第30話:遺跡に刻まれた愛、そして未来への約束

恋愛の神様の遺跡。

俺たちは像の裏側までぐるりと回って、壁や柱にびっしりと刻まれた名前を見つけた。


「……すっごい数……。」


ディルが指でなぞる。


「これ……人の名前と、モンスターの名前だよな?」


「……昔は……人間とモンスターが……。」


ニールが呟くと、サリウスが静かに頷いた。


「この遺跡は“番”を象徴する聖域。人とモンスターが絆を結んだ記録も、ここには残されています。」


「へぇ……昔はモンスターと結婚する人もいたのかもね~。」


俺が笑いながらそう言ったときだった。


「……今でも、いるんだよ。」


振り向くと、参拝に来ていた若い女性が、隣に立つ人型に近い人形のモンスターを見上げて微笑んだ。


「私、この子と……一緒にいるの。」


人形モンスターは無表情に見えたが、彼女の手をやさしく包むように握った。


「新名を解放したとき、この子……私の言葉を覚えたの。

だんだん、人に近い形になって……それでも、この子はこの子だから。」


「……すごいな……。」

俺は思わず言った。


ディルもニールも、感嘆したように目を輝かせる。


「……現代でも、こうやって……番は生まれてるんだな。」



---


遺跡を出た帰り道、アルネアが俺の肩にぴょんと飛び乗った。


「キュー……(ねぇ、カノン……)」


「ん?」


「キュー……(アルネアも、いつか……結婚するのかな……)」


「……え?」


「キュー……(するなら……カノンとがいい……)」


思わず足が止まる。


「……そ、そりゃあ……お前が人型になれたらな~!」


俺が照れ隠しのように笑うと、アルネアが少し頬を赤くして、でも真剣な目で見つめてきた。


「キュー……(じゃあ、がんばる……いつか……人型になって……そのときは……)」


「……ああ。そのときは……ちゃんと、言ってくれよな。」


「キュー……!(約束……!)」


俺はそっと羽耳に手を当て、笑った。


「……約束だ。」


夕陽が遺跡の上に沈み、風がふわりと吹き抜ける。

アルネアが嬉しそうに羽耳を揺らし、ヴァルが遠くで低く鳴いた。


人とモンスターの未来は、まだまだ広がっていく。


そして俺とアルネアの間にも、静かにひとつの約束が芽吹いた。

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