第2話 ゲームスタートのその前に

 いくら周りを見回しても、自分の部屋の光景なんて欠片も無い。服はパジャマ代わりのジャージで裸足、眼鏡は掛けてる、スマホ……はちょっと先に落ちてるな。

 とりあえずスマホを拾ってその画面を見ると、そこにはこんな文字が表示されていた。


『事前登録ありがとうございます。

 厳正な抽選の結果、あなたは「ゲームの世界に転移する権利」を見事入手する事が出来ました!

 おめでとうございます!


 ただし元の世界と行き来する為には「魔法の石(極大)」を作成し、「異世界転移陣」もしくは「異世界転移扉」を作成して接続して下さい。

 また、開始時点からこちらの世界で1年以上が経過しないと元の世界との行き来は出来ません。

 双方の世界の混乱を避ける為です。ご了承下さい。


 それぞれの世界の通貨は原則本来の世界でなければ使用できませんが、『Magic Sand』では内部通貨を元の世界の通貨に変換する事及び、元の世界の通貨で便利な機能や素材、道具を購入する事が可能です。

 便利な道具の中には寿命を延ばすものや、転移する場所と時間を指定する事ができるものがあります。ご活用下さい。


 以上で「ゲームの世界に転移する権利」の説明を終了します。

 チュートリアルを開始しますか?』


 …………今すぐその場でスマホを地面に叩きつけなかったのは褒められていいと思う。何だこのふざけた文章。1年は元の世界に戻れない? 1年も行方不明でいろってか? こんなもん誘拐もしくは拉致だろうがちょっと待て。

 今すぐお気持ちメールを連投してやろうかと思ったけど、深呼吸をしてからもう一度文章を読み直して、その後ろの方、「転移する場所と時間を指定する事ができるもの」っていう部分を見て、ちょっと冷静になった。

 なるほど? 「こちらの世界で1年以上経過」する必要はあるけど、「元の世界に戻る時に拉致された瞬間に戻る」のはいいんだな? むしろそれを推奨してる。でないとチュートリアルの前に表示される文章にわざわざ書かない筈だ。


「……うーん」


 で、チュートリアルを開始しますか? という文章の下に『はい/いいえ』の選択肢が出てる訳なんだけど。

 その前にもう一度周りを後ろまで含めて見回して、後ろにはそこそこ草地が広がっててその奥が森になってるのを確認。草地の近くに移動して、膝ぐらいまである芝生みたいな草の中から、にょきっと倍ぐらいの長さで生えてる草をよく眺める。

 その辺に落ち葉として落ちてそうな、丸っぽい大きな葉っぱ。笹みたいに茎から左右交互に生えてるその葉っぱは、匂いを嗅ぐと何故かみかんとかオレンジみたいな匂いがする。解像度高いな。異世界か。そうか。


「たぶんこれが、「ケアリーフ」だよな?」


 何しろ『Magic Sand』は最初のシリーズからやっている。そしてこの「ケアリーフ」というのは、もう、ザ・基本素材の1つとなる。何ならチュートリアルでも手に入れて加工するところまでほぼ固定だ。そしてその割に、かなり終盤までお世話になる超有用素材でもあった。

 問題は、この「ケアリーフ」を入手するのは間違いなくチュートリアルに存在する手順だって事。そして素材の採取には体力を消費するのは確定として、その体力がまだ表示されてないって事。なおかつ、『Magic Sand』シリーズでは採取場所に難易度があって、一番難易度が低い砂浜以外では、プレイヤーに攻撃して素材を奪っていくモンスターが出るって事だ。

 流石に「ケアリーフ」は砂浜には生えてない。周りを見たら「ケアリーフ」自体はそれなりの数が見えるけど、草地に踏み込まずに取れそうなのはこれ1本。つまりここでフライングして採取すると、チュートリアルが進行不可能になる可能性がある。


「けど、チュートリアルを始めるまでに、手に入れておきたいものがあるからなぁ……」


 裸足だからなー、今。せめて靴下を履いておければ、一歩分なら踏み込めたかもしれないんだけど。砂浜はまぁ大丈夫。基本的に危ないものは無い筈だから。とりあえず最初の内は。

 ……まぁそれはゲームだからであって、異世界だったらそうもいかない可能性はある。だから、とりあえずチュートリアルを進めた方がいい。それも分かってる。


「……、木の棒と石ぐらいなら拾えるか?」


 でも、今まで『Magic Sand』シリーズをやってきた経験からすると、チュートリアルまでに手に入れておけば、そこから後がぐっと楽になるものがある。だからそれは手に入れておきたい。

 シリーズによっては、チュートリアル前から動けるけど、チュートリアルが始まる前までは無限体力だっていうのもあったし。ゲームじゃなくて異世界転移した今でも体力式なのかどうかは別として。

 だからとりあえず、スマホは持ったまま砂浜に移動。うーん、左右のどっちにもほとんど真っ直ぐ伸びていく白い砂浜。そして正面にはどこまでも広がって水平線でぶつかる青い空と海。


「……太陽があっちで、『Magic Sand』まほすなは東西南北と太陽の上り方が地球の北半球と同じだったから、ここは南向きなのか。北側に行くほど難易度が上がる感じかな」


 もしこの砂浜が西向きだったら西日が大変だし、東向きでも朝日が大変だし、北向きだったら寒い時期が大変だった。まぁ南向きでも嵐が来るって言う可能性があるんだけど。少なくとも大体は四季がある世界で春スタートだった。夏になるまでは大丈夫だ。

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