track.4 燈籠
//SE 次第に強まる雨の音
//SE かすかに聞こえる手水舎の水音
「坊や、なにか気になるものはある?」(優しく問いかけるように)
「ふうん……、あれが気になるのね。」
//SE ごく微かな衣擦れの音(少年の手を引き、燈籠の方を向くような微かな音)
「いいわよ、話しましょうか。」
「あの石造りのものはね、燈籠っていうの。」(ゆっくり、教えるように)
//SE 雨が屋根を叩く音(遠くの燈籠を見つめる、静かな空間に響く)
「この神社の燈籠はね、そこらで見掛けるものよりもちょっとだけ特別なのよ?」
「この燈籠は20基ある中でも1番特別でね。」
「この燈籠だけが…何百年も前から、ずっとこの場所にあり続けるの。」
「この燈籠は、私……いえ、神様とともに、この神社の全てを見守ってきたわ。日の光が満ちる朝も、星が輝く夜も。人々の喜びも、悲しみも、迷いも……全てを、この燈籠の明かりは静かに見つめてきたの。」(落ち着いて、静かな声で)
「坊や、この神社の夏祭り、知ってるよね?」
「うんうん、何度も来てくれてるもんね。嬉しいな。」
「昔は燈籠に、毎夜火を灯してたんだけどね。いまは、この燈籠が灯る時は、祭事の時だけって決まってるの。」
//SE 幻想的な鈴の音(幻聴の様に。ごく短く)
「昔のお祭りはすごくてね……。」(懐かしむように)
「それはもう、境内に人が溢れて、熱気でむせ返るほどだったのよ。参道の両脇には、色とりどりの屋台が立ち並んで、甘い飴の匂いや、香ばしいお団子の匂いが風に乗って漂っていたわ。」
「日の高いうちからはじまって、夜になれば、燈籠の明かりがゆらゆら揺れて、まるで星が地上に降りてきたみたいでね。」
「ああ、あの頃の賑わいが、今もこの目に焼き付いているわ。本当に、素晴らしい時代だった……。胸を打つような祭囃子、幸せそうな人々のあの笑顔……。」(遠い目をするように)
「この燈籠は、その人々の笑顔を何百年……ひょっとしたらそれ以上、見守ってきたのよ。」
「でも……。」(寂しげに)
「今となっては、あの頃のように沢山の燈籠が灯ることは無くなってしまったわ。」
「お祭りは時を経る事に少しずつ減っていって、来る人も少しずつ減って。この広い境内に、寂しい風が吹き抜ける日が多くなったわ。」
「それでもこの燈籠は、その少しの人の笑顔を捉え続け、照らし続けた。」
//SE 雨が静かに屋根を叩く音
「神様が願ってる幸せって言うのはね。」(気持ちを切り替えるように)
「多分、この神社に来る人だけ、神様を信じる人だけに訪れて欲しい。そんなものじゃないと思うの。」
「この村に息づいてきた人、今の世に生きる者、そして、未来を生きる者」
「このみんなが、きっと笑顔で幸せに過ごすことができるような、そんな現世が実現することだって思うんだ。」
「ん?よくわかんないって?」
「ふふっ。つまりね、坊や。」
//SE ごくわずかな衣擦れの音(しゃがみこんで坊やに顔を近づける)
「坊やも……それから、坊やの家族も、みんなで幸せになってくれたら。」
「私は…神様は、幸せなんだよ。」
//SE やや弱まった雨の音
「坊やが大人になってから、もし道に迷うことがあっても、心の片隅にこの灯りを思い出してほしいな。きっと、君を照らす光になるから。」(笑いかける)
//SE ごく僅かな衣擦れ音(立ち上がる)
「……さて、と。」
//SE 伸びをするような声
「もう少ししたら雨が止みそうだね。」
//SE 雨音が少し弱まる
「どうしてわかるのかって?」
「ふふっ。気にしないの。」
//SE 柔らかい雨の音(弱く、水滴の音が目立つように)
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