『頭脳で支配せよ ― 裏社会参謀、成り上がり録 ―』

@naririru

堕ちた天才、裏社会へ

第1話 「堕ちた天才」

雨が降っていた。七月の東京、それでも肌寒さを感じさせる、冷たい雨だった。


白神凛一は、久しぶりに外の空気を吸っていた。

スーツもネクタイも持たず、手ぶらで塀の外に立った彼を、迎えに来る者などいない。


「ようこそ、現実へ。クズ扱いされた元エリートさん」


自嘲気味にそう呟くと、彼は歩き出した。


かつて、凛一は国家戦略研究所の最年少研究員。20代で国の中枢に入り、官僚の星とまで呼ばれた。だが、ある日突然、収賄の濡れ衣を着せられ、すべてを失った。


証拠は完璧。身に覚えのないUSB、口座に振り込まれた数千万円、そして「証言」する部下たち。

法廷では、凛一の言葉は誰にも届かなかった。


――味方も、家族も、彼を見捨てた。


「裏切り者ども。地獄の底まで引きずり込んでやる」


その怒りと冷徹さだけが、刑務所の中で彼を支えた。

そして、彼は出所と同時に“ある男”に接触する。


---


「おい、誰か来たぞ」


場末の喫煙所でタバコをふかしていたのは、城戸組の若頭・城戸龍司だった。

額に傷、金歯、ガタイはいいがどこか古臭いヤクザ。そんな彼の前に、黒いコートを羽織った男がゆっくりと近づいてくる。


男が眉をひそめた。


「君が、城戸龍司だな。――話がある。潰れかけてるその組……立て直してみないか?」


龍司は唖然とした顔で凛一を見た。目の前の男は、身一つで来た元エリート。なのに、堂々と、まるで“こちらが選ばれた”ような顔をしている。


「……で、テメェ何者だよ。何のつもりでここに来た?」


龍司がじろりと睨みつけるように言う。


凛一は怯むことなく、ゆっくりと懐に手を入れた。

そして、手のひらに乗るほどの薄いUSBメモリを取り出す。


「これに、君の組がまもなく潰される理由が入っている」


龍司の眉がピクリと動く。


「……は?」


「名義偽造、資金洗浄、証拠偽装。君たちは気づかないまま、誰かに仕組まれていた。

このままだと、来週にも組は警察に潰される」


凛一の声は静かで淡々としている。だがその瞳には、揺るがない確信があった。


「これを俺が消す。代わりに――組を俺に任せろ。トップに立つ気はない。俺は、参謀になる」


龍司はしばらく黙っていたが、やがて笑った。


「ははっ、面白ぇヤツが来たもんだな……いいぜ、乗ってやるよ。

ただし俺を騙したら、そんときゃ――地獄より痛ぇ目見せてやる」


「望むところだ」


この日、関東の片隅で、巨大な歯車が、音もなく回り始めた。


そして白神凛一の復讐劇が、今、始まる――。



――――――――


次回予告

第2話「情報こそ暴力」


拳を振るう時代は終わった。

裏社会を支配するのは、銃でも刀でもなく――“情報”だ。


白神凛一は、組の地下に情報中枢を築き、

組織の裏切り者と、見えない敵の正体を暴き始める。


最初の粛清。そして最初の再編。


機構は整う。あとは、仕掛けるだけ――。


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補足:城戸 龍司(きど りゅうじ)設定まとめ


城戸組 若頭/“時代遅れ”と揶揄されるが、芯は誰よりも太い。

かつては関東でも一目置かれた武闘派の家系に生まれ、血の海で育った男。


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【昭和の武闘派 × 現代の変革】


・龍司は「暴力でしかのし上がれない」と教え込まれた世代。

・だが、抗争や逮捕で組が弱体化。自分だけでは組を再建できない限界を痛感。

・凛一に“新時代のヤクザ像”を託す覚悟を決める。

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