【Day40】09/04
Day40,9/4,天気:晴れ(気温はまだ高い)
9/3の朝、アラーム通りに起床するも、すでに隣に楽くんは居なかった。
大切そうにしていたヘッドフォンも机には残っていない。
ということは、私より早く起きて防音室やリビングに向かったのか。
私の頭の中では、まだ楽くんの作ってくれた穏やかなピアノの旋律が響いていた。
それから、少し残された“未来への希望”も。
私は多くを語らない楽くんの優しさに、不安が溶けていくような感覚があった。
とはいえ、自分が何者なのか?という問題は解決していない。
私がここにいる意味も、観察日記を書く理由も…それが分かれば、全て筋が通るのではないかと思う。
図書室でまだ見ていない本棚があったはず。
そこに何か資料があるかもしれない。
図書室の奥へ進んでいくと、また空くんが絵を描いている。
表情は真剣で、私の接近に気づいていないようだった。
「今日は何を題材にしているのですか?」
いつも空くんの描く絵は素敵で、興味があったので私は空くんに話しかけた。
すると、空くんは驚いて水彩画に使う水の入ったバケツをひっくり返しそうになる。
「わっ!危なかった〜!」
「すみません、突然話しかけてしまって…」
「大丈夫だよ。僕が集中しすぎたせいだから、気にしないでね。今日は“記憶の花”がテーマの作品だよ。」
そう言って空くんは描き途中の作品を見せてくれた。
「記憶の花」という題は…私には少し難しいけれど、今日のような晴れた空に可愛らしい花が散りばめられている作品。
水彩画特有の淡いタッチが、素直に美しいと分かる。
「綺麗な作品ですね…見せていただいてありがとうございます。じゃあ、私はこれで…」
「いいえ〜あれ?もう行っちゃうの?」
「ちょっと調べたいことがありまして。」
「僕も手伝うよ!ちょうど気分転換したかったんだ。」
空くんは筆を一旦置いて、私の調査に付き合ってくれた。
作業の邪魔だっただろうか、と私は不安になった。
でも、隣を見ると空くんはニコッと笑ってくれた。
私について書かれている資料を一緒に探してもらったが、結局夕方までかかっても見つからなかった。
「ふぅ…やっぱり、無さそうだね。もうすぐ夕飯だし、今日はとりあえず切り上げよっか?」
「そうですね…協力していただいてありがとうございました。それに、水彩画も…」
「気にしないでいいって!趣味だから。あ、それと僕、今夜君と一緒の寝室らしいんだ。その時にでもまた話そうね。」
空くんはバイバイ、と手を振って去っていった。
私が何をそんなに必死に探しているのか、特に聞かれなかった…気を遣わせてしまったのか。
そんなことを考えつつ、空くんが置きっ放しにしていった未完成の「記憶の花」を見ていた。
図書室での調査で疲れたのか、夕食後はボーッとしてしまった。
そしてシャワーなどを済ませると、あっという間に就寝時間だ。
私は寝室へ向かう。かなりの眠気を伴いながら。
「あぁ、空くん…こんばんは…」
「こんばんは、っていうか大丈夫?めっちゃ疲れてるね……おっと!」
私は寝室前で空くんと会ってから、記憶が曖昧だ。
恐らく疲労と眠気で、倒れかけたのだろう。
全身から力が抜けるのと同時に、空くんの気配と温度が近づいたのは覚えている。
私が気付いたときにはもうベッドの上だった。
きっと空くんが運んでくれたのだ。
隣で空くんはスケッチをしているように見えた。
でも、私はもう眠気に抗えなかった。
「無理して目を開けなくていいよ。僕は眠くなったら寝るから、君はおやすみ。」
「空くん…おやすみなさい…」
「ふふ、寝顔も綺麗だね。おやすみなさい。」
私はまともに会話せずそのまま寝てしまった。
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