第二章「揺れてるのは、誰の心?」

第四話「嫉妬、なんて言わないけど」

あれから、無言で手を引かれたまま部屋まで戻ってきた。

何を考えてるかはわかんないけど、少し怒ってるのは確かだ。部屋に帰ってきてからのこいつは、何もなかったって顔してる。

でも俺にはお見通しだぜ。幼なじみなんだから。


部屋着に着替えて、ゲームでもするかーってソファに座った。

旭もゲームするかなって思ったけど、黙ったまんまスマホ見てる。

……心が読めないから、その沈黙わりと怖いんですけど。


空気が重くて集中できない。こういう気まずい感じ苦手なんだよな。

もしかして、俺が気づいてないだけで何かしたかも。って思考になるのが一番しんどい。

ほんとは聞くの怖いけど、この空気のままはもっと無理だし。いっそのこと聞いちゃうか。

俺はコントローラーを無意味に触りながら、旭のほうを見た。


「なあ……お前今日さ」

「べつに」


いや早! 俺まだ本題言ってないけど!

しかもスマホから視線外さないし。絶対なんかある人の態度だよな、これ。


「べつにって態度じゃないだろ、さっきから」

「なんも……ただあいつが、苦手なだけ」


その声が、妙に冷たくて。

苦手、ってだけのトーンじゃなかった気がする。

俺に向けられた言葉じゃないのはわかってるけど、俺にもダメージ入ったぞ。


あいつ……ってルイのことだよな。

まだ初日だぞ。嫌う要素ある……?

変わらずスマホに視線を向けたままだったけど、よく見たら指が全く動いてない。でも俺のほうも見ない。

そして少しピリピリした空気を感じる。火に油? 気のせい?


「……なんか言われた?」

「……」


無言で首を小さく横に振る。

ううん……全くわかんねぇや。俺能力ないとポンコツかも。

いつもなら、心の声が聞こえなくてもちゃんとわかるのに。今日はお前がわかんねぇ。なんでだよ、旭。

こんな時に限って、読めないのも、読まれないのも……きつい。


再び沈黙が流れる。気まずさをなくそうと思ってたのに、逆効果だった説あるな……。

ゲームの電源を落として、スマホを開く。


……あの言葉の攻撃力、ほんとに“ルイが苦手”ってだけなのかな。

なんか、もっと……。


「……ちょっとは距離考えろよ」


ふいに、旭が口を開いた。小さな声だったけど、静かな部屋ではよく聞こえた。

でもなんのことか理解するのに、少し時間がかかった。


「いやっ、あれはルイが……。……ん? ちょっと待って……?」


理解してから秒で否定しようとして、気づく。

まさか……?


「……嫉妬? とか、そういう話?」


まさかね。と、半分冗談のつもりで笑いながら言った。

でも……返事が、ない。


およよ……? と思いながら旭を見てたら、小さくため息を吐いて、スマホを静かに机に置いた。

身構えたけど、旭はなんにも言わない。俺のほうも見てこない。

なんか、さらに空気が重くなったような。気がする。


俺、もしかして……地雷踏んだ?


ていうか……なんで旭のこと、こんなに気になってんだろ……。

まあ、幼なじみだし。気になるのは当たり前か。うん。そうだ、そういうことにしとこ。

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