第42話

場が妙な空気に包まれる。

「今......令和って言った......?」

私が恐る恐る確認すると、女の子は首をぶんぶん横に振った。

「な、何でもないよ!うん......別に私が令和で、私と貴方が同一人物だなんて、言ってないから!うん」

早口でまくし立てる女の子。

その時、誰かが談話室に入ってきた。

「凄い音がしましたけど、大丈夫でしたか?怪我とか―――」

明治さんだった。

明治さんは女の子を見て、悲鳴のような声を上げた。

「......ん?って、令和さん!?何でいるの!?え、えぇぇぇぇ!?」

「来ちゃった☆」

「来ちゃったじゃないでしょ!!」

ピースをする女の子に明治さんがツッコむ。

「明治さん!奈良さんと平安さんと江戸くんと囲碁してたら変な私が来たぁ......!」

「令和さん、来るタイミングが完全にミスってますよ......」

明治さんはため息をつきながら、私と女の子を見比べ、何か覚悟を決めたように息を深く吸い込んだ。

「......そろそろ君にも言うべき時期でしょうか」

「え?」

「これから話すことで色々変わるかも知れません。ですが、とても大切なことなんです。聞いてもらっても良いでしょうか?」

明治さんから聞いた話は、情報量が多すぎてすぐに理解できるものではなかった。

頭の中でくるくる文字と疑問符が回る。

「えっと......私が大人になった時に、国家が存続できないような厄災が起こって、みんなはそれを回避する為に何回も過去からやり直していて......それで......」

一拍置いてから口を再び開く。

「私が令和の化身......?」

「いきなりこんな恐ろしい事実を伝えられても分かりませんよね。すぐには信じられないかもしれませんが......」

「あっ、全然信じますよ!」

「そうなんですか、若い子は柔軟ですね!?」

確かに今思い返せば、不思議なことが多々あった。

まだ自己紹介していないのに、明治さんが私の名前を知っていたこととか......。

「あれ、でも、私普通の人間で......お母さんもお父さんもいますし」

「それは......」

明治さんは少し口もごる。

「美空さん......いや、令和さんのご両親は本当はいません。いるように錯覚しているだけなんです」

......え?

「いやでも、記憶とか......」

(あれ?)

お母さんとお父さんのことを思い出そうにも、霧がかかったみたいにぼんやりとしていて思い出せない。顔も、声も......。

「令和さんは珍しく元号としての記憶がありません。そのような状態で厄災と戦うのは極めて危険です。なので、それをカバーするべく、少し急ぎ足で日ノ本の歴史を勉強してもらっていたんです......」

「そう......ですか......」

心做しか声が小さくなる。

「僕個人としては楽しい学校生活を過ごしてほしい。ごめんなさい、未来の君に重荷を背負わせてしまうことになってしまって」

「私......まだ全部を受け止めてられないんですけど......みんなが大変な思いして私に繋げてくれたとしたら......頑張るしかないです!いや、頑張ります!」

「令和さん......こんな辛いだけの話を信じてくれた上に、絶望的な状態でもなおへこたれないなんて......本当に凄い子です......!」

口を抑え、ジーンと少し涙を流している明治さん。

「全て声に出ていますよぉ」

平安さんが伝える。

「若人がそう言うなら、俺らおじさんが頑張らないといけないな!」

「......だね」

奈良さんの言葉に江戸くんも頷く。

「え、私、何かお役に立っちゃいました?」

令和ちゃん(未来の私)がニコニコと笑っている。

(待って、この令和ちゃんが未来の私だとしたら......私のまんま過ぎない!?いや、なんなら更に明るくなってる!!)

「いやぁぁぁ!!ちゃうやん!もっと大人の静けさとか、賢さとか習得しゅうとくしてよぉおぉぉぉ!!大人っぽくなってよぉぉぉ」

「え、結構大人っぽいよ?それに、時代によって求められるキャラって違うから」

令和ちゃんはなんて事ないように話すが、私は信じられない。いや、信じたくない。

「うわぁぁあ!!大人と今の差を体験したいの!あれ、私めっちゃ大人じゃん!って言いたいの!!」

頭を抱える。

どうしよう、今からめっちゃ鍛えて精神統一を極めたらこうなる未来を回避できるかな......?

テンションが高くなる令和ちゃんを奈良さんが制す。

「こらこら、若い若人が困惑しているぞ」

明治さんが腕を組みながら、令和ちゃんに向き直る。

「で、どーしたの。大人の令和さん」

「ん〜......色々聞きたくて、来ちゃった。まぁ、崩壊するよりは良いかなって......」

令和ちゃんは頭を搔いて笑った。

「それに〜......高校生の時の話、聞きたい!」

令和ちゃんは私の手を掴んで顔を近付けてくる。

「いやー、そういやずっと髪の毛伸ばしてたな〜!いつ切っちゃったんだっけ?それに、結構私って可愛いよね。何で恋人できなかったのか不思議〜......」

(未来の私、グイグイくる......!)

令和ちゃんの目はキラキラしていた。

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