パンドラの箱

その週末のお昼前、僕はとある街のファミレスに向かった。


どこにでもあると言ったら「語弊」があるが、伝わりやすくする為、ここでは「あえて」誇張させた言い回しをさせてもらう。いわゆるオーソドックスで、日本人の大多数が思い浮かべるであろう「THEファミレス」型の某チェーン店…。何かを発信するのにココまで慎重に書く事すら、「義務」になりつつある今の世の中に、どこか窮屈さを感じているんですよね。


と、朝のニュース番組で特集されていた内容とリアルタイムの自分を重ね合わせ、それを自ら頭の中でツイートする。流石に秋めいてきた空の元、僕は目的地のファミレスへと歩を進めた。


ぴんぽん。ぴんぽん。


素っ気ない入店チャイムが僕を歓迎してくれた。その音を聞いたベテランウェイターが奥から現れ、歩行速度1.3倍くらいの速さで僕の方に向かってくる。


「あとから1人来るんですけど…」と申し訳なさそうに、合計人数を示す「ピースサイン」を見せつけたウェイターに通されたのは、ドリンクバーから離れた国道沿いのソファ席。


窓の外の植え込みには、生き生きとした緑を司るモコモコの硬そうな葉が、少し強い秋風に靡いている。一方店内では、カキ氷のシロップみたく「嘘みてぇ」な緑色の葉をつけて、植木鉢から規則正しく伸びる、幾つかの幹が点在しており、それらは店内の配色に一役買っている様だった。


ぴんぽん。ぴんぽん。


しばらくして、不二田もチャイムに歓迎されながら店内に姿を見せた。少し左右を確認した後すぐに僕を見つけ、軽く片手を挙げながらコチラに歩いてくる。


と、一瞬不二田は立ち止まり、大きな窓の外を確認した様に見えた。そしてその前後で、彼の目つきが少し変わったと感じる。


席に着くなり僕の方をじっと見ながら「やっぱり面白くなってきたわ」と、明らかに片方の口角をあげて「ニヤリ顔」を決めている。


「何が??」

「向かいのビルの屋上。女がこっちみてる」


いやいやそんな訳…と、屋上を確認しようかと思ったものの、不二田のテンションが明らかにマジだったので怖くなり、ビビリな僕は全く振り向くことが出来なかった。


タ「なに…?俺?」

不「多分そう。とりあえず普通に会話して」

タ「わ、わかったけど…」

不「よし…ドリンクバーに行こう」


タブレット端末でドリンクバー単品を×2だけ注文し一緒に席を立つ。誰がどう見ても明らかに挙動不審な僕を尻目に、とても冷静な不二田。そして彼はグラスに氷を入れながら、こっちを見ている。


「な、なんだよ?」

「ここだと落ち着かないと思うから、一先ず昼メシを食ったら場所を変えよう。あと…来る前に調べておいた大切な事だけ伝えておく」


僕はその発言に動揺した。


「笹島家の能力を狙っている良くない奴らがいるみたい。まだ波風は立たないと思うけど、タイトはいずれ狙われるかもしれないから、それだけ頭にいれておいて」


流石に脈が速くなるのがわかる。

又、変な脱力感が僕を襲ってくる。


正直、不二田が僕をからかっていると思いたくて、大きな窓の外・向かいのビルの屋上を、勇気を振り絞ってチラと見た。サングラスをした長髪の女が一瞬見えたが、直ぐに姿を消した。それにより彼の話の信憑性がググッと高くなり、この場の緊迫感を更に倍増させたのだった。

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