03.「――…」

 椅子を運び出す体操着姿の生徒たちの中で、美都は制服のままだった。机に乗せた鞄は半開き、そこに手を突っ込んで僅かに携帯を開いている。

 いつもは学校に着くと電源を落とすのだが今日は、迷っていた。

 おそらく昼にもメールは来る。返信は――しない、けれど、


“君にメールを送るのも、今日でおしまいにするよ。”


「――…」


 ぱたん、と、閉じたときに結構な音がした。それにどきりとしながら携帯を鞄の奥に押し込み、代わりに弁当と体操服を取り出した。

 教室に設置されている時計を見る。三十五分。四十分までに着替えれば間に合う。

 弁当箱は机にしまって、鞄は閉めた。



 着替えを終えて教室に戻るとクラスメイトはもうほとんどいなくて、二人の男子が慌ただしくグラウンドへ出る準備をしていた。本来ならば美都もそうあるべきなのだけれど、生憎そんな気分ではない。眠くて頭がはっきりしない。

 マイペースな動きで椅子と、プログラム、タオル、水筒、携帯の入った鞄を持ち上げて教室を出た。

 昇降口に近付く程高くなる人口密度にたいした感想は持たず、波に身を任せるように怠惰に歩く。


 二ヶ月くらい前だったと思う。中田は周囲に奨められた女性と見合いをした。

 あまり気は進まないんだけどね、と彼はメールして来たが、美都は一応適当な励ましを返しておいた。

 それから一週間は、毎回のメールに見合い相手の話が入るようになった。その相手は才色兼美で、慎ましく、家柄もそれなりの女性なのだと話を聞く限り想像出来る。けれど中田は釈然としないような、そんな様子だった。

 ――それは美都も、同じと言えば同じなのだ。


 昇降口から吐き出されるように脱出すると、近くに教員がいて次から次へと出て来る生徒たちに声を張り上げ集合を急かした。その声に押されて仕方なくはや歩きに切り替える。

 外の空気は清々しいくらいだが、気分は晴れない。

 前に広がる空の雲量は中途半端で、これから晴れます、と言われても、これから徐々にお天気が崩れるでしょう、と言われても納得出来そうなバランスだった。

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