星の記憶:EP06 小惑星侵入作戦【1】
――ついに、小惑星侵入作戦が開始された。
囮部隊は予定どおり、何食わぬ顔で小惑星宙域へと進入する。
その動きは、あくまで通常の調査活動を装ったもの。
センサーを稼働させ、定型文の通信を淡々と送信していた。
一方、その陰では――漆黒のシフト艦がひっそりと身を潜めている。
潜入チームはすでに搭乗を完了し、発進の合図を待つのみ。
ヒカリはシートに深く身を預け、膝の上で拳を握りしめる。
(ここからが、本当の勝負……)
管制から通信が入る。
「シフト艦、全システム正常。――ディメンション・シフト、起動準備完了」
艦内の空気が張りつめる。
ヒカリの視線は、正面の虚空へと注がれていた。
次の瞬間――
艦が揺らぎ、周囲の景色がまるごと掻き消える。
まるで、光も影もない“何もない宇宙”に飛び出したかのような錯覚。
わずかな振動が身体を包み込む中、ヒカリはそっと目を閉じた。
――通常、三次元に生きる人間には、四次元の空間は知覚できない。
そのため、ディメンション・シフト中は、あらかじめ組まれた自動航行プログラムがすべてを代行する。
もちろん、人が四次元を知覚できるようにする研究も進んではいる。
だが、それは“人という種”を別の存在へと変える行為――
倫理的にも、技術的にも“忌避”される領域だった。
やがて、電子音が鳴る。
――まもなく、目標地点に到達。
ヒカリが目を開けると、視界いっぱいに小惑星の岩肌が迫っていた。
隣の席から、パイロットのリディアが落ち着いた声で告げる。
「ディメンション・シフト停止。現在、小惑星とランデブー中」
「よし。慎重に接近しつつ、目標地点からの侵入を試みる」
現場指揮官、トウドウ主任の指示が飛ぶ。
艦がゆっくりと、小惑星表面に接近していく――
その瞬間。ほんの僅かな映像の乱れとともに、船体が岩肌をすり抜けた。
その内部は、まるで金属で覆われた構造物だった。
壁には幾重にも光の筋が流れ、ところどころから微光が漏れている。
「さあ、今ごろ囮部隊が上手く時間を稼いでくれているはずだ。ここからは――時間との勝負になるぞ」
トウドウ主任の声に、艦内の緊張がさらに高まる。
シフト艦はさらに加速し、奥へと進んでいく。
「小惑星内部に、巨大空間を確認。格納庫と思われます」
オペレーターの声が飛ぶ。
「よし。ディメンション・フィールド作動。壁を抜けるぞ」
再び艦体が揺らぎ、虚像のように壁へと滲んでいく――
そのまま、黒い艦は、異形の基地内部へと溶け込んだ。
◇◆◇
――ヒカリ達が施設へ侵入する少し前。
「よし、妨害システム最大だ! 遠慮はいらないからな!」
囮部隊が広域に妨害電波を撒き散らす、作戦宙域全体を覆い尽くす規模だ。
「うっわ、こりゃ自分がやられたらブチギレるな!」
マルコがモニターの数値を見ながら面白そうに笑う。
「おっと、さっそくお出ましだ」
囮部隊へ向かってイクシオンの艦船が近づいてくる。
『こちら、イクシオン辺境艦隊所属艦ヴォルテックス。直ちに妨害電波を停止せよ!』
「深宇宙方面艦隊所属――探査船
『繰り返す、貴艦は我々の調査を妨げている。直ちに妨害を停止せよ。停止しない場合は強制措置を執る』
「現在、原因の調査を行っております、今しばらくお待ちください」
(潜入チームはやく終わらせてくれよ。こっちは、あまり持ちそうにないぞ)
マルコは心の中でそう願いながら、必死にイクシオン艦との交渉を続けた。
◇◆◇
施設内は、想像とは違い静まり返っていた。
ときおり空調だろうか僅かな排気音が聞こえる。
外宇宙用ヘルメットのスピーカーから、トウドウ主任の声が聞こえる。
「お前は予定どおり、施設の捜索を開始しろ。無理はするなよ、危険を感じたらすぐに引け」
「主任はどうするんですか?」
「俺は中心部の制御コアを目指す。もしものために保険をかけておく」
「了解しました」
トウドウ主任が移動するのを確認し、ヒカリも行動を開始する。
施設内には、最低限の人員が通れるスペースは確保されていたが、大人数での作業は想定されていないようだった。すれ違うにも肩が触れそうな、狭い通路だ。
通路には無数のパネルが設置されているが、ヒカリには内容が読み取れない。
(……おそらく、イクシオンの独自言語ね)
ヒカリはシフト艦から送られてくるデータをもとに、データ施設だと思われる場所を目指す。
(確か、たぶんこっちよね?)
データサーバーは大量の熱を発生させるため、ヘルメットのモニターに表示される熱源発生箇所を確認しながら進む。
しばらく進むと、明らかに他とは違う扉を発見する。
ヒカリは事前に渡された装置を取り出し、扉に取り付けるとスイッチを入れる。
ピッピッという電子音が鳴り、モニター部分に緑の文字で『CLEAR』と表示された。
(よしっ)
ヒカリは扉を開け部屋に侵入する。
その部屋には巨大なモニターと複数の座席が備え付けられており、まるで何かを観測・監視するための制御室のようだった。
さっそくモニターのコンソールにコネクターを繋ぐ。
コネクターで繋がれた装置の画面には「1%……2%……」と進捗状況が表示されている。
(まだ時間がかかりそうね。しっかし見たことない機械ばっかりね)
部屋を見渡しそう呟く。
そして、コンソールの上に置かれたデータパッドに目がとまる。
(あれ? これってイクシオンが使ってるやつよね)
ヒカリはデータパッドを手に取り、適当に触ってみる。
しかし、そこには宇宙の映像が映された画像データがあるだけで、特に変わった画像は無かった。
(進捗状況は……47%。後半分)
データパッドを戻そうとしたその時――一つの動画ファイルが目にとまった。
何だろうと思い動画を再生するとそこには、信じられない光景が映し出されていた。
そこに映し出されたのは深宇宙探査艦〈オルフェウス〉の姿だった。
オルフェウスは探査プローブを打ち出し周辺を調査しているようだった。
「これ……パパの船だわ!」
ヒカリは思わず声を出して叫ぶ。
「どうした、何かあったのか?」
「あ、トウドウ主任。これ見てください」
そう言って動画を見せる。
「これは間違いない。イクシオンがオルフェウスを監視しつつも、隠蔽していたという決定的証拠だ」
「はい!」
ヒカリが力強く頷く。
(進捗状況は……88%。もうすぐね)
――その時、シフト艦から連絡が入る。
「囮部隊からの通信で、イクシオン艦がそちらへ向かったと報告が入りました」
「了解だ、こちらも目当てのものを見つけた」
「囮作戦がバレたみたいだな。データ転送はどうだ?」
(進捗状況……99%……100%)
「こっちも完了です」
「よし、すぐに脱出するぞ!」
そう言って、ヒカリたちはシフト艦へと走り出した。
※長くなったので2話にわけます。
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