第32話『声の正体』

「アイツ、どこ行ったんだよ」


 俺は学校中を走り回る。

 時折出会う先生や生徒に尋ねるも、見かけた人はおらず、俺は宛もなくひたすら足を動かした。

 

「はあ……。何をしてるんだ俺は」


 探す道中、色々な言葉が頭をよぎる。

 こんなに必死になって探し回る必要はない。

 あの雫が、俺の思っている通りだという確証はどこにもない。それに面倒事は嫌いだ。


 なら、見て見ぬ振りをすればいいだけの話。

 冷酷な奴だって言われても構わない。俺は独りの方が好きだ。

 それなのに……

 

「チッ……ここにも居ないのかよ」


 俺は昔から意に反した行動を取ってしまう。

 誰かが困っていたら必ず手を差し伸べてしまう。

 助けを求められたらついつい助けてしまう。

 自分が犠牲になると分かっているのに、犠牲を払ってしまう。

 こんな面倒な性格には、もううんざりだ。


 だから俺は……自分が嫌いだ。


「ハア…ハア…マジでどこに居るんだよ」

『──して私が……』


 膝に手をついて息を整えていると、校舎裏から声が聞こえた。


「っ!」


 声が聞こえた瞬間、俺は止めていた足をすぐさま動かす。


「確かこの辺だったはず」


 校舎裏に出た俺は、物陰から声の正体を確認する。


「うっ…うっ…もう……いや……」


 そこには、顔をうずめ、涙を溢すが居た。

 いつもクールで、眩しいオーラを纏いながらも、俺の前では幼い子どもみたいな態度を取る少女。

 でも今はそれと真逆で、輝きを失い、悲しみに満ちたオーラを纏った弱弱しい少女だ。


「……っ……」


 掛ける言葉が見つからない。

 いや、そもそも声を掛ける必要があるのか?

 面倒ならやらなければいい。

 所詮、他人は他人だ。それ以上でも、それ以下でもない。

 俺の意思は、これ以上足を進めたくないと言っている。

 なのに……


「何泣いてんだよ」


 意思とは別の何かが、俺の足を前進させてくる。





<藍田side>


 今日は大事な公式戦。

 しっかりウォーミングアップをしたし、気持ちもしっかり作れてる。

 後はいつも通りプレーするだけ。


『藍田ちゃんこっち!』


 パスを出したかった。

 でも前にディフェンダーがいてパスを出せず、そのままボールを奪われてしまった。

 

『ピーー!』


 後半が始まった。

 前半は良いプレーが出来なかったから、気持ちを切り替えて後半に臨んだ。

 でも後半も調子は上がらず、試合に負けた。

 調子の浮き沈みは誰しもあるので、あまり落ち込まず、次戦に向けて前を向いた。


『どうしてもっとパスを出さなかったの! さっきいったよね?』


 でも先輩から、パスを出さなかったことに苦言を呈された。


『これだから1年生は……』


 いや違う。そんな優しい言葉じゃない。

 あれは、私に対しての罵りだ。


『1年なのに調子に乗り過ぎ』

『ホントそれ。あんな子、いなければいいのに』


 大半のメンバー、特に先輩全員は私のことを嫌っている。

 嫌われている理由はもちろん、1年生の私がレギュラーだから。

 練習や試合終わりに、監督が居ないところでいつも先輩達から理不尽なことを言われる。

 特に調子が悪かった日は、部活をやめたいと思うぐらい罵倒される。


「どうして私が……」


 入学してから5ヶ月間、私に毎日矢が降り注ぎ、その度に仮初の盾で防いできた。

 でも今日で、その盾は粉砕した。


「もう……嫌……」


 涙が頬を伝う。

 どうして私が罵倒されないといけないの?

 どうして私が居たらダメなの?

 私はただ、誰よりも練習して、誰よりも走って、試合に出てるだけ。


 もちろん妬みだって分かってる。

 でも分かっていても、私の脆い心はすぐに傷ついてしまう。

 傷を癒そうにも、部活内に仲の良い子なんていない。そして、学校内にも……。

 

「……やめようかな……」


 このまま部活を続ければ、確実に精神が崩壊する。

 ならいっそ、部活なんて──



『何泣いてんだよ』



 やりたいことを捨て、殻に閉じこもろうとした時、よく知る声が耳に入ってきた。

 その声は、いつも私が困っていると必ず聞こえてくる声であり、私を笑顔にしてくれる声。


「どうして……あなたが……」


 私は咄嗟に顔を上げ、目に声の持ち主を映す。


『それだと、せっかくの綺麗な顔が台無しだぞ』


 私の目には、なぜか彼が映っていた──。

 

 


 


 


 


 

 

 

 

 

 



 

 


 







 

 

 

 


  

 


 

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