08.「美都、ちゃん?」

 ゆっくりと両手を降ろす。

 この振動がメール受信の報せだということを、信じたくないとは思いながらも彼の言葉が見たくて美都の手は直ぐに携帯を開いた。

 差出人や受信時間には目もくれず、センターボタンを連打して本文を表示させる。そのメールには、

 初めて画像の添付があった。


『虹がきれい』


 沈み掛けた夕日の色が広がる雲の疎らな空に、溶け込むように七色の帯が写っていた。

 視界の端に感じるオレンジと何処かから聞こえた「にじ、」という音に顔を上げる。

 今携帯の中に見た景色が、何一つ違わずそこに在った。


 ふと辺りを見回すと、一人の男性が目に留まる。

 上質そうな背広を纏った彼は、名残惜し気に携帯の画面を見つめて立っていた。

 それから、空を仰いで虹の色に目を細めて、携帯を閉じると同時に現実に返るかのように踵を返し、


 それが、


「な…、っ…なかた、さん…!」


 彼であると気付いた。

 ぴくりと反応して立ち止まった彼が、振り返り、視線が絡む。

 長い長い間の後、「美都、ちゃん?」と、

 呆然として名を呼んだ声音に、今まで文章で感じてきたのと同じぬくもりがあった。

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