第53話:波が結んだ運命の糸
「話せるのに……どうして争うんだ……?」
俺は丘の上から、魔人とモンスターがぶつかり合う広場を見下ろした。
角を持つ魔人たちは、怒鳴りながら拳を振るい、モンスターたちも牙と爪で応戦する。
「キュー……(真名がないから、気持ちを繋げられない……?)」
アルネアが小さく呟く。
「きゅるっ……(でも魔人たちは……モンスターの言葉を理解してるみたい……)」
アリアが鋭い目でやり取りを追う。
「くそっ、このままじゃ――。」
ディルが剣を抜いた、その瞬間だった。
遠くの海の方角から、陽光を反射して白く光るものが見えた。
「……あれは……?」
ニールが目を細める。
次の瞬間、轟音とともに地平線の向こうから巨大な波が迫ってくるのが見えた。
「津波だ!!」
サリウスの叫びが響く。
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「戦ってる場合じゃない!全員、町を守るぞ!!」
俺の叫びに、魔人たちもモンスターたちも一瞬動きを止めた。
「キューッ!(早く!こっち!)」
アルネアが翼を広げて叫ぶ。
「きゅるっ!(あなたたちも手伝って!早く町を丘の上に!)」
アリアが魔人のリーダーらしき男の腕に飛びつき、必死に伝える。
魔人たちは互いに顔を見合わせ、モンスターたちは咆哮を上げた。
そして、誰ともなく動き出した。
「こっちの家を運べ!」
「モンスターたち、こっちを押してくれ!」
「キューッ!(了解!)」
大木のような腕をしたモンスターが家を抱え、魔人たちが支え、俺たちも加わって次々と建物を運ぶ。
リューネリアとフェリアが結界を張り、ヴァルが風を起こして荷を軽くする。
詩人はリュートを弾き、疲れ果てた者たちの心を鼓舞した。
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やがて町のすべてを丘の上に運び終えた瞬間、轟音が押し寄せた。
「来るぞ!」
ディルが叫ぶ。
押し寄せる津波が、かつて町のあった場所を一瞬で平らに変えていく。
家々の土台、道路、畑――すべてが波にさらわれ、白い泡と共に消えた。
人々とモンスターと魔人は肩を寄せ合い、その光景をただ見つめていた。
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波が引いていくと、濡れた大地には無数の光の欠片が残っていた。
赤、青、緑、金、そして――虹。
「……星片……?」
俺がそっと拾い上げると、それは柔らかな温もりを放っていた。
その瞬間、目の前に細い光の糸が走る。
それは俺の横に立つアリアへと伸び、胸元で結ばれる。
「きゅるっ!(見て……これ……!)」
アリアがしっぽを振って俺にすり寄る。
「キュー!?(私にも……!)」
アルネアの背後にも、虹色の糸が瞬いている。
魔人たちも驚きの声を上げた。
「……俺の腕に……この糸は……!」
「君の隣にいる……そのモンスターへ……!」
魔人とモンスターの間に、次々と色とりどりの光の糸が結ばれていく。
争っていたはずの者たちが互いを見つめ合い、やがて笑みをこぼした。
「……これが……真名……?」
サリウスが息を呑む。
「……いや、ただの真名じゃない。運命の糸だ。」
俺はポケットの虹の星片を握りしめ、目の前で新たに結ばれていく絆を見つめた。
「……これが神の祝福……。」
「キューッ!(すごい……!)」
「きゅるっ!(やっぱり、カノンは私が一番よ!)」
「キューッ!(負けないんだからっ!)」
俺は笑い、そして遠くを見た。
波の彼方、まだ見ぬ大地が広がっている。
――神の試練は、またひとつ世界を結んだ。
俺たちの旅は、この糸をたどるように続いていく。
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