第十四話 新たな武器②
ルナは、生まれ変わった刀を両手で恭しく持ち上げて、翔に差し出した。
それはまだ錆と汚れに覆われた、ただの鉄の棒にしか見えなかったが、彼女はその奥に眠る真の姿を見ているかのようだった。
「翔、この柄を握って。そして、あなたの『魔力』を心の奥底から流し込んでみて」
彼女のサファイアの瞳が強い意志を込めて、真っ直ぐに翔を射抜く。
「私たちのいた世界では、この兵装の起動に、精製した高純度の無属性マナが必要なの。でも、ここにはそれを安定供給する巨大なプラントは存在しない」
ルナはそこで一度言葉を切り、翔の心に語りかけるように、より一層声を強めた。
「でも、何の色にも属性にも染まっていない、純粋なあなたの魔力なら、この兵装のプライマリ・コアを強制的に起動できるはず。聞いて、翔。あなたの『無属性』は、欠陥なんかじゃない。何にも染まらないからこそ、あらゆる動力源、触媒になりうる、最も希少で根源的な資質なはずよ。その力は、私たちの世界では奇跡と呼ばれていた」
翔はゴクリと唾を飲み込んだ。喉がカラカラに乾いている。
無属性が、希少な資質?
奇跡?
誰からも「持たざる者」と蔑まれ、他の冒険者たちの華やかな属性魔法を羨み、自分自身でさえ呪ってきたこの力が?
長年、心にこびりついてきた劣等感が、彼女の言葉を素直に受け入れることを拒絶する。
半信半疑のまま、恐る恐るその柄を握る。
ひんやりとした金属の、ざらついた感触が、汗ばんだ掌に不快に伝わった。
そして、ルナに言われた通り、自分の内にある、いつもは意識することすらない微かな魔力の流れ――か細い小川のようなそれを意識し、祈るような気持ちで刀へと注ぎ込んだ。
その瞬間、奇跡が起こった。
「ジリッ」
乾いた、しかし寸分の狂いもない、極めて精密な機械が噛み合う音が、静まり返った空間に響き渡る。
それは、長きにわたり光を失っていた未知の兵器に、再び命の火が灯った音だった。
柄頭に嵌められた濁った魔石が、まるで心臓のように「ドクン」と一度、力強く脈動する。
次の瞬間、眩いほどの青白い光が、まるで小さな恒星が生まれたかのように溢れ出し、ルナが指し示した刀身のエネルギーラインを血管を流れる血液のように凄まじい速度で駆け巡った。
光は柄から鍔へ、そして刀身全体へと、瞬く間に伝播していく。
その光が走ると同時に、分厚く固着していた錆や汚れが、まるで日干しになった泥壁のように「パリパリパリッ」と甲高い音を立てて、次々と剥がれ落ちていく。
それは、悠久の眠りから覚めた龍が、古く、醜い皮膚を脱ぎ捨てる脱皮のようでもあった。
「キィィィィン……」
超高周波の金属が共振する、清浄な音が鳴り響く。
それは耳鳴りのようでもあり、星の産声のようでもある、魂を浄化するような音。
その音と共に、剥がれ落ちた錆の中から、光の粒子そのものを纏った、波紋のように美しい刃紋を持つ日本刀のような刀身が、その全貌を現した。
闇の中でさえ、自ら淡い光を放つかのように白銀に輝く、鏡面の刃。
刃こぼれ一つない、流麗で完璧なフォルムは、使い手を映し出す鏡のようだ。
それはもはや「武器」という言葉では表現しきれない、一種の芸術品のような神々しいオーラを放っていた。
翔は、自分の手の中にある刀の劇的な変貌ぶりに、ただ呆然とする。
先ほどの鈍器と同じものだとは、到底信じられない。
そして、驚くほど軽い。
まるで自分の腕の一部になったかのように、しっくりと馴染む。
彼は、試しに崩落によって落ちてきたであろう巨大な岩に、その刃を軽く押し当ててみた。
ズ……という、抵抗を全く感じさせない音。
いや、音というよりは、感触だ。
まるで熱したナイフがバターを通り抜けるように、何の抵抗もなく、何の衝撃も腕に伝わることなく、滑らかに岩が両断される。
切断面は、レーザーで切断したかのように鏡のように滑らかで、高熱で溶かされたかのようにわずかに艶を帯びていた。
これが、この刀の真の姿。
ルナの話からすれば、「マナブレード」とでも呼ぶべきものか。
起動したマナブレードを満足げに眺めながらルナが言った。
「完全修復にはちゃんとした設備が必要だけど……急ごしらえとしては上出来ね。それにしても、本当に純粋な無属性なのね……信じられない」
ルナは翔が使っていた刃こぼれのひどいショートソードを拾い上げ、軽く振って見せる。
「そのおもちゃよりは、ずっとしっかりした武器になるでしょ。あなたの力で目覚めたんだから、あなたが使って」
自分の「無属性」の力で目覚めさせた、自分だけの武器。
翔は、手の中に宿る、冷たくも美しい圧倒的な力の実感に、思わず武者震いした。
それは、恐怖ではない。
歓喜だ。
「持たざる者」だった自分が、初めて手に入れた、誰にも否定できない確かな力。
心の奥底、ずっと冷え切っていたはずの場所から、マグマのような熱い何かが、堰を切ったようにこみ上げてくるのを感じていた。
それは、彼の人生で初めて味わう、純粋な高揚感だった。
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