26【ミ】序:それはボロアパートの押入れの中
立川市郊外。駅から最も遠く離れたところにある築四十年のオンボロアパート。周りはいまだに畑があちこちに残ってはいるものの、工事中の建売分譲地やら、軽量鉄骨アパートやらがそこらにある。そんなアパートの一つ、その一階の端が僕の部屋だ。狭くオンボロだが、かろうじて追い焚き風呂とシャワーがついているのが幸いだ。
別に稼ぎが悪くて、こんなところに住んでいるわけではない。引っ越しが面倒で、大学卒業後に就職してもそのまま住んでいるだけだ。
六畳一間にところせましと、本がうず高く積まれているのを動かすのも嫌だというのも、引っ越しが面倒な理由。
近頃は流行り病の影響で、通勤をずにアパートで仕事が出来るようになった。そんな事もあり、少しは本の整理をしようと決意し、金曜の夜から取り掛かっているのだが……。
現在、土曜の正午。そろそろなんか飯でも食いにいくかな、と本の整理を一時中段して、外出用の芋ジャージに着替えた。
ふと気がつくと財布が見当たらない。スマホも。
あれぇ、どこに置いたかな。本をあちこちに動かしている時にポンとそこらに置いてそのままにしていたかもしれない。見つからない。
さて、困ったぞ。と、その時、スマホがけたたましく着信を鳴らした。
——ポロロロン、ポロロロン
やった。これでスマホの場所が分かる。見つけた。トイレの脇に一メートルは積まれた本の上にポンと置かれていた。バイブレーションも動作しているので、震えながら今にもその本のタワーからずり落ちそうになっているのを慌てて手にとった。
——チャッ
「はいよ、僕だが?」
(——「よう、オレだ、サトルだ。相変わらず部屋に籠もって読書でもしていたか?」)
「うるせえ、お前だって、ずっと部屋に籠もってパソコンだろ」
(——「まあいい、実は俺の部屋で、すごいものを見つけたんだ。ところで飯はまだだろ? 駅前でなんかくわねーか? 見せてやるよ」
「いいねえ、丁度なんか食いに行こうとしていたところだよ」
(——「そうか、じゃあ、駅北口前で待ってるわ。すぐ来いよ」)
「おう、待ってなー」
サトルの言う、すごいモノとは一体なんなのか。まぁ大体察しはつくが、また押入れの古い地層の底から昭和的な何かを発掘したのかな?
*
畑と住宅街が入り乱れている細い道を、駅に向かって歩くこと三十分。ようやっと立川駅の北口まできた。遠いなぁ。
あたりを見回してみたがまだサトルは来ていないようだ。口っぷりから既に立川駅にきているような感じだったのだが。
——ポロロロン、ポロロロン
スマホが鳴った。サトルかな? 画面を見たら久保聡と表示されていた。
——チャッ
「もしもし? 僕だけど? お前いまどこにいるの?」
(——「すまん、ちょっと行けそうにない……う、うわぁぁぁ、プツン」)
——ツーツーツー
「もしもし? もしもーし?」
あいつ一体何やってんだ? 気になるな。もしかしたらまだあいつのマンションにいるかもしれないから、ちょっと見に行ってみるか。
—— 破へ つづく
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