軽妙なのに重厚、癖になったら抜け出せない
- ★★★ Excellent!!!
爆笑でも冷笑でもなく、微笑み。作中にあるこの言葉が印象的だ。人生を変えるために直向きに努力する朝日と、彼を導く天才詩音の、年相応に素朴で暖かい関係性は、思わず微笑みながら見守りたくなってしまう。朝日は学校に馴染めない生き辛さを抱えているが、悪者がいる訳ではない。名前のないモブキャラを含め、登場人物全員に、それぞれの人生をまっすぐ歩んでいる明るさがある。
文系ギフテッドなどのワードセンスを含め、文章はくすっと笑いながらさくさく読める。それなのに、所々で純文学的な重さや緻密さを感じる。ヒロインの詩音が芥川賞作家であり、朝日も数年後に芥川賞を受賞することが示唆されているから、そういった流れであえて地の文にも純文学の香りを漂わせているのかもしれず、恐ろしく文章が上手い。タイトルで「涼宮ハルヒの憂鬱」が引用されているだけでなく、作中では「Dr.stone」や「ワールドトリガー」等の漫画の描写があり、おそらく「コンビニ人間」や「ほんのこども」等の純文学作品のオマージュと読める文章もある。背景に相当な読書量を感じる。ライトノベルだけでなく、純文学も書かれている方なのかもしれないと思った。
そんな訳で本作からは、軽妙なのに重厚という、相反する印象を同時に抱いてしまう。この独特な魅力が癖になってしまった。この面白さがもっと多くの人に広まればいいのに、と素直に思いました。