第3話 プラ

「まだ他の国までは行ったことがありませんが……この国の中だけでも呪いが降りた地域は少なくとも六か所あります。」

プラが言った。


「ホルノさんがいた田舎にはジュダサがいるとは思いませんでした……

その呪いが広がった、不気味な気配が漂っているのは確かでしたが……何かが破壊された跡はありませんでした……

……昔あいつが戦っているのを見たときも、少し前にあいつに襲われたときも、あいつは広く、深く、何かを壊しながら進んでいました……

存在そのものから来る破壊力とでも言うべきか……

……そんなものが潜んでいる存在のはずなのに、痕跡を見つけられませんでした……


とにかく……これから七日ほど歩けば、最初の目的地に着きます。

地名はポワソン……セシェ……?……はぁ……地図を調べながら自分で作ってみましたので、それを見て行きましょう……」


「地図に文字を書いたの?」


「ええ……近くの標識に書かれていた……地名らしきものを書いたのですが……私の知らない文字でして……」


「……移民なの?」


「はい……もともとは別の大陸で暮らしていましたが、数年前に移住してきました……あちらで戦争が起きまして……」


「とりあえず地図を見せて。」


プラが荷車をあさり、地図を取り出してアンネビネに渡した。


「こちらです。」


プラが地図のある部分を指で示しながら言った。


「……これはポワソン・セシェって読むんだよ。」


アンネビネとプラの最初の目的地は、かつてはスイスと呼ばれていた、今では岩と木ばかりの僻地、ポワソン・セシェだった。

そこに入って戻ってこられなかった行方不明者があまりにも多かったため、一般人は立ち入り禁止になっている場所である。


「……立入禁止区域だったはずですが……こっそり入れる道を三か所ほど見つけておきました。」


「よくやった。とにかく、万が一すぐにジュダサに遭遇するかもしれないし、体力づくりとか、そういう備えをしてから行ったほうがいいかな……」


「それをする必要はないと思います。」


「なぜ?」


プラがアンネビネに鉄のバールを渡す。


「それをできるだけ強く握ってみてください。」


アンネビネが鉄のバールを握りしめる。

ぐにゃり。

バールがあっさりと曲がる。

アンネビネが手首をひねる。

バールが真っ二つに裂けた。


「……?!?」


その力は、アンネビネが“英雄”と呼ばれた全盛期と同じ破壊力だった。


「呪いから解放された人間は、そんなふうにすぐ元通りに体が回復します……まるで別の世界から戻ってきたかのように……」


相変わらず奇妙なことばかり起きている。


「そのジュダサって兵士は、昔は……占い師みたいな人だったんですか?」


「ただの、ものすごく強くて、命令をよく聞く兵士だったよ。」


「ではなぜ、あいつに関わるものには霊的なものが付きまとうのでしょうか……」


「さあ……」


アンネビネは頭の中で革命軍時代の記憶をたぐった。

ジュダサに関するあらゆる記憶。


彼は怪しい行動をしたことはなかった。

まるで機械のような男だった。

命令がなければ、特に何かをすることもなかった。


そんな男が突然現れて疫病をばらまき、民間人を殺しただと……?


奇妙なことだらけだ。

何ひとつはっきりしない。


プラも、自分が説明したことが自分の知るすべてだと言った。


最初の捜索まで、およそ七日が残っている。

昔ほど人数も多くなく、戦う条件も違う。


三人の英雄たちはどこへ行ったのか……


今になって思えば、自分たちを“英雄”と呼ぶのは少しおかしいのかもしれない。


初代英雄たちの目的は救世主になることではなかった。

あの四人の貴族たちの権威が揺らいだから、反乱を起こしただけだ。

共和制を望んだわけでもない。


もともと王政に不満を抱いていた平民たちが、「今の王を引きずり下ろす」という目的を持った貴族たちに追従したのだ。

貴族たちは平民を仲間に入れるつもりはなかった。

自分たちの所有する兵士を使うつもりだった。


平民たちがあまりにも兵士になりたがるので、仕方なく何人か受け入れた結果、あれほどの規模になったのだ。

想像以上に大きくなってしまったものを小さく戻すのは難しかった。


こうして四人の貴族は、一時的に“英雄”と呼ばれることになった。


























プラ・クッキー。

彼は西暦4050年12月1日、かつてアメリカ合衆国のワイオミングと呼ばれた新英連邦のモンスニービスで、農家の子として生まれた。


プラ・クッキーの家族は、母ジェリー・クッキー(享年30)、父ベフストロガノフ・クッキー(現在50)、姉ビコ・クッキー(現在27)がいる。


理由はわからないが、プラ・クッキーは自らが犯すほとんどの犯罪に対して抵抗感を覚えない。


彼は数々の犯罪を犯した。

誘拐、窃盗、死体遺棄など……

許されざる犯罪を多く犯してきた。


その犯罪には共通点があった。

対象はすべて、プラの家族に危害を加える存在だった。

それが善であれ悪であれ関係なかった。


あるときの相手は、無銭飲食をしたプラの父を捕まえに来た、ある食堂で働く青年だった。

プラは彼を捕まえてどこかへ連れ込み、二度と自分たちの家に来るなと脅して解放した。

その青年が引っ越すまで、プラは一日に何度も背後から彼を監視した。


またあるときの相手は、プラの姉に襲いかかった野犬だった。

飼い主がいたのかどうかは不明だった。

その犬がビコの服の裾に噛みついて離さなかった。

下手をすれば脚の肉を食いちぎられていただろう。


数日後、プラは村の近くの山をくまなく探し回り、そこにいた複数の野犬、子犬までも殺した。


プラは犯罪を犯しても罪悪感を感じなかった。

彼の頭の中には、普通の人間には当たり前にある何かが欠けているようだった。

それが先天的なものか後天的なものかはわからない。


確かなのは、彼の犯罪のほとんどが家族を守ることを目的としているということだ。




アンネビネ・パッシェ・スパーダ・アル・ホルノ(アンネビネ・ホルノ)は、西暦4043年9月8日、かつてイタリアのシチリア島と呼ばれたキヨグフ王国のメレンダ丘で、ある貴族家の一人娘として生まれた。


彼女は幼いころから動物を飼うのが好きだった。

かつては彼女の住んでいた城の庭の半分が、動物を飼う飼育場で埋まっていたほどだ。


しかし、あるときから一頭の雌ライオンだけを特別に可愛がるようになり、他の動物たちのほとんどは召使いたちに飼い慣らされるうちに死んでいった。


彼女は18歳のとき、初代“英雄”となった。

革命軍での生活の中で、彼女はその狡猾な性格を育てていった。


残り三人の英雄たちは平民兵士を管理し、多少なりとも責任感や愛情を抱いていたが、アンネビネにはそんなものはなかった。


彼女は今、その理由は不明だが、八年間も外部の人間を恐れてきたにもかかわらず、初めて会った男プラ・クッキーを信頼している。

本来の彼女の性格なら、ジュダサが生きている証拠をいくつも突きつけられても、相手を完全に信じることはなかっただろう。
































ガチャリ。


プラとアンネビネは数日かけてポワソン・セシェに到着した。

舗装路沿いにそのまま森へ向かえば、近くに警官が多すぎて邪魔になるだろう。


プラが見つけておいた一つ目の道へ向かった。

だが前に来たときとは違い、そこにも警官が配置されていた。


プラがそこに立ち寄ったのを誰かが目撃でもしたのだろうか。


二つ目の道へ向かった。

そこにも警官が配置されていた。


三つ目の道にも警官がいた。


「……??!?……これは予想外ですね……」

プラが冷や汗を流しながら言った。


「……はぁ……八年ぶりで下手になってるだろうけど……」

アンネビネがぶつぶつ言いながら、ある構えを取った。


両腕を上に上げ、右脚を九十度上に上げる。

その状態から体を素早く回転させた。


ヒュィィィィィィィィィ――

アンネビネの周囲に強烈な風が巻き起こる。


風があまりにも強く、隣にいたプラは思わず目をぎゅっと閉じた。


そして、しばらくしてから目を開けた。


アンネビネの姿が消えていた。





















To Be Continued.....

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