妄想見えちゃう系男子、腐ってます
スズカナ式
プロローグ
誰の妄想だよ、顔見せい!
他人の頭の中が見える。
……っていうとカッコいい能力っぽく聞こえるかもしれないけど、実際はただの地獄だ。
今日もまた——
「いや、誰だこのクラスメイトと担任のカプ妄想してるやつ! 顔見せい! 逆だろ!」
俺の脳内モニターは、入学早々フル稼働中である。
今日から新学期。俺の脳内劇場も、新シーズンに突入した。
同じ顔の制服、同じテンションのクラス替え。そして、今日も誰かの妄想が視界に流れてくる。
——黒髪男子が金髪男子に押し倒されてる。手を掴んで引き寄せて、ベッドに……ってやめろ! 朝から刺激が強い!
てかこれ誰の妄想だよ!
は!? 今度はそんなカプだと!? 自重せい!
……とまぁ疲れるわけで。
「……お前、また寝ぐせすごいね」
「んー、そう?」
朝の寮室。二段ベッドの下段からのそのそ起きてきた
「つーかオレより先に起きてんの珍しいじゃん」
「そらぁもう……さっき洗面所行ったら、朝から三本立ての脳内BL受信しまして」
「……ふっ、おつかれ」
俺のこの体質——“他人の頭の中が見える”ってやつは、視界の中に入った人の中で一番思いが強いものが、勝手に再生される仕様になってる。
だから、視線を向けるだけで流れてくる脳内映像のせいで朝から満員映画館状態だ。俺の脳内が。
「……それで、寝ぐせのことだけど」
「え、まだ続く?」
ベッドの上段から寝ぐせ指摘を続ける俺に、旭は無表情で棚からヘアワックスを取り出す。
この人、鏡見ずに整髪できるスキルでも持ってんの? 朝から無駄にカッコいいのやめてほしいんだけど。
「そういえば、お前のは見えないんだよね」
「……何が?」
何がって、お前の頭の中だよ。
他人の思考が見える俺にとって、お前だけが唯一の“ノイズゼロ”なんだよなぁ。
見ようとしても、何も映らない。まっさら。
「いや、別に深い意味はないけど。お前の頭の中、いつも見えないから」
「……見なくていいけど」
「いや、気になるじゃん」
「……」
旭は何も答えずに、俺のほうをチラッと見たあと、いつもの無表情でワックスを髪に揉み込むだけだった。
……ずるい。カッコいいし、何考えてるかわかんないし。
こっちは他人の妄想で毎日振り回されてんのに、当の本人はノーダメとか理不尽すぎるだろ。
支度を終えた俺たちは、いつも通りのんびり教室へ向かった。
校舎に一歩足を踏み入れた瞬間——
脳内、上映開始。
「きたきた……」
誰かの頭の中に再生される、男子×男子の青春妄想劇場。
衣装とか構図とか、どこから仕入れてんの? 正直クオリティ高くて泣けるレベル。
席につくと、周囲からも妄想の断片が飛んでくる。
——文化祭で男子二人が手を取り合ってるやつ。
——体育祭で組体操中に“落ちてくる彼”を受け止めるやつ。
——二人きりの部室で「お前のこと、前から……」って言ってるやつ。
「いや、朝から供給過多すぎる……!」
って思いながら、心の中で拍手してた。やはりBLは正義。
「転校生を紹介します」
ホームルーム開始と同時に、担任がそう言った。
教室の空気が変わる。
男子校って言っても、見た目イケメンは正義。なんせ皆さんのこの妄想力ですから。期待感がにじみ出てるのがわかる。
「入って来てください」
担任の一声で、ガラッと扉を開けて入って来て。
教室の前に立ったのは、
金髪、碧眼、童顔、しかも女顔——なにこれバグキャラ?
「
その瞬間、教室がかなりざわついた。
こいつぁ……目立つよな……。金髪碧眼、かなり美形のおそらくハーフ。しかも女みてぇだし。完全に、漫画の中から出てきましたって顔してる。
ふと、斉藤くん? がこちらを見た。
目が合った……ような気がした、その刹那。
俺の脳内に、また映像が流れてきた。
——制服姿の男子が誰かに壁ドンされてる。
相手の顔は見えない。でも、ネクタイの色が俺と同じ。
「……えっ」
思わず声が出た。ドンされた側、つまり受けのほうが、俺だった。
しかもその壁ドンしてる“攻め”のほう——
金髪で、制服の着崩し方がどう見てもさっきの……。
(斉藤くん……? え、いやいやいや)
なんで初対面のやつの頭の中で、俺が受けになってるんですかーー!?
まだ名前も、席も、何も知らないのに、こっち見ただけであんな妄想するってどういうこと?
マジで頼む。
朝から供給過多なのは嬉しいけど、俺を巻き込むのだけはやめてくれ……。
——こうして俺の新学期は、いつも通りの“脳内スクリーン”と、
ちょっとだけ不穏な転校生とともに始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます