第25話
「さて、模型の件も嘉根との関連性を見つけ出せたな。後は前担任、いや、前々担任の山本美憂先生についてだが」
先生が話している最中に、ドンドン、と戸を叩く音が聞こえてきた。
先生は慣れたように机の上の食べ物を同じ皿に乗せて、空きスペースがある棚に隠していく。コーヒーをまた新たに淹れ、匂いまで誤魔化し始めた。
佐々木先生の事は大人っぽいと思っていたが、案外子どもらしい一面もあるのかもしれない。佐々木先生ファンの皆様が見たら、ファンが減るか激増するかのどちらかだな、と考えながら僕も冷凍食品のゴミをゴミ箱から見えないように細工する。
ぐるりと先生が部屋の中を確認して、少し頷いて戸を開ける。
「どうした、質問か?」
「あ、はい、あの、この単元のここが少し分からなくて……」
聞き覚えのある声に思わず顔を出せば、部屋の前に立っていた二人とバチリと目が合う。
「相澤くん!福田くん!」
「あ、悠!そっか、面談中だったよね」
ヘラヘラと笑う福田くんとは対照的に、相澤くんは佐々木先生を睨みつけるようにして立っている。
嫌な予感がして佐々木先生の方を見ると、面倒だと言わんばかりの表情をしていた。
僕の自惚れでなければ、相澤くんも福田くんも僕のために来てくれたのではないだろうか。しっかり者の二人が、僕が面談中という情報を忘れるはずがない。知っていて来てくれたのだろう。
しかし、すれ違いが起きている気がする。僕は二人に、佐々木先生は協力してくれている先生だと伝えただろうか。もしかすると、嘉根さん側の先生だと思ってここまで来てくれたのではないか。この誤解は僕が解かないとややこしいことになる。二人は嘉根さんが盗聴器を仕掛けたことを知っているから、話は早いだろう。
「相澤くん、福田くん、佐々木先生は僕に協力してくれている先生だよ。先生、二人は盗聴器の事を教えてくれた友人らです。夏休みの話も二人だけにしました。大事にならないと約束しますので、二人の知恵を借りてもよろしいでしょうか」
「え、ササセン味方!?」
「なんだ、てっきり嘉根さんの事で悠が呼び出しくらったのかと……」
「これ以上話を広めないなら、好きにしろ」
ガララ、と戸を大きく開けて二人は知らぬ人の家に上がり込む時のように小さくなって、お邪魔します、と呟く。
いきなり棚から出て来たピザに驚いていたが、先生はお構いなしに新たな冷凍ピザを手渡して来た。
「人数が増えたから、またピザでいけるな。言っておくがお前ら、これは実験だからな。」
怖い顔をした佐々木先生に、二人は思わぬ棚からぼたもち状態にニコニコとしながら頷いて冷えたピザに手を伸ばしていた。
ピザを頬張る二人にこれまでの話を共有して、前々担任の件について何か知っていることがないかを尋ねる。
「山本先生か……そういえばしょっちゅう、作ったはずの資料がない、とか、刷ったはずのプリントがない、とかよく物を失くす先生だなぁと思ってたよ」
「あぁ、そうだよな。その度に芽島が職員室に取りに行ったりしてたよな」
うんうんと頷きながら二人は二枚目のピザを頬張る。冷めたお好み焼きは、佐々木先生が食べている。電子レンジには、三枚目のピザが回っている。
「そうだったね、僕としては先生と関わる機会が増えて内申点を上げる近道になるかな、くらいにしか思っていなかったけれど」
僕は胃の休憩を兼ねてお茶を流し込みながら相槌を打つ。
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