元勇者JKの日常
ひつじうお
プロローグ
「あ~!彼氏ほし~!!」
四限が終わり、昼休みを迎えた
声の主は教室の後方で円を作って食事をしていた四人組の少女の一人。長い艶やかな金髪を流し、平均よりも頭一つ分高い長身とそれにふさわしいプロポーションを惜しげもなく晒しふんぞり返る少女に一部の男子が恥ずかしそうに視線を逸らした。
「前もそんなこと言ってたわね」
「ってかずっと言ってるでしょ」
「ち、中学生の頃からだね……」
他の三人の少女たちは大声の嘆きに乾ききった反応を示すばかりで、その関係の長さが伺える。慣れ切ったと言わんばかりの薄い反応に金髪の少女、
「ねえ!!反応薄いんだけどっ!?」
「……薄いって言われてもなぁ」
その声に反応したのは黒髪を肩くらいの長さで切りそろえた少女、
「亜里沙、そう言って誰かと付き合ったことないじゃん」
「だって近寄ってくる男みーんなしょうもないんだもん!頼りがいがない!安心できない!守ってくれなさそう!!」
「いや、中高生に何を求めてるんだよ……。さすがにハードル高いって」
真央の主張はごもっともだ。
結婚どころか同じ墓に入ることまで見据えた亜里沙の恋愛観は、中学校や高校といった狭い箱庭の中、限られた範囲の中で甘酸っぱい色恋を楽しみたい少年少女の考えとは合わないものであった。
故に彼女は優れた容姿を持ちながら未だに彼氏ができたことがなかった。
真央の意見に追従するように、深い海を思わせる青色の髪の少女が告げる。
「亜里沙は理想高すぎなのよ。相手の経済状況まで気にするのは高校生のすることじゃないわ」
「はあっ!?それは夕依もじゃん!」
「ふっ、わかってないわね。私は高校の恋愛は期待していないと言ってるのよ」
そう得意げにわざとらしい身振りをした
「そ、それは誇ることではない、ような……?」
「そうだよ!仄華の言う通り!!まだ高校生になりたてのピチピチの女の子が『高校での恋愛は捨てます』なんて宣言、勿体なさすぎる!ほら、仄華ももっと言ってやってよ!」
「わ、わたしも恋愛とかよくわかんないし……」
「うぐぅ……、なんで……。ここには普通の女の子はいないの!?」
嘆くように頭を抱える亜里沙に、真央と夕依は顔を寄せてひそひそと話す。
「ヤダ!聞きました?夕依さん。亜里沙のヤツ、まだ自分が普通の女の子だと思っていましてよ?」
「全く、嘆かわしいことね。私たちの中でも一、二を争うくらいにおかしいというのに」
「……ちなみに競合相手は?」
「貴女」
「はあっ!?私は普通だろ!」
「あ、ああ……。別のところで喧嘩が起こった……」
嘆く亜里沙を放って言い争いを始める真央と夕依。そしてその様子を見て絶望的な声を上げる仄華。
入学式以来、毎日見かける光景だった。
彼女たちはそれぞれ異なるクラスに属していながら、登校時、授業の合間、午前の授業が終わった後の昼休み、放課後のいついかなる時間でも、見かける度に四人で行動していた。
決して人付き合いが悪いわけではない。話しかけられれば応じ、遊びに誘えばついてくる。それこそ最初のクラス会などは四人ともそれぞれのクラスの会へ顔を出していた。
しかし、気が付けば四人で固まっていることが多かった。
そんなだから興味を持って話しかけに行く者も少なくなかったが、彼女たちが四人組でいることを好んでいるとわかると自然と離れていった。
そうして彼女たちはその日の教室の混み具合や空きスペースの有無などを鑑みていずれかの教室で食事をとっていた。
「大体、女の子扱いすると嫌がる癖に変なプライドを持っているのはどうなの?」
「いやいや、オレが女の子なのは変えようのない事実だし、こん中じゃ一番の常識人だろ!少なくとも、常識を認識したうえでぶっちぎる夕依が何を言ってるんだ!」
「……一人称、戻ってるわよ」
「…………ん゛ん゛っ。私より夕依の方がおかしい!」
「わ、わたしは……?」
「「いや、仄華は常識人でしょ」」
「もうっ!!うるっさい!!あたしの話はどこ行ったの!?」
つまらない言い合いをしていた真央と夕依だったが、正気を取り戻した亜里沙が舵を取ろうと声を張り上げると、当初の話題を思い出して思考を冷やす。
とはいえ、亜里沙の恋愛事情など彼女たちには知ったことではないし、亜里沙も何かを得られると思って言ったわけではないというのはわかり切っている。
「「諦めなさい」」
「だよねー……」
先ほどまでの熱の入った言葉が嘘かのように沈み込んだ亜里沙を冷たい目で見る三人。
「最初に言ったことが全てだ。亜里沙の求めるパートナーの条件と照らし合わせると少なくともこの学校の生徒は全員ガキとして対象から外れる」
「そうね。範囲を学校外へと広げたとしても同級生にその条件を満たす者はいないわ。いたとしてもそれは親がお金持ちというだけ。本人の能力とは関係がないわ」
「二十代後半になってようやく一人見つかるかどうかかな……」
「ひぃん……」
普段はおどおどしているが言う時ははっきりと言う仄華にすら言われてしまえば亜里沙としては反論できない。既に亜里沙を除いた三人が食事を終えていることに気が付いた亜里沙が時計を見ると昼休みもあと少しとなっており、急いで弁当をかき込んだ。
その様子を見ながら、三人は各々の恋愛について思いを馳せる。
亜里沙もそうだが、四人とも常人離れした優れた容姿を持っている。金髪ギャルの亜里沙、蒼髪清楚系の夕依、黒髪ロリ枠の真央、桃髪長身メカクレの仄華と属性もバラバラであり、四人ともそれなりに校内でファンを獲得しており、思いを押さえられなくなった者に告白されることも少なくなかった。
しかし、夕依は先ほど述べたように高校での恋愛を捨てており、送られた想いに対して答えることはしなかった。
真央は恋愛に興味がないためバッサリと切り捨て、仄華も興味こそあるもののまだ恋愛はわからないとさりげなく断っている。
「くっそぉ~!!高校卒業するまでには彼氏つくるんだから!」
「が、頑張ってね……!」
「賭けでもしましょうか。私はできない方に賭けるわ」
「おい、私に勝ち目がないだろ」
「そこ!あたしに彼氏ができない前提で話をするな!」
そもそも、亜里沙がここまで恋愛観を拗らせているのには理由がある。
二年前、当時中学生であった彼女たちの足元に突如として光り輝く魔法陣が現れ、成すすべもなく異世界へと召喚された。喚ばれた先で告げられたのは、世界を滅ぼそうとする魔王を倒してほしいというファンタジーものの小説では幾度となく用いられたもの。
既に呼ばれた後で断ればどうなるかわからず、承諾せざるを得なかった四人は大して関わりがなかったこともあってぎくしゃくとした雰囲気のまま魔王討伐の旅へと向かった。
信じられるのは四人だけ。
金を稼ぐのは自分たち、稼いだ金を管理するのも自分たち、邪な考えから近づいてくる男たちを
異世界では何故か見目の良い者が多く、彼女たちの目が肥えてしまったことも恋愛成就の難しさに響いていることだろう。
魔王の討伐を成し遂げ、元の世界に戻って来る頃には当初のどこか気まずい雰囲気が嘘のように消え去り、親友がごとく仲良くなった彼女たちはそのまま中学校を卒業するまで一緒に行動し、高校も同じところを選んで受験。
そうして今に至るというわけである。
その後もいつも通り意味のない会話をだらだらと続けようとしていた亜里沙だったが、昼休み終了のチャイムが鳴ったことで急いで昼食の残りを詰め込み、それぞれの教室へと戻っていくのであった。
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