第26話
それを佐々木先生は、何か考え込むような顔で見ていた。
「……その資料を隠した人間がいたとすれば?」
僕らは思いもよらない先生の発言に、思わず手が止まる。雨が窓に当たる音がやけに大きく聞こえた。
「山本先生は新任という事もあって、先輩としてフォローする事があった。その時に作った資料やノートを忘れて来たことは無い。しっかりと作り込まれた資料とノートを持ち歩いていた。普段から生徒用のプリントを忘れる人間が、俺に相談する時に忘れた事がないのは少々違和感を感じる」
相澤くんも福田くんも、前々担任がただのうっかりさんだと思い込んでいた為に言葉が出てこない。斯くいう僕もそうだった。クラス全体として、うっかりしている担任を高校生らしい弄りをしたりフォローをしたり対応はそれぞれだったが、その失態が第三者によるものだとは誰一人として考えていなかった。
「職員室で乙訓先生が叱責していたのも、仕組まれた事だったとすれば?叱りたがりの乙訓先生のターゲットになるように仕向けられていたとすれば?」
佐々木先生はそこまで言葉を繋げて、ため息をついた。
友人の二人も、どこか抜けていた山本先生がいじめの様な行為の被害に遭っていた可能性に言葉が出てこない様だ。
「……問題は、誰がどうやって資料を隠したかだ。まぁ、知らない事をウダウダ考えても仕方ない。休職中の山本先生に聞くわけにもいかない。」
その通りだが、いったいどうやって突き止めるというのか。生徒と先生一人一人にアンケートを取ったところで、正直に答える人間などいないだろう。結局は推測の域を超えることは無いが、僕達で怪しい人間を洗い出そうということだろうか。
「それが出来そうなのは、よく職員室に来る生徒か、考えたくは無いが先生側の行いだと思うが……」
「よく職員室に行く生徒か……悠は職員室に毎日行く用事があるけど、あり得ないもんね」
「芽島は職員室ルールを怖いくらい守っているから、許可なく職員室内に入り込むことは無いだろう。俺は職員室で作業しないからな……気は乗らんが、二限目に今いる先生方に聞いてみる。ついでに冷食も買い足してくる。食いたいもん、あったら言え」
「えー、じゃあ僕たこ焼き食べたーい」
「俺、唐揚げ食いたい」
「……あ、僕は、じゃあ何か甘いもの」
それぞれが食べたい物を言い終わると同時にチャイムが鳴った。一限目が終わってしまった。
佐々木先生は、二限中には帰ってくる予定だが三限目に差し掛かるかも、と言いながらフックに掛けてあった上着を羽織って棚からカバンを取り出してさっさと出て行った。かと思えば、少しして戻ってきて、
「このまま準備室で自習しててもいいが、嘉根とは会わないようにしてくれ。面倒だからな。外から鍵をかけるから出るなら隣の理科室から出ろ。盗聴器が怖いなら、図書室を使え。監督の先生には話をしてあるから、騒がないなら喋っていい。」
息継ぎもせずにそう言って、早歩きで去って行った。
僕らは食事を置いて移動するのも気が乗らないので、その場に留まって一限目の二限目の合間の少ない休憩時間を過ごすことにした。今までの食事をしながら話し合っていたのも、十分休憩時間なのだが。
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