第23話
灯里の大音声は、庭園を揺るがすほどに轟いた。
男たちが身をすくませ、動けなくなる。
もともと舞台女優ばりに声量がある灯里だが、ステージの上は音響効果を高めた作りのようだ。
灯里は男たちを
甘い声音になる。
「あなたたち。わたくしのかわいいしもべたち」
男たちの表情に、陶酔が満ちる。
今度は灯里の声に叱責が混じる。
「わたくしの庭園に、なんてことをしてくれたの。めちゃくちゃに壊れてしまったわ」
男たちが怯む。
「あなたたち。いいえ、おまえたち」
灯里の面から金色の眼光がきらめく。
「おまえたちなど、しもべから、家畜に格下げしてくれるわ……」
言われた瞬間、腰を抜かした男がいる。
ショックを受けたのかと思いきや、目が歓喜で潤んでいた。
後ずさりしながらクロのいる物陰に静かに戻った道弥は、自分も座りこんだ。冷汗をかいている。
「こっわ……!」
「支局長、おつかれさまです」
灯里は声をはりあげた。
「おまえたち! そこに一列に並びなさい!」
男たちは池の前に、ぴしりと横に整列した。腰を抜かした男も飛び上がって並んでいた。
灯里が橋を歩いて渡り、向かって左側の男の前に立った。
面ごしに微笑み、男の目を見る。
右手をのばし、男の頸動脈あたりに指を当てた。
少しかがませ、なにごとかを囁いた。
「っっ……!」
男はへたりこんだ。
目は潤み、口は半開き、恍惚の表情で。
物陰でクロが言う。
「エナジードレインしてません?」
「ヒュプノと魅了だろう。しかし少なくとも彼らに、血だか生気だか吸われている
効果絶大である。
「いや、本当に吸っているのかな、まさか」
3人めが、逃げられなかったバービーである。
しおらしくしているが、灯里信者が地味な男たちなのにひきかえ、長身で腕も胸板もあり、顔もバタ臭いイケメンである。
灯里はバービーを見て、さわるのもいやだというそぶりをした。
「わたくしは、美食家なの。あなたはいらない。下がりなさい」
それを聞いた男たちが、誇らしげに笑った。
バービーは傷ついた表情をしながら静かに後ずさりで下がり、そのままそろりと、道弥とクロのいる物陰に逃げこんだ。
「やあ、不味い男が戻ったぞ」
「不衛生かもしれませんよ」
「灯里さんの機転でしょうが! 泣くわよ?!」
道弥とクロの軽口に泣き真似をしながら、バービーは大きく吐息した。
「寿命が縮まったわよ……!」
「災難だったな。どうしてこうなったんだ?」
「俺も気にして、ちょっとだけ店の外まで様子を見に行ったのよ。店は聞いていたし、俺もよく行くとこなの。生田さんたちを見つける前に夜光さんに会ったから、挨拶しただけよ。知らない仲じゃないしさあ。そうしたら、わけわかんないこと言われて拉致されちゃったの」
クロがたっぷり同情する。
「理不尽ですね」
「狂人を相手にしたことは何度かあるけど、あいつらはホンモノよう。あ、ためらいなく殺されるって思ったわ」
「バービーが男前だから、なにか彼らの琴線にふれたのだろうか」
「ふん、嫉妬なら、ダンナの斉藤繁を暗殺すりゃいいのにね!」
「仮面夫婦だと思われているのだろうな」
道弥の言葉に、3人とも、ちょっと笑った。
◼️◼️◼️
最後の男が幸せそうに放心して、無事に腰を抜かすと、灯里は、
「では、これからどうしましょう?」
と、デュラハンに向き直った。
デュラハンは一礼し、バイクにまたがり、エンジンをかけた。
振り返りもせず、今度は橋を渡って池の外に走り出す。
「あら? あらあら」
バイクは道弥たちが隠れている物陰近くで止まった。
「やあ」
道弥がのんきに近づく。
女は、ライダースーツを着ているために、ボディラインを隠していなかった。
「峰不二子みたいだね。今夜はブラをつけているの?」
道弥の軽口に、レディもバービーもクロもあきれたが、一度肩をすくめたレディは、うなずいた。
「今夜も助けてくれたんだね。身内が大事件の当事者になるところだった。ありがとう」
道弥はさらにレディに歩みより、ごく自然に……抱きしめた。
道弥は人前でスキンシップをしたがるタイプではない。それでも、今はほしかった。
(誰が見ていても気にならない。
彼女はぼくのものだ)
レディは、道弥を突き飛ばしたりしなかった。
自らも道弥の背中に腕を回し、ヘルメットの頭を道弥の肩に押しつけた。
(うーむ。ヘルメットもライダースーツも硬くて冷たい)
短い抱擁がほどけると、道弥は、レディのバイクの後部にまたがった。
「じゃ、あとは頼む」
「みっちゃん?!」
「少しだけ、ぼくらもデートしていいんじゃない?」
「みっちゃん?!」
バービーの声がひきつっている。
「灯里ねえさん! ぼくもすぐ戻りますが、なんでもできるこの男が、後始末を手伝います! バービー、うちの警備に連絡して、ここにいる全員を支局に搬送してくれ」
クロも数歩、踏み出した。
「支局長!」
しかし、ノーヘルの道弥を乗せて、アメリカンバイクは勢いよく走り出した。
バリバリとけたたましい排気音が夜のしじまを切り裂いて。
レディと道弥は、破壊された庭園の外へと消えていった。
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