第19話 公園の精霊
「ここが私の通ってる学校、美鳥女学院よ」
「綺麗で大きな校舎ですね……。女学院、ということは、女性だけが通っているのでしょうか?」
「そうよ。今ジュンナに貸してる制服も、この学校の指定制服」
「リアさん、本当に女子高生だったんですね……。てっきり、着なくなったお下がりをお借りしているのかと……」
「私、そんなに老けて見える?」
「違います違います! 背がお高いですし、とても落ち着いてるので……!」
「ふふ、ちょっとおちょくっただけよ」
「も、もう!」
プンプンと言う擬音が似合いそうな怒り方をするジュンナは、やっぱり2歳も歳上には見えなかった。
私は今、ジュンナにこの街を紹介して回っている。さしずめ、ご近所ツアーといったところか。
今日は、ライフラインとして優先度の高い施設を回ってから、駅前に移動して日用品を調達するスケジュールだ。
いきなり駅前に繰り出すよりは、比較的ローテクノロジーな住宅街から順々に回って行った方が、ジュンナのためでもあるだろう。
まず、一人でも食料を調達できるように、家から歩いて10分程度のローカルコンビニ。次に、何か体調が悪くなることを想定して、町医者と隣接している薬局。その後、万が一の場合に助けを呼べる交番。
そして、今は私の通う学校まで辿り着いた。
「あと数日は連休が残ってるから、基本的に家にいると思うけど……。学校が始まったらそうはいかないから、学校までの道順はできれば覚えておいて。地図でいうと、ここね」
「頑張ります……!」
印刷しておいた地域マップに、ジュンナは印と道順を書き込んでいく。今時、地図アプリで検索すれば一撃なのだが、非常に古風なやり方を採用している。
まぁ、コンビニの自動ドアを見るや驚いた猫のように飛び跳ねていた人物が、電子機器をすんなり扱えるとは到底思えないので仕方がない。
「それじゃあ、次はここの公園に行きましょう。夜になると滅多に人が来なくなるから、夢桜神社が使えない時はここで修行することになると思う」
「ふむふむ……。あ、ちょうど学校からの帰り道の途中にあるんですね」
「うん。さっき買ったお昼ご飯も、この公園で食べましょう」
「現代の食事、楽しみです……!」
私の手には、ローカルコンビニで買ったパンやお菓子が入ったビニール袋が下げられている。
お弁当を用意しても良かったのだが、どうせ朝一でコンビニに寄る予定だったので、せっかくならジュンナに現代の食事を体験してもらおうという話になった。
学校から数分歩くと、目的地の美鳥第一公園が見えてきた。砂場とジャングルジム、ブランコとベンチが二個あるだけの小さな公園だ。
この地域には、もっと大きい第二公園と第三公園があるせいで、園内が大賑わいすることはない。園の周囲が並木に囲われているために若干薄暗く、前の通りの人通りが多いとはいえ、治安的な面で少し危ないのではないかと常々思っている。
「じゃ、そこのベンチでお昼にしましょうか」
案の定、園内には小さな女の子が二人いるだけで、彼女らが遊んでいる砂場以外はガラ空きだった。
私たちは並んでベンチに腰掛け、コンビニ袋からそれぞれのご飯を取り出す。
私はオーソドックスな、レタスとトマトのサンドイッチ。
ジュンナは、チーズバーガーにチョコレートドーナツという、ジャンキーすぎる組み合わせを購入した。彼女曰く、「何事も挑戦です」らしい。
「これは……このまま齧り付けば良いのですか?」
「そうよ。ソースとか溢さないように気をつけてね」
「もぐっ……。うーん……は、初めて食べる味です……」
「でしょうね……」
ジュンナは一口一口、逐一味を確認するように食べ進めていく。
ジュンナの時代でも、パンもハンバーグもあっただろうが、それらが一つの食べ物になるという概念はなかったのかもしれない。私からすれば、ハンバーガーなど生まれた時には存在していたものだから、一々ジェネレーションギャップに驚く。
「こ、この、ドーナツ……? というお菓子、すごく美味しいです!」
続いて、ジュンナはチョコレートドーナツを頬張っていく。
どうやら、この洋菓子は相当に彼女のお気に召したらしい。上品に両手でドーナツを持ちながら、小さい口でパクパクと食べていく様子は、小動物を彷彿とさせる。
「ご馳走様でした。現代では、こんなに美味しいものが、こんなに簡単に手に入るのですね……」
「ご馳走様。確かに、ジュンナの時代と比べたら、食べ物の種類は相当に増えてるでしょうね。好きな食べ物とかあるの?」
「昔は、金平糖が好きでした……。ですが、先ほどいただいたドーナツもとても美味しかったです!」
「意外と甘い物好きだったのね」
そんな風にして、食後の何気ない会話をしながら、しばらくベンチでのんびりしていた。そういえば、ジュンナと世間話らしい世間話をしたのはこれが初めてかもしれない。
いや、私は誰かと世間話をすること自体、いつぶりかわからない。ジュンナは私の体質を理解してくれる人物だからか、それとも共に苦難を乗り越えた仲だからか……。彼女といると、肩の力が抜けて自然体になってしまう。
『幽霊なんているわけないじゃん! リアちゃんが嘘ついてるんだよ!』
『ねぇ、私……これ以上リアちゃんと遊ぶの、怖いかも……』
ふと、この公園で起きた嫌なことを思い出す。皮肉にも、肩の力が抜けたことで、蓋をしていた記憶が勝手に掘り起こされてしまった。
小さい頃、友達と遊んでいた時に、幽霊――精霊といった方が正しいか……私にしか見えない物だとわからずに、怖がらせてしまった。それ以来、あの子達とは遊んでいない。
あの頃から精霊のことを知っていたら、私の人生はどう変わっていたのだろう。そんなことを思いながら、遠く空を見上げた。
「……その時に食べた豆大福がとても美味しく……リアさん? どうかされましたか……?」
「あ、ごめん、少しぼーっとしてた……」
「どこか体調が悪いのですか……?」
「うぅん、大丈夫」
体調が悪い……。あ、そういえば、この公園……。
ふと、二日前――初めてジュンナに会った日のことを思い出す。あの日、学校から帰る途中、私はこの公園を通りかかった時に人型の精霊を見たんだった。あれから色々なことがあったせいで、すっかり頭から抜けていた。
「そういえば、一昨日この公園で人型の精霊を見たのよ」
「……今は、何も感じませんね。どこか徘徊しているか、浄化してしまったか、どちらかですね」
昨日の夜、ジュンナから説明してもらった内容を反復する。
精霊術では、私が人型の幽霊だと思っていたものも、”精霊”なのだという。
本来であれば、生き物が命を落とした時、その生き物に宿っていた精霊は自然へと還っていく。だが、稀に故人の未練が強いと、精霊がその意志を引き継いでしまい、自然へと還れずに形を持ってしまうらしい。
「ふむ……悪霊でないのであれば、血眼になって探す必要はありませんが……」
「けど、前に見た時はちょうどあの子達が遊んでる砂場のあたりにいたのよ。悪霊でないからと言って、絶対に安全、というわけではないでしょう?」
「はい。悪霊のように意図して危害を加えることはないでしょうが、ある程度霊力を持っているならば、間接的に影響が出ないとは限りません。それに、悪霊に落ちてしまう可能性も否めません……」
ジュンナは少し考える素振りをした後、何か思いついたように口を開いた。
「そうですね……、精霊術を学ぶ上で、リアさんの良い経験にもなるはずですし、対処しましょう」
「よし、そうと決まれば……」
探しにいきましょう!
と、言って立ち上がる前に、私の身体は身震いした。
この寒気で体調が悪くなる感じ、どうやら探しにいく手間は省けたらしい。
「この公園に近づいてきていますね……」
「やっぱり……。あの子供たちは避難させたほうが良いかしら?」
「いえ、変に不安にさせるのもよろしくありません。この霊力の大きさからして、直接的な悪影響はないでしょうから、このままで良いでしょう」
しばらく待っていると、公園の入り口に、その精霊は現れた。
白い人影のようなものが、宙を彷徨うようにして公園内に入ってくる。
私の身体の不調がより一層強くなっていく。
「リアさん、体調は大丈夫ですか?苦しければ、昨夜教えた瞑想を試してみてください。あの精霊は私が見張っておきますので」
「……わかった、ありがとう。ちょっとやってみるわ……」
ベンチに腰掛け直し、深呼吸をして目を閉じる。
そして、昨夜ジュンナに教えてもらった精霊術の基礎を思い起こす。
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あとがき
お読みいただき、誠にありがとうございます。
公園の幽霊の話は、第一話で出てきたものです
↓ https://kakuyomu.jp/works/16818792437158157865/episodes/16818792437158183294
(こういうの、余計な補足かな…とか思いつつ…)
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