普段、氷のように冷たいお姫様はギャップがすんっごい
田尊
第1話『白銀の氷姫』
いつからだっけ。
俺がコイツを……彼女を支えたいと思ったのは。
人前ではかっこつけて優等生を気取ってるくせに、裏では我儘で、泣き虫で、弱音を吐きまくって……。
誰がこんなダメ人間を支えたいと思うんだ?
支えたところで自分に得が返ってくるわけでもない。むしろ損だ。
でも彼女には、それを忘れさせるほどの魅力がたくさんある。
一度決めたら最後までやり遂げる努力家なところ。
不器用だが他人の気持ちを考えて行動する優しいところ。
夕日よりも明るく、眩しい笑顔を持っているところ。
言葉では言い表せないぐらい、彼女には魅力がある。
だから俺は、そんな彼女を──。
☆☆☆
新入生を華やかに彩る季節は終わりを迎え、日差しが燦々と輝き始める5月。
俺──
「は~……ねっむ」
ゴールデンウィークボケも冷めたというのに、昨夜見た深夜アニメのせいで不規則な生活に逆戻りだ。とりあえず、1限目は寝るか。
『ふわっ…』
「ん? なんだ?」
あくびしながら登校していると、甘く、フローラルな香りが横を通り過ぎる。
『お、おい。白銀の氷姫が通るぞ』
『マジ!? てか、今日も美しいな』
『朝練終わりなのになんてキレイなの!』
『わたしも、藍田さんみたいになりたいな~』
横を通り過ぎたのは、俺と同じ1年であり、クラスメイトでもある
またの名を──
男女問わずこの学校で1番人気があり、マドンナ的存在。
てか、ただ歩いてるだけでそんなに騒ぐことか?これだから3次元の人間は……と言いたいが、その気持ちは理解できる。
雪の結晶のように透き通った肌と、短い白銀の髪。
淡く、宝石のように輝く青い瞳。
そして、一流モデル並みに引き締まったスタイル。
さらに、それでいて文武両道。
入学試験では首席で合格し、女子サッカー部では、1年生でありながらスタメンの座に位置している。
まさに、アニメや漫画に出てくる完璧ヒロインタイプ。
まさか、こんなすげえ人が現実にいるとは。
俺には眩しすぎて目も当てられねえぜ。
『バシッ!』
「いったぁ!!!」
手で顔を隠していると背中を思いっきり叩かれる。
「おっす聡仁! 相変わらず眠そうだな」
「お前なあ……」
背中を叩いたのは、クラスメイトであり幼馴染みの
陽気な奴で、交友関係が広くバスケ部に所属している。いわゆる陽キャだ。
毎朝俺を見かけては、挨拶代わりに平手打ちをお見舞してくる。性格は俺と真反対だが、なぜかコイツとは親友をやっている。
「てかお前、なんで藍田さん見てたんだよ。まさか狙ってるのか?」
「フッ……2次元にしか興味のない俺が、3次元の女を好きになるとでも?」
「ま、そうだよな。そもそも聡仁みてえなやつが、藍田さんを狙ってとこで華麗に散るだけだしな」
「ぐっ…一言余計だぞ凌空」
少しイラッとしたが、コイツが言っていることは事実だ。
俺みたいなぼっち陰キャが、あんな高嶺の花と絡む機会なんて来るわけがねえ。
程遠い存在であり、無縁の存在だ。
「あーあ。授業だっる」
やがて教室に着き、席に腰を掛ける。
「「「「じーっ…」」」
席に着くなり、クラスメイトから熱い視線を送られる。
が、これは決して俺を見ているのではない。隣の席にいる奴を見ているのだ。
『座ってる姿も美しいな』
『おれ、今日告ろうかな』
『あたし、連絡先訊いてこようかな』
お気づきだろうが、隣の席の奴とは、あの藍田萌香である。
てか、普通にスマホを触ってるだけだよな?
それだけで女神様みたいに扱われるとか、マジでどんだけ美しいんだよこの人。
「あ、あの、藍田さん!」
「何かしら?」
「あたしと連絡先、交換してくれませんか?」
「ごめんなさい。私、あまり人と関係は持ちたくないの。だから連絡先は交換できない」
「ガハッ! わ、わかりました。そういうことなら仕方ないですね。えへ、えへへ…」
交換を断られた女子は、不気味な笑い声を出しながら友達のもとへ戻った。
「ゆきピーいいなあ〜。藍田さんに断られるなんて」
「
「ホント? なら今度わたしもやろ」
普段と何も変わらないのだか、いつ見ても異常な光景だな。
断られる前提で訊くとか、どういう思考回路してんだよ。
「藍田さん! お、おれと付き合っ──」
「はあ? 普通に気持ち悪いんだけど。話し掛けないでくれる?」
「ドハッ!」
はい、また1人頭のおかし……ハッピーな人が昇天されました。
そんなに嬉しいかね、藍田萌香に蔑ろにれるのは。
『さすが白銀の氷姫。今日も冷てえわ』
『それが良いんだよ』
『アタシも、冷たくなろうかな』
『あんたがやったらダメ。氷姫だから許されるのよ』
(氷姫ねえ…)
藍田萌香が慕われる理由はもう一つある。それは雰囲気だ。
常にクールであり、高校生とは思えないぐらい落着きがある。
そして誰が相手でも氷のように冷たい対応をし、誰とも連るまない。
髪色と性格が相まって、藍田萌香は『白銀の氷姫』と呼ばれている。
俺からすれば、毛並みの整った一匹狼にしか見えないんだがな。
「なにかしら水城君。私をじっと見て」
「え!? あ、いや……何でもない……」
やっべ。
分析していたら、自然とコイツに目が行っていたようだ。勘違いされんのも嫌だし次からは気を付けよっと。
「ぷぷっ!」
視線を前方に逸らすと、凌空が俺をバカにするように笑っていた。
あの野郎。
とりあえず腹に一発叩き込んで──
『キーン、コーン…』
罰を与えようと立ち上がったが、それと同時に1限目開始のチャイムがなる。
俺はナイスガイな男だ。ここは一度怒りを沈めよう。
そのあと俺は予定通り1限目を睡眠学習にあてた。
2・3・4・6限目はしっかり起きて授業を受けたが、5限目に関しては食後の睡魔に襲われ、深い睡眠学習となった。
「ふ~やっと終わった~。早く家にかえ……ん?」
授業が終わり、カバンを持って立ち上がろうとすると、後ろからまたも甘く、フローラルな香りが通りすぎる。
『おい! 藍田さんが立ち上がったぞ!』
『今日はこれでお別れか~。藍田さん! 部活頑張ってね!』
『……』
立ち上がっただけだよな?さすがに騒ぎ……やめだやめだ。考えるだけ無駄だ。
クラスの奴とは基本関わんねえし、藍田萌香とも今後関わることもねえ。
あの女子は別次元にいる存在。俺なんかじゃ手も足も出ねえ。
そんな奴のことを考えても何の意味もない。
早くアイツのことを忘れ……………たかったのだが──
『わーんわん! 家に帰ったらなにしまちゅか?』
どうして──
『すっ、水城君!?』
なぜ──
『ドンッッッ!!!』
俺が──
『早く答えないと殺すわよ?』
藍田萌香に──
『ぜ、絶対に他の子に……い、言わないでね』
朝っぱらから──
『2人だけの……秘密……だから……』
壁ドンされてんだああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
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