第52話:混血の伝説と、魔人の地へ

夜の船上。

潮風にリュートの音色が溶け、吟遊詩人が物語を語り始めた。


「……かつて、この大陸の外れに、とある島々があった。そこでは、人の形を取ったモンスターと、人間が恋をして、結婚したという。」


「……結婚……?」

俺は思わず声を漏らす。


「そうして生まれたのが、魔人と呼ばれる新たな存在だ。人とモンスター、その双方の力を併せ持つ者たち……。これから向かうのは、その魔人たちが住まう地だ。」


リュートの音が静かに止まり、船上にさざ波の音だけが残った。



---


「きゅるっ!?(人と結婚!?そういうことがあるの!?)」

アリアがしっぽをばたばたさせて大きな瞳を見開く。


「キュー!?(……ひ、人間と……!?)」

アルネアが顔を赤くしながら羽耳をぱたぱたと揺らす。


「……え……?過去にそんなことが……?」

俺は目を丸くし、サリウスも驚きに瞳を瞬かせた。


「……なるほど……神は人とモンスターを隔てず、結びつけることすら……。」

サリウスが顎に手をあてて考え込む。


「……あの、フェリアはどう思う?」

ニールがそっと尋ねると、フェリアは小さく首をかしげた後、翼をふわりと揺らして――


「ピィィ……♪(なってみたい……人間に。)」


「えっ……!」

ニールの頬が赤くなる。


「ピィィ♪(もしなれたら……結婚してあげてもいいわよ?)」


「~~っ!?!?!?」

ニールは顔を真っ赤にしてリュートの詩人の背後に隠れる。


「おいおい……今日はどうやら、デレの日らしいな。」

ディルが肩を震わせて笑い、俺は苦笑いをこぼす。


「きゅるっ!(カノンはあたしが一番だからねっ!)」

アリアがふくれっ面で翼をぱたぱた。


「キューッ!(負けないんだからっ!)」

アルネアも羽耳を逆立てて応戦する。


「はいはい……落ち着けって……!」

俺はふたりの頭を軽く撫で、海風を吸い込んだ。



---


やがて水平線の向こうに、濃い緑の島影が見えてきた。


「……着いたぞ。」

サリウスが告げる。


港に近づくにつれ、地響きのような音が耳に届いてきた。


「……なんだ……?」

ディルが眉をひそめる。


上陸してすぐに目に飛び込んできたのは――

角を生やした魔人たちと、巨大なモンスターたちが激しくぶつかり合う光景だった。


「……縄張り争い……!?」

ニールが息をのむ。


「きゅるっ!(あれは……どっちも本気ね!)」

アリアが翼を広げる。


「キュー……!(どうするの、カノン!)」


俺は剣を握りしめ、虹の星片をポケットで確かめた。


「……ここからが、次の試練だ。」


風が強く吹き、魔人とモンスターの怒号が入り混じる。


――神が見ているこの地で、俺たちはまた新たな選択を迫られる。

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