第六話 読者からの「AIっぽい」の声と、内なる葛藤
AIとの共同執筆で瞬く間に人気を得てから、
五平の心は常に不安に苛まれていた。
それは、まるで満開の花の下に隠された
毒虫のように、じわじわと、だが確実に、
五平の心を蝕んでいった。
煌びやかな成功の裏で、五平は
得体のしれない違和感に苦しんでいた。
しかし、その漠然とした不安は、
ついに現実のものとなる。
読者からの感想の中に、次第に
「AIっぽい」「個性が薄れた」
「誰が書いても同じになりそう」
といった、五平が最も恐れていた
批判的な声が目立ち始めたのだ。
それは、五平が密かに抱いていた
最も深い恐怖を、直接突きつけられたかのようだった。
読者からのコメントが、五平の脳裏に
深く、深く刻まれた。
ウェブサイトのコメント欄を開くたび、
五平の心臓は締め付けられるような
痛みに襲われた。
『先生の作品、最近はすごくスムーズで
読みやすいんですけど、
なんかこう……魂がないというか。
まるでAIが書いたみたいですね。
以前の熱量が感じられません。
もっと五平先生らしい泥臭い人間ドラマが読みたい』
また別のコメントには、こうあった。
『初期の頃の先生の作品にあった、
あの独特の”五平節”が消えちゃいましたね。
読者受けを狙いすぎたのか、
無難になった分、没個性になったというか。
正直、誰が書いても同じ作品に見えます。
まるでテンプレートにはめ込んだだけのようです』
さらに、こんな辛辣な言葉もあった。
『最近の作品、プロットは素晴らしいのに、
どうも文章に血が通ってないんですよね。
まるで誰かが書いた文章を、
ただ繋ぎ合わせただけみたいで。
先生、何かあったんですか?
無理して書いてるように見えて、心配です』
五平はそれらのコメントを前に、
自身の創作に対する自信を完全に失いかけた。
読者の具体的なコメントが、まるで鋭い刃物の
ように五平の心を突き刺す。
画面の向こうから飛んでくる言葉の礫が、
容赦なく五平の精神を削り取っていく。
AIの効率性によって得た人気が、
実は自分の作家性を犠牲にした結果であることに、
五平は気づいた。
そして、深い自己嫌悪に陥った。
これは、自分が望んだ成功だったのか。
本当にこのままで良いのか。
このままAIに依存し続けて、
自分は作家と呼べるのか。
自問自答を繰り返すたびに、
五平の心は、泥沼にはまるように沈んでいく。
成功という名の甘い毒が、五平を蝕んでいた。
その毒は、五平の「書く喜び」を奪い、
彼を空っぽの器にしようとしているかのようだった。
五平の内面では、AIのデータに基づいた
「正しさ」と、自分が本当に書きたかった
「魂」との間で、激しい葛藤が続いていた。
AIは常に論理的で、データに基づいた
「最適解」を提示する。
それは確かに、読者からの評価や
作品のアクセス数を最大化するための
最も効率的な道だった。
AIの言葉は常に客観的で、
統計的な根拠に裏打ちされていた。
「五平様の感情的な要素は、
読者の共感を得る上で非効率です。
データは、物語の簡潔さとテンポが、
現代の読者に最も求められていると示しています」
AIのそのような冷徹な分析は、
五平の情熱とは相容れないものだった。
しかし、五平の心は、その「正しさ」を
受け入れることができなかった。
自分が本当に表現したい感情、
人間らしい不完全さ、
物語に込めたかったメッセージ。
それらはすべて、AIによって
「不要な要素」として削ぎ落とされてきたのだ。
このままAIに創作を委ねていけば、
自分は、ただの「AIの操り人形」に
なってしまうのではないか。
自分の作家人生は、一体どこへ向かうのだろうか。
そんな恐怖が、五平を支配した。
それは、まるで深い闇の中に
一人取り残されたような感覚だった。
もはや、自分には何もないのではないか。
そんな虚無感が、五平の胸に広がっていく。
「その単語に、おまえの魂はこもっているのか?」
かつて師から叱咤された言葉が、
五平の頭の中で、まるで責めるかのように
響き渡った。
その言葉は、五平が本当に大切にしていた
創作への情熱を思い出させる、
まさに魂の叫びだった。
しかし、今の五平が書いている文章には、
魂などどこにもない。
ただAIが生成した無機質な文字の羅列だ。
五平は、自分の手で書いた文章ではないのに、
批判を受ける苦しみに苛まれていた。
自分が書けないことへの焦り、
AIへの依存、そして読者からの批判。
それらが複雑に絡み合い、
五平の精神を消耗させていく。
窓辺の植木鉢は、完全に枯れ果て、
茶色く変色していた。
水をいくらやっても、
もう二度と芽吹くことはないだろう。
五平自身の創作意欲も、
あの植木鉢のように、
もはや枯れ果ててしまったのだろうか。
彼は、真っ白な画面を前に、
ただ、うずくまることしかできなかった。
古時計は、今日も静かに止まったままだ。
五平の創作の時間は、
一体いつから止まってしまったのだろう。
その問いの答えは、
未だ五平には見つけられないでいた。
五平は、この底なし沼のような苦しみから
抜け出す方法を必死で探していた。
しかし、その道はあまりにも険しく、
そして暗かった。
この先、自分はどこへ向かうのか。
五平の未来は、まるで濃霧に包まれた
海のようだった。
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