第12話 集落再生
カリカリカリ
地面に絵を描く音だけが、静まりかえった大森林に響く。
……あ、遊んでいるわけじゃないからね!?そこのところ、しっかり把握しておけよ!
僕は地面に描き終わった
――――これはうますぎるな。
よもや、自分の絵の才能にほれぼれしてしまうとは思わなかった。
どこをとってみても完璧だ。
僕の絵を、ディーは興味深げに眺める。そこには深い苦悩の色が見えた。まるで困惑しているようだ。
なんでだろう……?
もしかして……ゴブリンたちは地上の家が分からない!?(お前の絵が下手)
いや、でもさっき家の説明したときは理解してそうだったのにな……
しょうがないので、僕が率先して木を集めに行く。ここで大事なのは、オウリアムの木を使わないことだ。
え、僕はオウリアムの木に陶酔しているのに何でかって?
――――お前、火の気があったら爆発する家に住みたいのか?変わり者だな。
まぁ、そんなこんなでイマジナリーフレンド――通称『イマちゃん』に語りかけながらよさげな木を探す。
軽くて、耐久性や耐水性があって、丈夫で腐らない。そんな魔法の木がないかな……
……?
思わず足を止めた。
目の前には、巨大な老樹がある。木は乾燥していて、若干しなびている。だけど、強烈なプレッシャーを感じる。まるで今にも動き出しそうな……?
そんなわけないよな。
一瞬トレントという魔物が頭に浮かんだが、すぐに振り払う。このプレッシャーが何かは分からないが、家づくりにはよさげな木だ。
この巨木を活かすためにも、いっそツリーハウスにしようか。
「ぎゃおっ!」
訳:来いっ!
僕の呼び声に、ゴブリンたちはぞろぞろと集まってくる。
まだ巣穴を失ったショックが強いのか、ゴブリンたちはうつむいている。
その時、先頭のゴブリンが鼻を軽くひくつかせた。
ぴくっ、ぴくっと鼻が震える。目がトロンとして、何かに酔っているようだ。
顔がみるみるうちに輝いていく。
「へぐっ!へぐっ!」
ゴブリンたちは次々と老樹に抱き着く。中には頬ずりをして、ペロペロと舐めている者さえいる。
――――ナニコレ?
ゴブリンたちがおかしくなった。そんなに、この老樹がおいしいのかな?
僕は老樹の周りをグルグルと回る。
……お、これいいな。
裏に大きめの穴が開いていた。ゴブリン一匹分は楽に入れる。
というか、何か口みたいだ。覗き込むと、上へ上へと穴が続いていた。
――――ちょっと入ってみてもいいよね。
僕は中へと入り込む。その瞬間、木が大きく振動した。
反応するように、僕の腰蓑から光があふれ出す。
青と緑の光、そして白い煌めきだ。
光が弾け、渦巻いていく。僕は慌てて外に飛び出した。
光は外にもあふれ出てる。老樹を中心として、暖かみを感じる光が広がっていた。
ゴブリンたちは、当然のようにひざまずいていた。
……うん。まぁ、こうなってるんじゃないかなとは思ってた。
思い返されるのは、ディーの武器強化イベント。あの時も同じように、光が散らばっていた。たぶん……
僕は腰蓑に入れていたはずの魔石を確認する。
――――ない。
……ですよね。今度はちゃんと予想できてました。
あくまで予想だけど、この世界のものは魔石を使って強化できる。きっと、魔力的な不思議パワーを吸い取っているんだと思う。
空に高く高く打ちあがった光の柱。
雪のように、ひらひらと光は舞い降りる。光は渦を巻いて、老樹の頂点から吸い込まれていった。
老樹の枝先が、ピクリと揺れる。
頂点から淡い光が波のように広がり、幹をつたってゆっくりと根へと染み込んでいく。かさついた樹皮がしっとりと潤い、小さな芽がひとつ、そっと顔を出した。
風が吹き抜ける。
芽は震えながらも、しっかりと枝にしがみつくように伸びていく。
一枚、また一枚と若葉が開き、枝先にみずみずしい緑が広がっていく。
枯れていたはずの老樹が、静かに、しかし確かに蘇りつつある。
根元の土がやわらかくなり、周囲の草にも力が戻っていく。
光を浴びた空間だけが、時間を巻き戻したかのように、命の色で満たされていく。
老樹のてっぺんでは、小さなつぼみが、風に揺れながらゆっくりと膨らみ始めていた。
老樹は、いやもはや老樹ではない。生命力に溢れる巨木は、再生を喜ぶように葉の茂る枝をユサユサと揺らしていた。
――――――――――――――――――――
さて、いったいこの木はなんでしょうね?
ところで、サブタイの『集落再生』まで話が進まなくてすいません。
実は、トレン……ゲフッゲフッ。なんの変哲もない巨木は書いている途中に思いついてしまったアイデアなんです。プロットガン無視です。
そういう訳で、おうちを立てるのは次回です。
ぜひ、続きを読んでみてください。
丸兎
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