ユウジとケイ
翌日、めちゃくちゃ頭が痛くなったという大槻泰斗は、学校を休み病院へ。病院に行く途中で逆方向の電車にわざと間違えて乗った彼は、気が付くと副都心警察署の中にいた。何とも不思議なストーリーである…。
そんな「こいつ、やってるわ」と言われかねない、数々の所業を重ねた彼=僕は、警察署受付の女性に言われるがまま、建物の奥へ奥へ歩を進める。途中、南京錠がかけられた重い扉や、カードキーによる多重ロックなど、「明らかに普通ではない」雰囲気漂う空間を、幾つか通り抜けた。
「やっぱり僕は狂ってるから、この後拘束されるんだ…」
半ば勝手に諦めて、ある意味被告人のような心境だった。勿論そんなのは想像でしかないのだけど。
しばらくして、先程までと比べると相当「ラフ」な扉の前に辿り着いた。木材と思われる板の上部、6割から8割くらいの所に、透明の薄いガラスがはめ込まれている。それはよく刑事ドラマとかで、役者が慌てて開ける事で緊迫感の出る、定番の「それ」であった。
そしてその扉を横目に視線を振ると、表札には「10М課」と書かれている。もともとあまり大きなリアクションをする人間ではないので、もうそのまま「ぬるっと」、案内人に開けられた扉の中へ足を踏み込んだ。
そこで僕を待っていたのは、2人の男性だった。1人はスーツ姿、もう1人は大学生の普段着みたいな格好で、特に後者について警察官だとは1ミリも思えない。
頭の中を整理する暇もなく、スーツの男性が僕に話しかけてきた。
「君が大槻泰斗君か。遥々おつかれさん。色々怖かったね。私の名前は笹島ユウジだ。以後お見知り置きを…。あー、そこに立っているとホコリが落ちてくる。あちらに座って話そう」
笹島ユウジという男は低くて優しい声で、確かに少しホコリっぽい扉の下から、応接用の席に案内してくれた。
我々はお茶を入れるからと、先に席に通され腰掛ける。壁には恐らく防弾ガラスの曇り窓。おかげで外は何も見えないが、その厚さをもろともしない強い秋の斜陽だけは心地よく、僕を安心させてくれた。2人は割と直ぐに、3人分の温かい緑茶と少しの茶菓子を丸いお盆に乗せ、向かい側に「スッ、スッ」と座った。
「紹介しよう。横にいる彼は、私の息子であり信頼のおける部下だ。名前を…笹島ケイという」
部下で息子…。流石に気になって息子の方を見た。気のせいだと思うが、背格好や顔のパーツが自分のそれと似ているような…。
と、何だか「ケイ」とやらの様子がおかしい。
「やっと会えたね…タイト…」
ん?何…?
だ、だれ?
「まぁ、無理はない。少しずつ話したいところだが…。ひとまず重要な事だけを幾つか伝えさせてくれ。私は君の父親で、ケイは君の兄だ。」
はい…!?
口の形が政治家みたいになるような展開だ。片方の口角だけが、丸く持ち上がるのが分かる。
というか、父親は今日も普通に仕事に行っているし、僕は一人っ子だぞ…?
そして「あぁ本当におかしくなったんだ…。夢だ夢。もう嫌だ早く覚めてくれ…」と、僕は眉間にシワを寄せ、自らのほっぺたを思いっきりつまみ始めた。
「ハハハハ、かわいいやつだ。母さんに少し似てるのかもな」
と、笑ったのも束の間。笹島ユウジは顔を少し強ばらせ、真っ直ぐ僕を見てこう言った。
「笹島家には隠し通してきた秘密がある。この家系の人間は「10分後の未来が見える」という、特殊能力を持っているという事だ。そしてそれは国を守るために必要とされ、国家秘密とされてきた。この能力を使って我々は警察組織の中で、秘密裏に活動している。その拠点がこの10М課→10「m」inutes課だ」
夢の設定の話…?
天の声まで聞こえる夢なんて初めてだよ…。
と、思いつつも彼の話を僕は一応聞いている。
「タイト、信じられないかもしれないが、お前は生まれて間もなく行方不明になった。何者かに連れ去られてな…。先程の能力の話に身覚えがあるだろう??
ずっと探していた…。お前が笹島の血を引いているからこそ、自分の力に疑問を抱く時がいつか来るだろうと信じて」
その時、割と強めの地震が発生した。体感で言えば震度は4くらいだろうか。扉のはめ込まれた薄いガラスが、ガタガタガタと割と大きな音をたてて揺れた。
ふぁさっ…
簡単には届きそうもない、高い天井の隅の方から細いホコリがパラパラと落ちてきて、部屋の入り口付近で舞っている。
ホコリ…この人、今の地震を予見してた…?
「バチーーン!」
頭の中の色々な思考回路が、協力な磁石のような引きつけ合いをして「ギュゥ」と濃縮されたのが分かった。
僕は…
一体誰なんだ。
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