第六話「人気者のにいちゃん」

「よっ、りょう。どう〜? 最近!」


言いながら、笑顔で俺の頭をぽんぽんしてくるしんくん。

――武河たけかわ まこと。名字からわかる通り、旭の実兄である。確か歳は……二十五、だったような。

小さい頃、漢字だけ見て“しんくん”と呼び間違えてからずっとこの呼び方なんだ。可愛いだろ、小さい頃の俺。


「ってか、またちょっと背伸びた? 成長期だねえ」


うるせぇよ、って言いつつちょっと嬉しいのは内緒だ。

しんくんは、一八〇ある俺より少し身長は低いけど、いつもこうやって頭をぽんぽんしてくる。それといつも身長のこと言ってくる。

いつまで経っても子供扱いだなぁ。


「そんなことより、校舎のほう来るなんて珍しいじゃん。どうしたの?」

「いや、たまたま用事あってさ。ついでに顔でも見とこうと思ってね〜」


旭と顔の雰囲気は似てるけど、やっぱり表情は正反対だなって常々思う。いつもニコニコしてるし。

ピアスばちばちに開けてるとこは同じだなって……。旭よく先生に怒られないよな。


「あ、そういやさ。旭、最近どう?」


声を少しひそめてニヤニヤしながら聞いてくる。ぎくりとした。

――あの日、少し気まずくなってから……いまだに微妙なままだ。表面上はいつも通りだけど、なんか心のどこかで引っかかってる。

ちらり、と旭のほうを見る。つられてしんくんも、目線をやる。

それに気づいた旭は、無表情のまま軽く手をあげた。


「それがさあ。聞いてくれよお……っと思ったけど、休み時間終わっちゃうわ」

「おっと。じゃあまた放課後帰ってきたら僕の部屋きなよ」

「おっけー、んじゃまたあとで」


教室を後にするしんくんに手を振って、席に戻った。

なんだか、教室が静かになったな。しんくんは生徒たちからも人気だし、当然っちゃ当然か。

後ろを向いて、旭に話しかける。


「しんくん、なんか今日テンション高くなかった?」

「……しらん」


うーん……やっぱりなんか変だ。今のはどことなくトゲあるし……。

ふむむ。と悩んでいたら、「涼平くん」と背後から声をかけられた。ルイだ。


「あのさ〜、さっきの人……仲ええん?」

「ん? あー。まぁ昔から知ってるし、よく遊んでもらってたからなー」


藍風寮あいかぜりょうの管理人だし。

……そういえば、ルイがいる青嵐寮せいらんりょうの管理人は誰か知らないな。

ってことは、ルイもしんくんのこと知らないのでは……?

と思って口を開きかけたとき、ルイがうつむいてるのに気がついた。


「……ルイ? どした?」

「へ!? あ、いや! なんもないよ〜!」


笑顔。……だけど、なんかいつもと違って“嘘くさい”。

俺、ルイに対しても何かしたか……?

考えても答えは出ない。でも絶対なんかある反応だった。モヤる。


どいつもこいつもなんだってんだ。

自分で選んだ人の脳内覗き見してぇ。ほんと不便な能力だ。

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