過去回想はラスボス戦から

「っ……! もうちょい急げるかおっさん!?」

「こちらも全速力で向かっております!! 聖女様は魔力の温存を!!」

「にぃちゃん……! 無事でいて……!」


 本来なら夜であったはずの大地が突如として出現した火球によって、という異常事態の中で、オレとおとうとは、仲間の一人である巨漢の背にしがみつきながら空を移動する。

 目指すべき場所は、火球が出現した地点の真下――敵対していた『外の神』の根城と思われているところだ。


 『外の神』または『邪神』とも呼ばれる奴等は、この世界の外から襲来した侵略者達のことで、オレ達のようにこの世界に住む人々にとっては怨敵ともいえるクソ野郎どもだ。

 見るだけでも醜悪なやつらが最低な悪意で以てこちらを害してくる……もちろん数世代以上前の聖女を筆頭にそんなクソ野郎どもとこの世界の人々は戦っていたんだが、結果としてはオレたちの代まで続いてしまっている。


 だがしかし、そんな奴らと長い間戦ってきたオレ達や先生たちの執念がついに実り、つい先日、やっとその親玉が潜伏していると思われる場所にあたりがついたことで、さぁ決戦だと入念な準備を整えていたんだ。


 ……そんな矢先に、今のようなことになっているのである。


 夜だというのに空が昼間のように明るくなる……一般人であっても異常事態だとすぐに考えつくであろう状況に加え、現場に急行している今のオレ達にとってはまた別のことも焦らせる要因になっていた。


「これほどの魔力……!! 一瞬でも奴等のものだと思ってしまったことを恥じたいものです……!!」

「熱い……! まだすごく距離があるのに、竜のブレスなんて比べ物にならないくらい熱い……!!」

「ッ……!! 『アイツ』……!! まだこんな隠し玉持ってたのかよ……!!」


 空に浮かぶ火球――もはや『太陽』と言っても変わらないほどの迫力を持つソレから放たれる魔力には覚えがあった。

 魔力の持ち主と思われる『アイツ』は、オレ達の仲間であり、オレやおとうとにとっても大切な存在である男だ。

 いつもはおちゃらけて、でも真面目なときにはしっかりとしている。そして、いつも温かい手で頭を撫でてくれる……そんな男の魔力と完全に同じもので構成された擬似的な『太陽』は、まだ2キロは先の上空にあるというのに凄まじい熱量を持っていたのである。


――しかも、野営地としていた場所にアイツの姿はなくなっていた。


 「まさか、アイツが『邪神』に取り込まれたのか!?」と一瞬だけ絶望を予感させる考えが脳裏をよぎるが、それを上回るほどの最悪の考えが脳裏をよぎっていく。


「ッ!? まさかアイツが言ってたって、『アレ』のことじゃねぇよな!?」

「!? 急いで団長さん!! にぃちゃんが!! にぃちゃんが!?」

「分かっております!!」


 オレ達の悲鳴交じりの言葉に、オレ達を背負ってくれている団長が空中を蹴ってさらに加速する。

 脳裏をよぎった最悪の考えというのは……アイツがあれだけの魔力をというものだった。


――魔力というものは生命エネルギーとほぼイコールのようなものだ。


 だから使えば疲れるし、過剰に使えば気絶もする。

 そんなもんを使って戦うのだから、この世界の戦士たちはその容量を鍛えるようにしていくものだ。

 もちろん鍛えれば容量も大きくなるし出力も大きくなる。

 そうすれば強力な魔法も行使できるし、何度だって連発することもできるのだ。


 アイツだって鍛えていた。それもオレ達以上に死に物狂いで。

 「お前には笑ってほしいからさ。だから悩みの種を晴らせるように俺も超強くなりてぇんだ」ってことをクソ真面目に言っていたアイツは、それこそ、この世界でだって上位に食い込むレベルに強くなっていった。


――だがそれにしては空に浮かぶ『太陽』の規模は何もかも『桁違い』であった。


 大国ですら一瞬にして焼き尽くせそうな熱量の塊が、今から10分程度前から常に空に浮かんでいて、その魔力の波動は周囲一帯の魔力の流れをすべて阻害している。


 あんなの、オレとおとうとが協力しても……いや、『先生』や『龍王』様だとしてもそう簡単に行使はできないだろう。

 それこそ、命を懸けるレベルのことをしないと……最悪の可能性が一秒ごとに更新されていく状況に焦らない奴なんていない。


 あの『太陽』が展開される前に一瞬感じた邪神クソ野郎の不快な気配なんて感じられなくなった。

 まるで、生きた痕跡すらすべて焼き尽くされるかのように。


 明らかにアイツの仕業だ。

 だけど安心なんてできない。


 アイツみたいに肉体はまだギリギリ人間の範疇に収まっているやつが行使するなんて、いくらアイツの中身が前に聞いた通りに『そういうもの』であったとしても……!!


 大切な存在が決死の覚悟で戦っているというのにその場に居合わせることすらできないなんて……!!

 足場が崩れ落ちるかのような感覚は、今までの旅路で感じてきた苦痛以上に受け入れられないものだった。


「頼む……!! 間に合ってくれ……!!」


 不安に押しつぶされそうになったオレは、この世界に転生させてくれた女神様に祈ることしかできなかった。




――だが、状況は更に悪化する。




「……!? 太陽が!?」

「崩れかけている……!?」

「……! 聖女様! 『流星』殿はあそこに居られます!」


 硝子が割れるような音が周りに響いたかと思うと、アイツが維持しているはずの『太陽』にヒビが入り、明らかに崩壊寸前を感じさせるような状態になってしまう。

 「なんでだ!?」という思考が脳裏を埋め尽くす前に、すぐさま団長からアイツがいるという報告が飛んでその場所に視線を向ける。


 視線を向けたのは太陽が展開されている場所の真下。

 そこにはボロボロになった蠢く肉塊のようなナニカ――『邪神』と……



「――――あっ」

「ガフッ――!?」



――胸を触手で貫かれたアイツの姿だった。


 逸らし切れていない。

 心臓が完全に貫かれている。


 輝いていた太陽が崩れていく様は、アイツの命の灯が消えていくかのようだった。


「う、っ――あぁ――」

「にぃ、ちゃ――」

「ッ!! しっかり気を持ってくだされ!! 私が回収します! その隙に流星殿の治療を――!!」


 い、やだ、いやだ、いやだ……

 いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。


 しなないで、しんじゃやだ、おいていかないで、まだなにもかえしきれてないのに。


――まだ、すきっていえてないのに。






「――――《灼炎フレア》」






「……!?」

「!? にぃちゃん!?」


 小さく呟かれたその言葉とともに爆発的に膨れ上がった魔力の波動は、錯乱しかけていたオレたちを一瞬にして正気に戻した。

 その瞬間、胸を刺し貫かれていたアイツの体は燃え上り、それに呼応して崩れかけていた太陽がさらに強く燃え上がる。

 太陽そのものが顕現したかのようなその光景は、まるで神話の中でしか見れないような光景だった。


「なんだよ、これ……!?」

『ギ、ギャァアアアアアアアアア――!!!!????』

「!? 邪神が苦しんでいる……!?」


 地面が融け、そこかしこから火柱が吹き上がる。

 地獄ですら生易しく感じるような光景を前にして絶句していると、邪神の方から悲鳴のような不快な声が聞こえて来た。

 団長の言う通り、明らかに苦しんでいる。あの全てを燃やし尽くすような獄炎の中で。

 まるで逃げようとするかのように空間に裂け目を作ろうとした邪神だったが、すぐさまその裂け目すら『』。



「――いてぇだろ、散々溜め込んどいてよかったぜ。お前のために今までキレるの我慢してたんだよ。今日、この瞬間、この時のために、全部ぶつけるためになぁ……!!」



 じたばたと滑稽なほどに蠢く邪神を前にして、アイツは燃え上る身体をそのままに、一歩一歩と歩みを進めていく。

 その姿はいっそ神々しさすら感じられるが、俺達にとってはそんなものを考える暇すらなかった。


「……!? にぃちゃんダメッ!!! それ以上は死んじゃうよ!!!」

「ッ!! 馬鹿野郎ッ!! そんなっ、そんなのっ!! 本当につもりかよ!!!」


 あれだけの熱量を出すには『先生』や『龍王』様が代償を込みにしたって無理だ。

 それをあの人達レベルではないアイツが行使しているんだ。

 そこから導き出されるのは……アイツは文字通り『』つもりで邪神を殺そうとしているってこと。


 燃え尽きれば……何も残らない。

 身体も、命も、魂も。


 だから止めようとした。


 アイツほどの速さが出ない体で手を伸ばして、アイツを止めようとして……




「――――《滅日の炎》」




――視界が光で埋め尽くされた時、俺は間に合わなかったことを悟った。











「…………いやな夢見ちまったな」


 普段以上に重すぎる身体を起こせば、そこは先程まで見ていた場所とは違う場所……オレの自室だった。


――アイツが邪神を討滅してから1年が丁度経とうとしている。


 世界は平和になった……とは完全には言い難い。

 邪神による被害は無くなったが、その眷属や信者はまだところどころ残っている。

 それ以外にもそれぞれの国でのちょっとしたトラブルとかも。


 でも、あの戦いはすでに過去のものとなっていて、皆は前を向いて進んでいる。


 まだ振り切れていないのはオレ達だけだ。

 おとうとも、オレも、他にも多くの人達がアイツの死を引きずっている。

 それだけすごかったんだってことにもなるが、喜べるわけがない。


 だって、本当に大切な人だったんだぞ。

 隣にいることが当たり前で、笑い合っているのが普通で、いつか結ばれたいとも思っていたアイツがもういないんだぞ。


 そう簡単に振り切れるわけがない。


 でも、そうだな……


『俺がいなくなった後も、頼んだぜアウロラ!! 俺はお天道様にでもなって皆を見守っているからな――!!』


「アイツに言われたんだ。やるしかねぇだろ」


 そう、アイツに言われたんだ。

 ならアイツがせめてあの世で笑っていられるように、気合入れて今日も書類との睨めっこを……


――と考えたところで、膨大な魔力を感じて意識を切り替えた。


「ッ!? 誰だこの魔力!? 襲撃か!?」


 こんな平和になった世の中でバカやらかそうとしているのは誰かと、魔力を感じた方向に意識を向ける。


 感じた方向は俺のいる場所の真上。

 はるか上空からなにかが落下してきているのを感じた。


 しかも何やら叫びながら落ちてきている……感覚としてはひもなしバンジーをさせられているかのよう、な……?


「え――」


 そこまで来て、俺は落下してきている人物の魔力を感じ取った。


 燃えるような熱い膨大な魔力を持った人物。

 だが『龍王』様ではない、だって、この魔力は――!!


「ほげぁっ!? へぶっ!!?? か、顔と腰がぁ……!!」


 天井をぶち抜いて落ちてきたのは、俺と同じくらいの年齢の男だった。

 落ちてくるときにぶつけたのか、顔と腰をさすり、痛みをこらえている。

 普通なら不審者として速攻で排除していたのだが、今はそんな気も起きなかった。


「――――お、まえ」


――そこにいたのはアイツだった。


 あの時、魂すら燃やし尽くして死んでいたはずのアイツだった。


「――――な、んで」


 偽物を疑わなかったわけではない。


 だが、直感はあいつだと叫んでいる。


 嘘だ、偽物であってくれ、だけどこいつは本物だ、本物なんだ……疑う気持ちと信じたい気持ちがごちゃ混ぜになりかけて……でもアイツの声を聞いたら、そんなことも吹っ飛んでしまった。




「あー……オホンッ! よっ! 久しぶりだな――ヘブラァッ!!??」

「ッ――!!」

「アッ! シマルシマル!! クビシマッテルカラァ!!!」


 馬鹿野郎、何してたんだよ、オレの、オレ達の大切な――




 こうして、 突然抱き着いてきたオレに抗議するように、背中を軽くたたいてくるアイツ……いや『相棒』の胸元に縋りながら……



――オレ達は再会したのであった。

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俺氏、女神様のおかげで復活し、「平和になった世界」に戻ってみたのだが…… ~世界を救った英雄、復活したと思ったら皆からの感情が重くなっていました~ クラウディ @cloudy2022

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