運命に抗うモブ執事の奮闘記!

前世の記憶を持つモブ執事 セスナ・ハウンドロッド を主人公に据え、破滅が確定している悪役令嬢 アリサ・アロガンシア に仕えるという、絶望的な状況 から始まる物語に強く引き込まれました!

乙女ゲームの知識という「異世界転生チート」を持ちながらも、それが 「死の未来」を知る呪い となっており、しかも主人公自身は 「モブ」 という立場で身動きが取りづらい、という設定が非常に面白いです。
読者(とセスナ)は、物語が最終的に「悪役令嬢の死と、その関係者の破滅」という結末に向かっていることを知っています。この 既定の未来への抗い こそが、最大のサスペンスを生み出しています。

セスナが単なる「モブ執事」であり、爵位や権力、ましてや常識の通用しない主人のアリサに直接意見することすらできないという 無力感 が、物語に現実味を与えています。

家族を見捨てて逃げられない」というセスナの決断は、彼の人間性を際立たせ、読者に感情移入させます。彼が破滅を避けたいのは、自分の命 だけでなく 大切な家族 を守りたいからだ、という目的が明確になっています。

内心ではアリサに毒づきながらも、反射的に主人にへつらってしまうという 「サラリーマン的な悲哀」 が笑いを誘います。「頭を打って良く生きてたな俺よ」や「マジで女心と秋の空」といった、現代的なツッコミもセスナの人間味を引き立てています。

その一方で、「このクソガキ、療養中の執事でも問答無用でこき使いやがって……!」と思いつつも、アリサの 美貌に惹かれている という点(「マジで可愛すぎんだろこのクソガキ」)が、単なる被害者ではない、複雑な従者 としての立ち位置を確立しています。

「龍の肉」「命綱なしバンジー」という常軌を逸した我儘、そして部下を「駄犬」と呼ぶ傲慢さ。これらが「愛に飢えた孤独な少女」というバックボーンと、「神々しい白銀の長髪」 という容姿と相まって、極めて魅力的な 「クソ可愛い悪魔」 に仕上がっています。読者が「更生は無理だろう」と納得できるほどの邪智暴虐ぶりが素晴らしいです。

この物語は、「悪役令嬢に仕えるモブの異世界転生」 というジャンルに、リアリティのある絶望感 と コメディ要素 を加えた、非常に魅力的な作品だと感じました。