第1章 影の猫 - 7
その猿の名前は、モモと言った。
北九州の猿はギンジというボスが仕切っている。しかし、モモはギンジのやり方に納得ができなかった。ギンジが唱える「猿は猿であり、猿の領域を出てはいけない。調和こそが生き残る道なのだ」そういった理屈は、年寄り戯言にしか聞こえなかった。それにギンジの「街に行けば、カゲトラにブチくらされて終わりだ。山潰しのカゲトラには誰もかなわん」そんなふうに、たかが一匹の野良猫を恐れる態度も気に入らなかった。
「猫どもが偉そうに仕切っとる街に行くぞ。噂に聞く“山潰しのカゲトラ”も、ついでに殺してやろうやないか」
ある日、モモは仲間たちと決心して山を下りた。そして暴れた。街は楽しかった。ギンジが仕切る山のような、窮屈な掟はない。力で猫たちを何匹もブチくらし、好きなだけ食って、好きなように振る舞った。
同時に、モモはカゲトラを探した。半殺しにした猫たちは、必ず最後に言うのだ。
「俺に勝ったくらいで、デカい顔すんなや。こんな真似しよったら、カゲトラさんが来るぞ。そしたらお前ら、まとめてグチャグチャにされるんちゃ」
典型的な捨て台詞だと思った。しかし、それを口にした猫たちには、卑屈なところが一切なかった。自分たちが負けても必ずカゲトラが仇を取ってくれる、本気でそう思っているのだろう。そんな態度が、モモに火をつけた。「こいつらを踏みにじってやりたい」自分でも驚くほどタチの悪い感情が湧いてきた。
モモたちは、カゲトラを探すことにした。「狙われるより、狙う方が俺らの性に合っとるやろ」モモのそのひと言で、彼らは昨夜からカゲトラを探し始めた。
そして、今――。
カゲトラと話していた猫の背後を取り、首に右腕を巻きつけた。あとは片手のままでも、少し力を込めて絞めたなら、たちまちこの猫を落とせる。両手を使えば、首の骨を折ることも可能だ。
モモは考える。こちらは8匹、相手は1匹。しかも手もとには
——負ける気がせんのう。
内心で、ほくそ笑んだ。しかし、その時、
「ぎゃーーーー!」
腕の中の猫質——サンが叫んだ。
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