第32話 副団長、魔王に会う

ドガガガガッッ!!!

王都の大門前に、全身鎧の騎士団がズラァァァァッと勢揃いした。

銀の甲冑、槍と剣を構えた兵士たちが、怒号を上げる。


「敵襲ぅぅぅぅ!!!」

「魔族だ!! 魔族の大軍が攻めてきたぞ!!」 「……いや一人だぞ?」

「いや一人なのに、この威圧感とか意味わかんねぇだろ!!」


「ちょ、ちょっと待て!! 我は戦いに来たのでは――」

 

「黙れ魔族ぅぅぅぅ!!!」

「包囲しろぉぉぉぉ!!!」


――瞬間、魔王は完全に取り囲まれた。

槍の穂先が無数に突きつけられ、空気はピンと張り詰める。


(や、やばい……! 友好ムードどころじゃねぇ……!!)

(おちつけ……我は大人だ……まず、会話を――)


「おち、落ち着け諸君……!」

「落ち着けって、落ち着けるかバカァァァ!!!」

「その背中の羽なんだよ!? なんで地面ヒビ割れてんだよ!?」 魔王(……あ、力入りすぎてた)



---


「名を名乗れ魔族ッ!!」

「え、えっと……我は……」

(名前……あ、やべ、我の名前、威厳ありすぎるやつだ……! 言った瞬間、絶対斬られる!!)


魔王「……ミ……」

騎士「ミ?」

魔王「ミ、……ミラモンド!!!」

(誰だよソレ!? 我だよ!!)


「ミラモンドだと!? 聞いたことねぇけど強そうだなコイツ!!」

「絶対ラスボスだろ!!」

「殺れぇぇぇ!!」


「ちょ、待て!! 戦わぬ!! 我はただ――手土産を――!!」

――その瞬間、騎士の槍がバリィィィッ!!と手土産の袋を切り裂いた。


バサァァァァッ……


中身のスイーツが、無惨に地面に散らばる。

「…………」

(あ……我の……謝罪用……限定スイーツ……)

「……殺す」

「今、なんか殺意の波動出てたぞ!!」

「ヒィィィィッ!!」



---


――と、そこへ。


「おいおい、なんだこの騒ぎは」


低く響く声と共に、群衆がざわめいた。

騎士たちが道を開け――一人の男が歩み出る。


茶金の髪をなびかせ、剣を肩に担ぎ、片手をひらひらと振りながら。

その姿に、魔王は――


「ひっ……ひぃぃぃぃぃッッ!?!?」

(きたァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!)

(本物だ……!! トラウマ製造機が、現れたァァァァァァ!!!!)


「ん? なんだコイツ……見ねぇ顔だな」


(き、気づくな……気づくな……我を思い出すな……!!)


「で、お前、誰?」


 その一言に魔王の頭に大量のハテナが浮かぶ。

 

「…………え?」

「なんか騒ぎになってっけど、見たことねぇ顔だな。新人か?」

「し……しんじん……?」

(し、新人……? え、我、魔王だぞ!? 大陸の悪夢だぞ!?)


(……いや、待て。こ、これはチャンス……!! もし、奴が我を忘れているのなら――)


「……我は……その……ただの通りすがりである」

「ふーん」

(あ、あれ……!? マジで覚えてねぇ!? え、なにそれ!? 我のトラウマって何だったの!?)


――魔王の心が、バキバキに折れた瞬間であった。


 王都の白壁を背景に――魔王は、ぐしゃぐしゃに泣きそうな顔をしていた。


(ど、どうする我!? このままじゃ……謝れぬ!! 許しを乞えぬ!!)


レオンは、のほほんと首を傾げる。


「でさ、お前誰なんだ? 名前は?」


(ど、どうする……! いや……言えぬ……名を明かせば、即刻討伐コースだ……!)


「……その……我は……ただの旅人にて……」

レオン「へぇ~」

(え、え、え!? マジで疑ってねぇ!? なんで!? 逆に怖ぇよ!!)


――そのとき、魔王の脳裏に電流走る。


(あ……このままじゃ……謝罪できん……! この嘘が、のちのち大問題になる……!)


(ならば――!!)


魔王は、ぐるりと視線を騎士団に走らせ、そして――大の字で地面に倒れ込んだ。


「は……ははは……」

「……え?」

「我は……我こそは……魔王なりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


――沈黙。


数秒後、王都の門前は――大爆発したような騒ぎに包まれた。


「魔王だァァァァァァァァ!!!!」

「敵襲ぅぅぅぅ!!」

「総員構えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


剣と槍が一斉に鳴り、魔法陣が輝く。

雷と炎が唸りを上げ――


「待て待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇッッ!!!」

両手を振り回しながら、魔王は叫ぶ。

「戦う気はない!! 我は!! ただ!! 許して欲しいだけなのだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


「……は?」

魔王は――


ズドォォォォォォォォォン!!!!!


王都の石畳に、頭を叩きつける勢いで土下座した。

頭の衝撃で地面が割れた。

「ど、土下座でクレーターできてるぅぅぅ!?!?」


「我が悪かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! 今回の件!! 本当に!! マジで!! 部下を御しきれなかったこと!心から反省してるんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「謝罪のレベル超えて懺悔だコレ!!」

「え、え、なに!? 魔王ってもっとこう……堂々としてるんじゃないの!? なんで泣いてんの!?」



---


そして、レオンが一歩前に出た。

「……なぁ」

「ひぃぃぃぃッ!!」

(きたァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!)


レオンは、眉をひそめ、ぽつりとつぶやく。

「……お前、誰?」


――沈黙。


「……え?」

「いや、マジで誰? 会ったことある?」

「う、うそ……だろ……?」

(う、ううう、うそぉぉぉぉぉぉぉ!?!? あんなに……我の世界、終わったのに……!?!?!?)


(我が……心に刻まれた悪夢は……奴にとって……記憶に残らぬ雑魚戦だったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)


「――ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッ!!」

涙がボロボロとこぼれる。

「ど、どうすりゃいいんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


その光景を見て、またレオンの噂が、王都中を駆け巡ることになる。

 その光景を見た騎士団員たちは魔王を同情するような目で見ていたのだった。

「……え、魔王って、こんなキャラだったっけ?」

「強さよりメンタルが心配になるレベル」


 

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