モノツキフェアリー

メガゴールド

第1話  人並みなんか嫌!

 みって言葉知ってる?


 ほら、牛丼屋さんとかであるでしょ? 大盛り、並盛りって。


 並盛り、つまり普通盛り。


 並み……ふつーってこと。


「おーい並み子~」

「誰が並み子だ! エミコだってば!」


 そう、あたしの名前は中野なかの笑子えみこ

 並み子じゃないよ。エミコだよ!


 ちなみに今からかってきた男子は大内おおうち大吉だいきち。幼稚園からの幼なじみだよ。

 坊主頭で活発なスポーツ少年だけど、こうしていつもからかってくる嫌な奴!


 人並み、普通って言葉を自分のお母さんから聞いたとたん、ある日こいつは言ったんだ。



――――――――――――――――――――


『普通って言ったらエミコだよな! 顔も頭も普通だし! エミコじゃなくて、並み子だな!』


――――――――――――――――――――


 あの日のこと……未だに忘れたことないよ……

 しかも他にもたくさんのクラスメイトがいる時に言ってさ、そのせいで他の子達も並み子並み子って言い出したんだ。

 

 それからと言うもの、一部の友だち以外は並み子ってあたしを呼ぶようになった。


 ダイキチ……許さん!


 でもムカつくけど、並み、ふつーっていうのはわりと合ってるのかもしれない。


 身長体重は女子の中でも中間。

 運動も、できないってわけではないけど、得意ってわけでもない。ドッジボールとか途中で当てられたりするし、運動会での徒競走とかいつも真ん中の順位だし……


 勉強に至っては……むしろふつーより少し下かも……

 この前のテスト50点以下だったし。


 ダイキチの奴、その時は……


『人並み以下じゃん! いかこに改名か?』


 本当にムカつく!


 それにふつーっていうのはあたしだけでもない。家だってごくごくふつーの家族だし。

 幼い弟と両親合わせての四人暮らしだけど、パパとママは大恋愛の末に結婚……なんてことはなく、お見合い結婚だったらしいし。


『お見合い結婚でごめんねエミちゃん……』


 なーんだ。ってつい言ったらパパが悲しそうな顔してた……

 あの時は本当にごめんなさい……


 そんなふつーな毎日とふつーなあたし。あ~あ、なんかふつーじゃない事起きないかな?


 あたしはどうやってもふつーからのがれられないってわかってるし、ならせめてふつーじゃない出来事でも起きないかなって期待してるんだよ。


 例えば怪人が学校襲ってくるとか! すんごい力手に入れて悪い奴と戦うとか! キュートな魔法使いになって魔法の勉強するとか!

 


 ……子供みたいって?

 子供だからい~んだよ~



 

 ♢



 ――朝。


 そんな事思ってたって、ふつーな日常は変わんない。今日もからかわれるつまんない一日の始まりかあ。


 そう心でぼやきつつ、あたしは朝食を食べ終えてから部屋に戻る。学校に行く準備をテキパキと済ませると……


「エミちゃん」


 あたしを部屋から呼びに来た、メガネをかけた普通のおじさん。

 いや、パパなんだけどね。


「なにパパ」

「ダイキチくんが外で待ってるよ」

「げっ」


 家が近所だからか、しょっちゅう家に迎えに来るんだよねダイキチのやつ。

 そんなに朝からあたしをからかいたいのか! 失礼なやつ!


 会いたくないけど、クラスも同じだからどうせ顔見ることになるんだし、仕方ないか……


 あたしはしぶしぶランドセル背負って外へ出る。


「いってらっしゃい」


 パパはダイキチと仲良しと思ってるからなあ……

 笑顔で手を振っちゃって。


 あたしも手を振って返す。


「いってきまーす」


 外へと目を向けると、坊主頭がいきなり見えた。


「オッス並み子。今日も普通だな!」

「うるさいなあ……」


 こいつ毎日毎日あきないのかな? やな性格!


 あたしは目をそらして、早歩きで学校に向かう。するとダイキチの奴も早歩きで追いかけてくる。


「おいおいそんなに急がなくても学校には間に合うぜ?」

「無遅刻無欠席があたしのモットー。できるだけ早く着きたいの」

「少しでも普通じゃないことしたいってか! 別に無遅刻無欠席は珍しくもねーだろ」


 あんたと一緒に登校したくないから急いでるんだよ!


「そういや今日転校生が来るらしいぜ」

「転校生?」


 という事は、今日は普通な日常ではなさそうだね。転校生が来るってイベントあるわけだし。


 ……転校生かあ。


「イケメンかな?」


 つい思った事を口にしたら、ダイキチの奴が不機嫌そうにする


「なんだよお前。イケメンが好きなのかよ」

「まあ女の子だしねえ」

「転校生が男かもわかんねえのに、これだから女ってやつはよ。イケメンならここにいるだろ。おれを見てろよ並み子」

「ブフッ」


 つい笑っちゃったよ。

 ダイキチのどこがイケメンなんだ。あたしみたいに普通な顔してるくせに。


「なんだよ」

「別にぃ?」


 転校生かあ、どんな子だろ?


 ……この時のあたしは、ふつーじゃない一日になるのを期待した。

 でもまさか、期待以上の一日が始まる事になるなんて思いもよらなかった!

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