第17話 確率の魔女と、壊れ始めた世界の理

「…はぁ。で、結局、なんであんな無茶な戦い方してたんですか」

佐藤は、新たなトラブルの種…兎月りんごに、心の底からうんざりした声で尋ねた。

彼らは、なんとかあの骸骨の騎士を三人で(主に佐藤が)倒した後、ダンジョンの安全な小部屋で、とりあえず話を聞いていた。

「えー?だって、その方が面白いじゃない?」

りんごは、こてんと首を傾げた。そのあまりにも純粋な、そしてどこまでも理解不能な答え。

「あたし、兎月りんご!17歳!よろしくね、健司さん!」

彼女は、そう言って悪びれる様子もなく、自己紹介を始めた。

「それで、あたしのユニークスキルはこれ!」

彼女は、ARウィンドウに自らのスキルの詳細を表示させた。ユニークスキル「【気紛きまぐれな奇跡きせきのルーレット】 (B級)


種別: アクティブスキル / スペル / 確率操作


効果テキスト:術者は、スキルを発動するたびに、自らの魂に刻まれた様々な魔法の中から、一つをランダムで発動させる。以下は例である。しかし、その成功率は極めて低く、大半は『大ハズレ』に終わる。


【超・火炎球】:単体に超絶ダメージを与える。(極低確率)


【氷河期】:広範囲の敵を、完全に凍結させる。(極低確率)


【神の雷霆】:敵全体に、中程度の雷ダメージを与える。(低確率)


【祝福の光】:味方全体のHPとMPを、完全に回復する。(超低確率)


【大ハズレ】:何も起こらない。ただ、足元に可愛い花が咲くだけ。(高確率)


フレーバーテキスト:神は、サイコロを振らない。――そう言ったのは、どこの賢者だったか。馬鹿を言え。神ほど、退屈している存在はいない。彼らは、常に最高のギャンブルを求めている。さあ、回せ。汝の運命の輪を。その針が指し示すのは、神の祝福か、あるいは足元に咲く、ただ一輪の徒花か。」


「…とまあ、こういうわけ」

りんごは、その解説を終えると、得意げに胸を張った。

「あたしのビルドは、空撃ちようスペルで、この奇跡を引き出すビルドなのよ」

その、あまりにも不安定で、そしてどこまでもロマンに溢れたビルド。

それに、佐藤はただ頭を抱えることしかできなかった。

(…紛れもなく、クソスキルだと思う)

彼の、サラリーマンとしての、そしてシステム管理者としての魂が、そのあまりにも不確定な要素を、全力で拒絶していた。

だが、その隣で。

陽奈は、その大きな瞳をキラキラと輝かせていた。

「凄いビルドですね!」

彼女は、心の底から感心したように言った。

「まるで、魔法少女みたいです!」

その、あまりにも純粋な賞賛。

それに、りんごは満足げに頷いた。

「でしょー!?」

そして、もう一人。

輝が、その鋭い瞳で、この新たな「カード」の価値を、正確に値踏みしていた。

「…なるほどね。ギャンブルスキルね。健司さんのユニークスキルで強化したら、普通に使えるようになりそうね」

その、あまりにも的確な、そしてどこまでも抜け目のない分析。

それに、りんごはきょとんとした顔で、聞き返した。

「え?健司さんのスキル?」

「ああ、そういや、まだ言ってなかったか」

輝は、ニヤリと笑った。

「こいつのスキル、SSS級なんだぜ?」

「はあ!?」

りんごの、その大きな瞳が、これ以上ないほど見開かれる。しょうがないので、佐藤は詳しく説明した。

【盟約の円環】。その、あまりにも規格外の力。

それを聞いた、りんご。

彼女の、その態度は、一瞬で変わった。

先ほどまでの、マイペースな態度はどこへやら。

彼女は、最高の、そしてどこまでも計算され尽くした、人懐っこい笑顔を浮かべると、佐藤へと駆け寄った。

そして、その腕に、これ以上ないほど強く、しがみついた。

「すごーい!ぜひ、仲間に入れて!」

その、あまりにも現金な、手のひら返し。

それに、佐藤は深く、深く、この日一番の、重いため息をついた。

そして彼は、観念したように、その言葉を口にした。

「……まあ、しょうがないな」


彼が、その仲間に加わることを承認した、その瞬間だった。

三人の体を、まばゆい黄金の光が、包み込んだ。

彼の脳内に、直接、無機質な、しかしどこまでも荘厳なシステムメッセージが、響き渡った。


【【盟約めいやく円環えんかん】が発動しました。】

【盟約が結ばれました。】

【【気紛きまぐれな奇跡きせきのルーレット】をゲットしました】

【【気紛きまぐれな奇跡きせきのルーレット】の効果がB+になりました。】

【パッシブスキル:『奇跡のストック』が追加されました】

【効果:奇跡をストック出来るようになりました。ストックは1日しか持ちません。ご注意下さい。】


その、あまりにも唐突な、そしてどこまでもゲーム的なアナウンス。

それに、輝が感心したように言った。

「へー、やっぱりパワーアップしたじゃん。1日限定とは、ストックは強くない?」

「やったー!」

**兎月りんごは、喜び、**早速その新たな力を試すかのように、空撃ちようスペルを唱え始めた。

彼女の周りに、次々と魔法陣が展開され、そして消えていく。

その結果は、あまりにも残酷だった。【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【神の雷霆】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【祝福の光】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】【大ハズレ】

「うーん。当たりは、【神の雷霆】と【祝福の光】だけか。確率は、変わってないわね」

彼女は、少しだけ残念そうに、しかしどこまでも楽しそうに、言った。

その、あまりにもシュールな光景。

それに、数十人のコメント欄は盛り上がっていた。

『奇跡使いかよ!いよいよ、ぶっ壊れて来たな』


その熱狂と興奮の渦の中心で。

佐藤は、ただ一人、静かに、そしてどこまでも深く、ため息をついた。

そして彼は、その新たなトラブルメーカーへと、言った。

「はいはい、じゃあ、アイスでも食え。出せるようになってるから。経験値100%増えるからな」

彼は、そう言って、兎月りんごにアイスを食べさせるのだった。

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