ep.59

「結果がどうなっても教えてよね」

『へ?』

「月島さんとのこと」

『ああ…うん』


コーヒーを差し出た菜乃とは別に私のカップには紅茶が注がれている。


彼女はコーヒー派であるので私一人が紅茶を飲んでいても文句は言わない。


コーヒーが苦手なのも菜乃は知っている。


それから夕方頃までお茶菓子を口にしながら語り合った。


私がマンションを出たのは十七時半頃。


メイクに合わせて服装はいつもより柔らかめ。


パンツスタイルが多い私には珍しく、タイトスカートを着用。


変に思われないといいのだが。


私はカツカツカツ、とヒール音を鳴らせて蒼ちゃんのお店に急いだ。


「いらっしゃいま…」


お店に到着したのは約束の時間を少し過ぎた頃。


店内には数人のスタッフしかおらず、お客さんは誰一人いなかった。


以前、少しだけ顔を合わせた金髪ショートの小さな女性が私を出迎えてくれる。


彼女も私の顔に見覚えがあったのだろう。


大きく目を見開き、私を見上げた。



「あれ…この間の…」

『あの、蒼ちゃ…月島さんは…』

「え…「美愛」


その小さな女性の言葉を遮るように蒼ちゃんは受付の奥の扉から出てきた。


目がとろん、としていて仮眠でもとっていたのだろうか。


少し眠そうにしている。


『蒼ちゃん』

「きたね」

『約束…したし』

「荷物、預かるよ」

『…ん』


私はスマホだけ手に取って、バックを蒼ちゃんに手渡す。


スタッフ数人からの視線が痛い。


彼を親しげに愛称で呼ぶこの女は誰なのだろう、と。


居心地の悪さに私は俯いた。


「大丈夫、帰すから」

『へ?』


私の心境に気づいた蒼ちゃんが耳打ちしてきた。


彼はスタッフの元に歩み寄り、何か話している。


まだ営業時間ではないのだろうか。


彼等を個人的な理由で帰らせるなど職権濫用もいいところ。


「ぁ、あの…オーナー」

「ん?」

「レジだけ閉めて私、帰ります」

「ああ…ありがとう、古川。

勝手に帰っていいから」

「はい。そうします」


金髪のその小さな女性は古川さんというらしい。


彼女は蒼ちゃんを見上げて進言してきた。


背が低いせいだろう。


そういう意図がなくても上目遣いになってしまう。


私が男だったらイチコロで落ちてしまいそうだ。


ただ、蒼ちゃんは慣れているのだろう。


彼は表情ひとつ変えずにこちらへ戻ってくる。


「お待たせ。行こう」

『ぁ…うん』


私は蒼ちゃんに背中を押され、店内の奥へ案内された。


去り際、私は申し訳なさから彼等にぺこりと会釈する。


本来ならまだ営業時間のはず。


閉店後に練習したかった者もいただろう。


予定を狂わせてしまった。


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