第7話
このふたりも、そういった不可思議な世界のうごめきに翻弄され、リリレンジャー・レッドと音無姫という立場に別れてしまったのだ。代々、少女にしか受け継がれなかった神官から授けられる超常能力、それ自体が意志を持って少年を選んだのも、生まれたときから音無姫と分け合った特別な血筋が力と呼び合い、呼応したものと思われる。
小柄な少女はその掌に、黄金の横笛を載せていた。(音無の笛です…)姫が両手に笛を構えて一吹きすると、音もなく空気が割れていくのが感じられた。割れるというよりは避けて広がる気配か…(この音無き音が、闇の世界の黒雲を祓い、毒を消してくれます。どうかお持ちになって、役立ててください。わたしと同じ血をわけたお兄さまにしか扱えません。これを…)音無姫はひもの付いた革袋に笛を入れると、少年の首にかけた。(白百合城まで送ります)天幕が引き上げられたかと思うと、豪奢な装飾を施した鏡が現れた。姫が目をつぶって鏡に集中すると、波紋が広がるように表面が揺れる。(ここから白百合姫の宮殿へと繋がっています)レッドが手を差し込むと、何の抵抗もなく鏡に吸い込まれた。
「なんだ、こんなに簡単に行き来できるんだったら、来るときの数々の面倒は何だったんだ?」
少年がブツブツ言っていると、おつきの美女からにらまれた。戻る前に少年少女は抱き合って別れを惜しんだ。
「いつだってまた、すぐ会えるんだろ。」
と兄が言うと、妹は寂しそうに微笑んだ。
「竜巻緑風弾!」
グリーンは気合いと共に円盤を投げた。ブルーの稲妻青撃波と絡み合い、激しくうねって黒鳥と黒雲を蹴散らしていく。猛る空気に金髪がなびく。見た目の女らしさは一番の彼女だが、負けず嫌いな気性と同時に弱い者をいたわる強さを持っている。休み無く戦うので、ふたりは徐々に疲れてきている。そこへブラックを抱いたホワイトがやってきた。
「ブラックはどうしちゃったの?怪我は?」
心配するふたりに、ホワイトは余裕の笑みを見せた。
「気絶しているだけよ。白百合姫と兄の所へ届けたら合流するから、もう少しだけ踏ん張って。」
すらりとした肢体で振り返り、知性の輝く瞳で、ブルーはためらった。
「ホワイト、あなたも胸から血が。はやく治療してきてください。」
会話の間も黒鳥の攻撃はやまない。ホワイトの緩やかに波打つ髪も逆立つ。すぐに戻る、と言い残して、結界の中へ入っていった。
神殿では白百合姫と神官がレッドの帰りを待ちわびていた。
「お兄さま、ただいま戻りました。」
両腕に変身が解かれてしまった姿の少女を抱いているのを見ると、待っていたふたりは青ざめた。
「力を使い切ってしまいましたの。手当をお願い致します。」
背の高い神官は、少女を軽々と受け取ると、神殿の奥に用意されている寝台にそっと横たえた。
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