第21話

ユミこと生田夢子が、斉藤灯里に迫る。

生田を守るつもりだった道弥とクロは、息を飲んで見守るしかない状態で、物陰に隠れている。


そこへ。


ドゴン! ドカン!


搬入口から激しい破壊音と、けたたましいエンジン音が響いた。


灯里もユミも道弥もクロも、一斉にそちらを見る。

搬入口を破壊しながら、工事用トラックと、後ろからは古ぼけたセダンがなだれこんできた。


(なにごと?!)

全員が目を丸くする。

しかもセダンはバービーのもので、運転しているバービーは苦しげ、首には布が巻かれている。後部座席から誰かが首を絞め上げているのだ。


トラックは美しいフェイクツリーや光るたんぽぽ、熱帯魚の映像を流すドームを破壊して、光ファイバーの噴水をも破壊して止まった。

セダンも止まり、後部座席から男が降りてくる。


夜光やこうさんじゃないか」

驚いて、道弥がつぶやく。

「どなたです?」

「榛名探偵社の調査員だよ。重宝させてもらってる。今夜も灯里さんと生田さんにつけていたんだ。以前、フィットネスでも生田さんの連絡員としてお願いしていた。……しかしさっきは、嘘の報告をしていたわけだけど……」

「調査員向きの見た目ですね」

「わかるかい」

印象に残りにくく、服装次第でどこにでも溶け込める外見である。今夜は灯里とユミのデートを尾行しているため、無難だがたいていの場所で侮られないようなスーツ姿だ。

セダンの運転席から憔悴したバービーが出てくる。手にしているのはさっきまで自分の首を締め上げていた布。男物の靴下だった。気づいて、忌々しそうに地面に投げる。


トラックも、運転席から、助手席から、後部座席から、荷台からまで、わらわらと人が降りてくる。

スーツ姿、パーカーにデニムと、服装も年齢もばらばらで、バービーを除いて総勢15人。全員が男性だ。彼らは池の近くにいた灯里とユミを、遠くから取り囲んだ。

じわり、と距離を詰めてくる。


道弥が飛び出そうとするのを、クロが抑える。

「今じゃありません!」

どういうことかと道弥がクロを見ると。

新たなエンジンの爆音が轟いた。


破壊された搬入口でそれは一度止まった。

全員がそちらを見ると、1000㏄を超えるアメリカンバイクがそこにあった。

ライダーは注目を集めたのを確認して、激しくエンジンをふかした。

そして、矢のように発進した。

流星のような早さでバイクは池へと疾走し、男たちはあわてて道を開ける。


巨大なアメリカンバイクはジャンプして、なんと、池を飛び越えた。

あまりに激しく、また現実離れした光景だった。

道弥の口が、あんぐり開く。


ドシン!

音を立てて中央のステージ、巨大時計の前に着地したアメリカンバイクは、ギュルリとまた音を立てて回転し、前を向いて止まった。

ライダーは女だった。

黒いバイクスーツの胸は、レザーをはち切れさせそうだ。

フルフェイスのヘルメットから、肩を覆うくらいのブラウンの髪が流れている。

女はヘルメットを取った。


------------


何人かが悲鳴を上げた。


女はヘルメットを小脇にかかえた。

重量感のあるヘルメットからは、ブラウンの髪が流れている。

女の背後には青く輝く巨大時計。

女の首があった場所には背後からの青い光、まぎれもなくそこに『何もない』と主張している。


女はバイクから降りて、巨大な時計の分針に右腕を伸ばした。ユミがミステリに使われそうだと評した、金属製の2mほどの分針。

固く止められていたはずの金具がぽろりと取れて、女は分針を手にした。

手にすれば、それは槍である。

女は分針の槍を頭上にかざし、その場の全員が恐れるほどの激しい風切り音をさせ、片手で豪快に振り回した。名のある武将がかくあるような、感嘆すべき腕前である。


灯里が小さく叫んだ。

「デュラハン……!!」

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