第30話 副団長、魔族から恐れられる

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 漆黒の岩壁に囲まれた広大な空洞。その中央に描かれた巨大な魔法陣が、血のように赤い光を脈打たせていた。

 空気は重く、熱を帯びた鉄の匂いと、生き物の焦げる臭気が混じり合う。


 並び立つ五つの玉座。その上に座すのは、魔族の幹部たち――。

だが、誇り高き魔族である彼らの顔からは、誇りの欠片すら消えていた。

浮かんでいるのは、苛立ちと焦燥、そして……恐怖。


「……終わった」

誰かが、低く呟いた。

「我ら、終わった……!」


「落ち着け」

別の魔族が、震える顎を押さえながら吐き捨てる。

「まだだ……まだ報告はしていない」


「いやいやいや、報告がどうこうの問題じゃねぇ!」

角を持つ大柄な魔族が机を叩いた。

「魔王様に無断で、人間と手を組んだんだぞ!? その上、魔物と我らの軍をほとんど失った! どう説明すんだよ、あの御方に!」


「……隠し通せるわけがない。あのお方の“眼”から逃れられると思うな」

誰かの声が、底冷えするような現実を突きつける。


沈黙が広がった。

重い、息苦しいほどの沈黙。

やがて、一人がぼそりと呟く。

「せめて……せめて“あの名”だけは、言わない方が……」


「……あの名……」

全員が、息を呑んだ。

赤黒い光が彼らの顔を照らし、その恐怖を露わにする。


――そのときだった。


ゴォォォォォォォォォォォッッ!!


突如、天井が爆ぜた。

地響きと共に、漆黒の岩盤が崩れ落ちる。

吹き荒れるのは、重く淀んだ魔力――いや、それは暴風をも呑み込む“圧”だった。


「な、な……」

「ま、魔王様……!!」


幹部たちの悲鳴が木霊する中、暗黒の中から一つの影が歩み出る。

黒衣を纏い、その背に無数の魔翼を広げた、漆黒の王。


その一歩ごとに、岩盤がひび割れた。

冷ややかな眼光は、地獄の底で燃える炎を宿している。


「……無断で、動いたな」

低い声が、空気を凍らせた。

刹那、五体の幹部は膝を折り、額を床に押し付ける。


「ま、魔王様! そ、それは――!」

「魔族の誇りを……汚したな」


――ドシュッ!!


言葉は最後まで許されなかった。

闇の刃が閃き、二体の幹部の首が宙を舞った。

黒き血が岩盤に散り、熱を帯びて蒸発する。


残る三体が、死に怯える獣のように身を縮める。


「申せ」

魔王の声は深淵。

「……何があった」


幹部たちは顔を見合わせる。

誰も口を開かない。

その沈黙が、余計に死の匂いを濃くした。


「……我を待たせるか」


――ズンッ!!


玉座の間が揺れた。

次の瞬間、空気を満たす闇が、刃と化して突き立つ。

わずかに頬をかすめただけで、幹部たちの血が吹き出した。


「……い、言います……!」

一人が、喉を震わせながら声を絞り出す。

「に、人間に……やられました……!」


魔王の眉が、ぴくりと動く。


「……人間だと?」


「は、はい……その、人間が……」


魔王は、ゆっくりと顔を上げる。

眼光が、鋭く細められた。


「――名を申せ」


沈黙。

重い沈黙が流れ――そして、一人が死を覚悟した目で呟いた。


「……レオン・アーディル」


――時間が、止まった。


魔王の瞳孔が、カッと見開かれる。


「…………れ……おん?」


数秒の静寂。

血の滴る音すら、耳に痛い。


やがて。


「――――はぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああッッッ!?!?!?」


――ドガァァァァァァァァァァァァァァン!!!!


玉座の間が、爆ぜた。

幹部たちは鼓膜が破れそうになりながら耳を押さえる。


「レオンって、あのレオン!? 茶金髪で、剣担いで、『ちょっと斬るね』とか言いながら大陸を真っ二つにしかけた、あの化け物のレオン!?!?」


幹部たち「…………はい」


「バカバカバカバカァァァァァァァ!!!!」

魔王は頭を抱え、床を転げ回った。

「なんで言わねぇんだよぉぉぉぉ!? 我、あいつだけは二度と敵に回さないって決めてたのにぃぃぃ!!」


幹部「ま、魔王様……?」


「トラウマなんだよぉぉぉぉぉぉ!! あの時のこと思い出しただけで胃が痛ぇぇぇぇ!!」


幹部「で、でも復讐を……」


「謝る!!」

魔王はガバッと起き上がり、決意の表情を見せた。

「今すぐ人間界に行って、手土産持って、土下座して謝る!!! 今ならまだ間に合う!!」


幹部「……魔王様、プライドは……」


「プライドより命ぃぃぃぃぃ!!!」


その叫びが、魔界を震わせた。


 ――と、そこで。


魔王はピタリと動きを止めた。

そして、玉座の肘掛けに手を置き、顔を伏せる。


「……あの時のことを、思い出した」


幹部たちが息を呑む。

空気が張り詰めた――と思ったら。


魔王は両手で顔を覆い、叫んだ。


「マジで地獄だったんだよぉぉぉぉ!!」



---

(我は……あの時、確かに世界の頂に立つ存在だと思っていた。)

(人間界を蹂躙し、七つの王国を滅ぼし、勇者どもを皆殺しにして世界を統べると……)


――着実に計画を練り、いくつもの国を滅ぼしていた。何もかも順調だった。しかし奴が現れた。


回想の中で、景色が広がる。

血と炎に染まる戦場。

焼け焦げた塔、崩れ落ちる城壁。

そして、そこに立つ一人の男。


茶金の髪をなびかせ、肩に剣を担ぎ――老人を伴って

笑っていた。


『あ、どーも。ちょっと斬るね』


――“ちょっと”じゃなかった。


次の瞬間、我の後方三十キロの大地が消えていた。

地図から消えた。

冗談ではない。本当に、地図を作り直す羽目になったのだ。


『やっべ、力入りすぎちゃった』


――力、入りすぎた?

おい、我の城ごと山脈が吹き飛んだんだぞ!?

何が「ちょっと」だ!!

あの時の我の気持ち、わかるか!?

(魔王である我が、初めて「ママ……」って呟いたんだぞ!!)


――さらに悪夢は続いた。


我は必死に六十六の禁呪を連続で叩き込んだ。

空を覆う黒炎、世界を呑む闇。

普通の人間なら、その余波で蒸発していた。


だが、奴は――


『わー、すごい魔法! ちょっと風で飛ばすね』


――“ちょっと風で飛ばすね”?


台風が来た。いや、台風じゃない。

大陸規模のハリケーンだ。

その一振りで、我の軍が――十万が――跡形もなく吹き飛んだ。

悲鳴すら上げられなかった。

我、あの時思った。

(あ、これ勝てない)


そして、最後の光景は――


『じゃあ、そろそろ帰るね。ご飯冷めちゃうし』


――なんでそんな理由で帰るんだよぉぉぉぉ!!

我の存在意義、何!?

こっちは真剣にやってたんだよ!?

こっちは世界の覇権を賭けて必死だったんだぞ!?

それが「ご飯が冷めるから帰るね」って、おいィィィィィ!!


幹部たち「…………」


現在に戻る。


魔王は床を転げながら泣き叫んだ。


「我、何年経っても夜中にうなされるんだぞ!? 『ちょっと斬るね』って声が夢に出るんだぞ!? わかるか、この恐怖!!」


幹部「ま、魔王様……我々はそんな相手を、敵に回したので……?」


「そうだよぉぉぉぉぉぉぉ!!」

魔王は玉座にしがみつき、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫んだ。

「我、これからどうすりゃいいんだよぉぉぉ!!」


沈黙。

幹部たちの頭の中には、ただ一つの結論だけがあった。


――魔界史上最強の魔王、完全にビビってる。

 

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