ぼんやり見える

ある学生が帰宅中、最寄り駅のホームで、風にたなびく黒い布のようなものを発見した。それはぼんやりとしていて、何かはわからない。学生は連日同じものを見かけた。しかしそれが現れる場所は毎回違っていた。

マンションの外階段、駐輪場の屋根、一軒家のベランダ。同じなのはそれがぼんやりとしか見えないということ。学生は恐怖した。よくわからないそれを毎日見るようになったから、というのもあるが、それが段々と自宅に近づいているような気がしたからだ。

不気味に思った学生はとにかくそれを見ないように地面だけを見て帰宅することにした。

そのおかげで道中それを見ずに済んだ。

無事に自宅へ着いた学生が、玄関のドアノブに手をかけようとした時、気がついた。

玄関扉に嵌った磨りガラスごしに、一メートル程もある人間の顔がぼんやり見えることに。

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