあかんやろ…美容院も予約してやな…」


 俺はこの「なんかイキったキッズがやりそうなど金髪」を黒髪に戻すための美容院の予約をしてから家を出た。


………


「うん、ちょっと違うとこはあるけど、よう知っとる街並みやったわ」


 街に出てみていろいろと見て回ったけど、生前の知ってる街並みと全然変わらんかった。まあスマホでいろいろ調べてたら牛丼屋の〇野屋が鷲野屋。〇屋が竹屋になってたりしとった。せやけどたぶん味までは変わらんやろ。そないなわけで俺は生前お世話になってたよし…ああちゃう。鷲野屋へと向かった。


「やめて!離してよ!」


「…あん?」


 ビル街を歩いとったら何や女の人の甲高い声が路地裏から聞こえてきた。何やトラブルっぽい感じの声やったな。さてどないしよかな。生前の俺はチビデブやったからこういう危ないところへは足を踏み入れることはなかったやろうけどな。せやけど、今は身長は185cm、筋肉ムキムキでケンカのたしなみもある「天王寺 大樹」なんや。困っとる人を放って飯なんか食ったら飯がまずなるわ。そういうわけで俺は路地裏へと足を運んだ。


………


「んな格好して誘ってんだよなぁ?」

「この娘すげえスタイル良くね?いいから。俺らとイイことしようぜ?」


「嫌って言ってるじゃん!あーし、あんたらみたいな人のためにこんなカッコしてるわけじゃないし!」


「まあまあ、そう言わずにさ」

「おとなしくしたほうが身のためだぜ?」


「い、嫌…離し、て!!」


 穏やかな学生生活過ごすねんって言うたけど…いきなりトラブルに自分から突っ込んでいくんかいって言うツッコミは甘んじて受けるわ。せやけど、事なかれ主義も度が過ぎたら以前と変わらん。せやから俺はこのチャラい兄ちゃんに捕まって半泣きになってる女の子を助けようと思った。兄ちゃんらに声をかけようと思った瞬間、俺は女の子の姿を見てちょっと固まってもうた。


「うお…ぉ…」


その絡まれとる女の子は…俺が余すことなくプレイしたエロゲ「NTR HAZARD」のメインヒロインのギャル系キャラ…夏目 詩奈(なつめ しいな)やったんやから。

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