第2話 残酷な神が支配する
『ポーの一族』『トーマの心臓』『11人いる!』などで有名な萩尾望都の作品です。彼女は紫綬褒章を授与された大御所漫画家で、この作品は第一回手塚治虫文化賞優秀賞をとってます。
残酷描写あり・暴力描写あり・性描写ありのタグが付く作品でもあります。今時の少女漫画はけっこう過激な描写があるようなのですが、これはR12ぐらいかな?
大勢の人がこの作品について語っているはずなので、私が語るのもなんですが、チャレンジしてみます。
あらすじ(ネタばれあり)
16歳のジェルミは母の再婚相手である義父のグレッグに性的虐待を受け続ける。思い余ったジェルミはグレッグの車に細工をして彼の殺害を計画する。しかしその車に愛する母が同乗していて、母も死んでしまう。グレッグの長男のイアンは父の死に疑問を抱き、ジェルミを追及する。真実を知ったイアンと、人生が狂ったジェルミのふたりはとんでもない泥沼の関係に陥ってゆく。
簡単に言えば上記のようなお話です。同性愛、SM、売春、ドラッグ等てんこ盛りですが、其処は萩尾望都、単なるBLやレディースコミックにならない作品に仕上げています。
際どい話と対照的なのが絵の美しさです。登場人物の服装、風景、家具・調度品が細かく描かれています。そして大勢の登場人物は老若男女、さまざまなタイプがいて、きちんと描きわけられています。
この作品は考えさせられて面白いのですが、ここに登場する人物達に共感はできませんでした。敢えてわかると思ったのはナターシャとナディアでしょうか……。
ナターシャは、グレッグの先妻であるリリアの姉です。リリアが自殺した時にお腹にいたマットを取り上げて、母親代わりにイアンとマットを育てます。グレッグに鞭で打たれていた過去があります。ジェルミが虐待を受けているのを知りながら助けてあげませんでした。それは、かわいがっているマットに危害が及ぶのではないかとの恐れからでした。自分のエゴに気づきながらもマットを庇う母性はわからないでもありません。私が彼女だったら、同じ行動をとったでしょう。何人かの子供が危ない時、まず自分の子を助けますよね。しかしその行動が後々まで彼女を苦しめます。間接的に、ジェルミが殺人を犯すのを促したとも言えます。
ナディアはイアンの恋人でした。ジェルミにイアンを取られた彼女は、しつこいと知りながらジェルミの何処が好きなのか、イアンに聞いたりします。母親に恋人を取られた過去もあります。作者は彼女に「家族って運命共同体みたいなものだ」と発言させます。
萩尾作品の底を流れるテーマは「家族」であるのは否めません。『イグアナの娘』では母と娘の、『メッシュ』では父と息子の確執が描かれています。『メッシュ』のある登場人物に「ああ、なんで自分の家族が好きじゃないんだろう」と言わせていました。
萩尾望都の両親は、彼女が漫画家であることを認めていませんでした。かなり有名になっても「漫画じゃなくて、童話作家になりなさい」と言われたそうです。
残酷な神とは一体誰のことか?一見するとグレッグのことだと思われます。この漫画で私が一番怖かった場面は、身ごもったリリアが編み物をしているのをにこやかにグレッグが見ているところです。彼女に近付いたグレッグは耳元で「死ね」とささやきます。笑顔のまま……。お腹にいるマットが自分の子ではないと誤解しているのでした。絶望してリリアは自殺しますが、マットのことを考える余裕がなかったのでしょうか?グレッグに疎まれるマットはメッシュのようにファザコンです。
ジェルミの母、グレッグと再婚したサンドラ、彼女は多いに問題ありでした。前夫であるジェルミの実父が急死した後、サンドラは未だ幼いジェルミに依存します。無意識かも知れませんが。ジェルミはサンドラをなんとしてでも守らなくてはと洗脳されたとも言えます。それが後の悲劇につながるのです。グレッグの虐待にうすうす気づいていながら、その弱さから、そんなはずはないと彼女は思い込もうとしています。
思い込みはイアンもです。父がジェルミに虐待するはずないと、ジェルミが告白したのを信じられません。ジェルミは「真実を知りたいといいながら、真実を話せば違うという。あんたどんな真実が知りたいわけ!」とイアンを恨みます。人は自分の都合の良い話しか信じられないのかも知れません。
又、後に、イアンの行動でこれはアカンと思ったのは、ジェルミに「僕のところまで堕ちてこれないだろう!」と挑発されて関係を持ってしまうところです。物語の展開としてはすごく面白いのですが、いけません。人を本気で救おうと思ったら一緒に溺れたら駄目ですね~。ひとりでなんとかしようとしないほうがいいです。だって父と強制的に関係を持たされた子と、父を殺した子と関係を持ってどうするんですか!?
『残酷な神が支配する』は色々ツッコミどころのある作品です。終わり方もカタルシスがあるとは言い難いですが、引きこまれてしまいます。残酷な神とは何なのか、人それぞれの解釈ができる作品です。気持ちが落ち込んでいない時読むのをお勧めします。
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