Thread Side 02|見えてしまった理由

花野ゆき(はなの・ゆき)/23歳・医療事務


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その日、私は夜勤明けで始発のホームにいた。


何気なく見たベンチの上に古びた手帳。

誰かが置き忘れたのか、妙に気になって手に取った。


手帳の間から一枚の折りたたまれたメモ用紙が落ちた。

『拾ったら、見えるようになる』

そう、手書きの癖のある文字で書かれていた。

意味がわからなかった。

私はそのメモを手帳の中に挟み、ベンチの上に戻した。

手帳の裏に書かれた"持ち主の名前"が、妙に頭に残った。


しばらくたったある夜、私は終電に乗った。


そして、あの男を見た。

彼の目が、誰かを追っていた。

“何か”を見ていた。

私には、その“何か”は見えなかった。けれど、空気が揺れていた。

寒気と、耳鳴りと、音のないざわつき。

あれは……たしかに、何かがいたんだと思う。


後日、病院の談話室で思いがけずその名前を聞いた。

ずっと違和感を残していた手帳の"持ち主の名前"だった。


あの駅の駅員で、「幻覚・幻聴」を訴えてうちの病院に通院していたらしい。


ある看護師がこうこぼしていた。

「あの人、何度も言ってたの。

“見えるようになったら、もう逃げられない”って……」


私は何かを感じてふとポケットに手を入れた。

カサリ。

入れた覚えの無い紙の感触に指先が冷やりとする。

取り出すと、二つに折りたたまれたメモ用紙。

あの手帳から落ちたメモと同じ。


ただし、書かれていたのは別の言葉。


「見えるうちは、まだ大丈夫。

 見られたら、終わり。」

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